第四章 暗中飛躍
四章 暗中飛躍
二人は次はどこに行こうか迷っていた。資金も十分に貯まり、京都御所は回りきった。その時に、尾張の織田に仕えている側近が現れたのだ。それに、尾張は最近すごく栄えていると言われている。これらを踏まえて、次の目的地が尾張となったのだ。なので、側近に帰るついでに尾張を案内してもらおうと二人で話し合ったのだ。側近にそれを話したら、了承してくれた。そのお礼とは言ないが、仮の拠点を少し改良し、側近が短期間過ごせるような簡易の小屋を作った。京都御所の近くの宿はとんでもないくらいに値段が高い。そのため、少しはお礼になるかと思ったのだ。
夜に、依頼の報酬をもらって帰った。
ー縲麟ー
縲麟は満月の夜に月の化身に願いを頼んだ翌朝、仲のいい武官から知らせをもらった。詰所に賊が縛られて置かれているというものだった。だが、誰がそんなことをしたのかはわかっていない。その知らせを聞いた時に縲麟は舞い上がりそうになった。月の化身が願いを叶えてくれたのだ。それにより、縲麟はとても強いからちょっかいを出さない方がいいと思われたらしく、上司からの無茶振りが劇的に減った。
上司の無茶振りが減ったため、休暇が増えた。縲麟は休暇中、ふと思った。月の化身はなんなのか。人ならざる者なのか、それとも月の化身と偽っている人なのか。人だとしても、感謝することには関係ないが、ふと興味が湧いたのだ。そこで縲麟は、家族にも言ったことがない能力を使った。そう、縲麟は稀有人なのだ。
縲麟の能力は[博識]。つまり、さまざまなことを知れるのだ。なぜそれを賊の始末で活用しなかったのかというと、使っても意味がないと判断したからである。そもそも使おうとしても能力は発揮できなかった。なぜなら、縲麟の[博識]は自分の気持ち次第で能力の質が高低するのだ。賊の始末を上司から無茶振りされた時は、寝不足と仕事が溜まっていた。そのため、気分は最悪だったのだ。無理に気分を上げても能力の質は上がらない。それに、[博識]はそこまで詳しく知ることができない。知れることは、例えば、名前とちょっとした説明だけみたいなものである。それに、通常は目に見えるものなどしか知ることはできない。だが、たまに気分がとても優れている時に探偵のように部屋にある些細な証拠などでその部屋で何があったのかを知ることができるのだ。
今は休暇が取れて、しかも、自然に興味が湧くという現象が起こったのだ。そのため、月の化身が何者かということくらいなら知れるだろうと思った。
縲麟は早速[博識]を使った。すると、わかったことは二つ。月の化身は二人の忍者であること、目が赤いことであった。
目の色や身長などからして兄弟なのだろう。この世の中では赤い目は不吉の象徴である。そのため、人目につかないようにこのような方法をとったのだろう。実に不憫な思いもしてきたのだろうと思った。実際にはそのような理由ではないと知らない縲麟は二人をかわいそうに思い、涙ぐんだ。
休暇明け、縲麟は天皇に呼び出された。天皇に呼び出されるのは久しぶりなので何かと思った。
天皇は縲麟に尾張に行くように渋々命じた。天皇は縲麟のことをとても気に入っていた。だが、尾張が勢いづいてきたので偵察に優秀な武官を向かわせなければなかった。しかし、偵察に向いてて優秀な武官は縲麟しかいなかったのだ。それで仕方なく縲麟に命じたのである。
縲麟は天皇に命じられた次の日から尾張を目指して馬を走らせた。
ー満月の夜から数日ー
側近はもう京都御所の様子を観察し終わったようで、今夜には尾張に向かうらしい。なので、仮の拠点が見つからないように隠滅した。
皆が寝静まった頃、側近と桜月と晃月は京都を出発した。
出発してから五分ほどして、側近が息切れしながら言ってきた。
「お、お前ら、速すぎ、、」
「「速い?どこが?」」
桜月と晃月は同時に首を傾げた。二人はいつもの速さで進んでいた。だが、これは二人が異常だったのだ。二人の進む速さは忍者の全力疾走くらいだった。もちろん、二人はそれ以上の速さも出せる。
「まさか、自覚ないのか?」
側近が絶望したような顔をした。この二人の速さについていける自信がないのだろう。側近はついていくことを諦めて、二人に速さを落としてくれと頼んだ。
「そういえば、俺のことなんで側近呼びなの?俺の名前知らない?」
側近はこのことを長らく聞きたかったが、聞き出す時間がなかったため、ずっとこれを聞きたいと思っていた。なので、聞けて満足そうにしていた。
「千鳥でしょ。知ってるよ」
桜月が当たり前でしょとでも言いたげな顔で答えた。
「まあ、側近サンって呼び方が定着しちゃったから、仕方ないよね」
晃月が笑顔で言った。側近は微妙な感情だったが、納得するようにしたようだ。そこから、二人は速さを落として、側近に合わせながら進んだ。
本当は朝までには尾張に着く予定だったが、側近に速さを合わせたため、翌日の昼頃に尾張に着いた。
尾張はここ最近栄えていると聞いていた。しかも、戦で何度も勝っているそうだ。なので、桜月と晃月は楽しみにしていた。
尾張に着くと、城下町の大通りにはたくさんの人と店があった。京都御所の市場では美しいものや値段が高いものが多かった。それに比べて尾張の市場は様々なものが売られており、値段の高いものから低いものまで大量にあった。
側近に聞いてみると、尾張の大名、織田信長がたくさんの商人を集めて、様々なものを売っているそう。
「そういえば、側近さんは織田信長様のところから離れても大丈夫なの?」
桜月が不思議そうに聞いた。晃月もそれを不思議に思っていた。何せ、二人は普通の上級忍者の仕事についてほとんど知らないのだ。
「大丈夫だよ。上級忍者一人に匹敵する中級忍者数人付けてるし、そもそも、信長様は中級忍者だと相手にならにくらいにお強いからね」
俺はまだ勝てるけどね、とか言って側近は軽く笑った。中級忍者に勝てるほどの強さなら、そこらの大名より強い。だが、桜月と晃月にとっては大したことがないと思ってしまう。
しかし、織田信長は強さだけではない。その証拠として、市場がこれほどまでに多様だ。それに、戦が多い割には民が幸せそうである。信長は大うつけと言われているのをよく聞くが、もしかしたらそう振る舞っているだけなのかもしれない。
側近が桜月と晃月に尾張の観光名所とも言える場所を案内し終わった。二人はすごく満足そうにしていた。
「私たちは仮の拠点を探しに行くわ」
桜月が側近に話した。すると側近はおすすめの宿を教えてくれた。その宿は人目も少なく、室内は綺麗で値段もさほど高くなかった。なので、その宿を仮の拠点とすることにした。
その日、桜月と晃月は尾張を満喫した。
翌日、宿に側近が来た。
「桜月、晃月。信長様と会ってみないか」
「「えっ、」」
桜月と晃月は驚いた。まさか下級忍者の自分達が大名に呼ばれるとは思わなかったからだ。
「というか、信長様が会わせろって言ってきたから、実質強制なんだよな」
側近は謝りながらお願いしてきた。二人にとって大名に呼ばれるなんて初めての出来事であったため、どうしていいか困っていたが、二人とも意見は同じであった。こんなにも素晴らしい城下町を作った人だ。もちろん、会ってみたいと思うに決まっている。
「「会う!!」」
この時の二人は側近が謝っていることに気づかずに返事した。
桜月と晃月は忍者装束を身にまとい、尾張の城、清洲城へと向かった。
側近はというと、清洲城で先に待っているそう。
清洲城の中に入ると、複数の忍者が天井裏で襲いかかってきた。二人は最初、クナイを出したが、すぐにしまった。なぜなら、襲いかかってきた忍者の武器の刃先が潰されていたからである。なので、二人は体術で忍者どもを気絶させた。その瞬間、天井裏の足場が割れた。二人はそれを避けることもできたが、側近の気配がしたので、わざと落ちた。
落ちると、目の前が金色で眩しかった。部屋中が金色の壁だったのだ。すると、大きな拍手が金部屋に響いた。織田信長が拍手していたのだ。
「実に素晴らしい!!」
目を輝かせて拍手をしている。
「信長様がすまん、どうしても聞かなくてね」
側近が手を合わせて、謝罪の格好をしている。
なぜこんなことになったのかというと、側近が信長様に自分が完全に負けてしまったと話したことが発端らしい。
その話が本当かどうか確かめたいと信長様が興奮気味に言って、強さを試すために、刃先を潰したクナイを中級忍者複数に渡し、天井が少し開くようにしたという。
まあ、つまりは全て側近のせいということだ。
桜月と晃月は試されたのを少し不快に思い、側近に甘味を奢ってもらうことで許した。
さて、尾張の大名、織田信長の前だが、斎藤道三のような威圧感はない。だが、どこか獅子のような存在を感じさせる目をしていた。どこか不思議な大名であると認識した。
「お主ら、我のもとにこんか?」
信長が桜月と晃月を誘った。その顔は真剣そのものである。
「誠に申し上げにくいのですが、遠慮いたします」
桜月がそう言うと、信長の顔が急に怖くなった。威圧感も出ている。
「ほう、して、理由はあるのだろうな」
「私どもは旅を目的としております。それは今までも、これからも変わりはありません」
晃月が真剣に答えた。
「…そうか、」
信長の威圧感がなくなり、少し残念そうである。その様子を見て、桜月は提案した。
「残念ながら信長様に仕えることはできませんが、お手伝いすることはできます。私どもは旅を続ける中で金銭を手に入れるため、各地で依頼を受けているのです。なので、何か困ったことなどがあればお手伝いいたしましょう」
尾張に来て、まだ依頼を探していなかった。なので、尾張の大名に提案してもいいだろうと考えたのだ。可哀想とも思ってしまったが、。それは内緒である。
「…ならば、もうすぐ起きる戦を手伝ってはくれまいか?」
信長は少し考えてから戦の前のような表情で頼んできた。戦闘狂の二人にとって、その表情だけでも覚悟などが充分に理解できる。
「「ええ、もちろんです」」
二人はひざまづきながら実に嬉しそうに笑みを浮かべた。なぜなら、二人にとって初めての戦となるのだから。
賊の退治などはやってきた二人だが、戦に関わることは一度もなかった。けれど、桜月と晃月は戦に憧れを持っていた。なぜなら、情報収集に敵の始末、暗殺など、自分達の能力を一番発揮できることだからである。
「信長様一つ、申し上げます」
桜月がこれだけは言わなければと信長に発言した。
「なんだ」
「私どものことは書物などに記さず、誰にも他言無用にお願いします。何かしらおっしゃるときは、下級忍者とでも言ってください」
二人は忍者である。しかも、不吉の象徴が固まったような存在だ。旅を続けたい二人にとって誰かに知られることは御法度なのだ。
“本当の忍者は誰にも知られることなく終わる者なのだ“。これは梓がよく言っていた言葉だ。これを聞いた時から二人はこの言葉のように誰にも知られずに終わる者になりたいと努力してきた。そのため、自分達と関わる人には記すな、伝えるなと言い、それを破れば桜月と晃月にわかるようにしてある。これは二人の能力の合わせ技である。これを作り出すのには数年の年月をかけた。努力の結晶である。
信長の戦の手伝いをすることになってから、清洲城に泊まり込んでいた。信長曰く、『わざわざ呼びに行くのは面倒だ』ということらしい。
戦についてだが、敵は騎馬隊で有名な武田勝頼らしい。勝てるのだろうかと思ったが、徳川家康も参加するらしく、戦力はこちらの方が有利だ。それに、自分達が手伝うのだ。勝利は確定だろう。
信長にも勝つ算段があるらしく、心配は無用であった。
戦になるまでにはまだ一ヶ月ほどは絶対にあるらしく、桜月と晃月は側近や信長と一緒に手合わせをしたりしていた。一週間ほど経つと、自分達には勝てないことがわかったのか、側近が教えを乞うてきた。それを聞いた信長は『俺も参加する』と言ってきた。
信長は晃月が教え、側近は桜月が教えることになった。
晃月は力技が得意だ。そのため、器用と言うよりも力を使うような信長を教えるそうだ。二週間では筋力を鍛えるのは難しい。なので、攻撃力の高め方、受け流すやり方など、様々なことを教えた。
桜月は器用で様々な暗器を使いこなすことができ、素早い。そのため、糸を武器に使う側近を教えることにしたようだ。側近に糸の詳しい使い方、避け方など、糸に関することをほとんど教えた。
信長と側近に戦い方を教え始めてから一週間が経った。
最初の頃と比べると、格段に強くなった。なので、実践に対応できるように教えるようにした。
教え方は二種類だ。【幻術】を使って実践を再現するやり方、桜月と晃月と手合わせするやり方である。
まずは【幻術】を使って実践を再現するやり方だ。背景や全く馴染みのない土地勘、人それぞれの攻撃、戦にはありふれていることを【幻術】で行う。だが、【幻術】は実態がない。そのため、主に攻撃を避ける練習をしてもらう。けれど、それでは緊張感が生まれない。なので、たまに本当の攻撃を桜月と晃月が【幻術】に紛れてすることにした。それを二日間行った。
次に、桜月と晃月と手合わせをするやり方だ。二人が本気を出すと絶対に一方的になってしまうため、様々な戦い方で手加減をして手合わせをする。手加減とは言っても、信長や側近がどうにか勝てるかも、と言うくらいの強さにして、勝たれそうだったら、強さを少し上げると言うやり方をとった。これも二日間行った。
このやり方によって、信長と側近はよほどのことがない限り戦で死ぬ可能性は低くなっただろう。
戦が始まるまで後二日。
信長と側近は筋肉痛や疲労で動けなかった。なので、疲労や筋肉痛が早く治る薬を飲ませた。今日の昼頃には治るだろう。
桜月と晃月は武田軍を偵察しに行くことにした。だが、普通に走ると、帰ってこれるまで明日の朝になってしまう。そのため、二人は早朝から全力疾走で武田軍のいる北側へと進んだ。
全力疾走で進むこと二刻(四時間)。武田軍のいるところへとついた。武田軍の兵力は約一万五千。対して織田軍と徳川軍は約三万五千である。圧倒的な兵力差がある。
武田軍は大名の中では兵力が少ない方である。だが、武田軍は戦に勝ち続けている。その秘訣は、武田軍の騎馬隊にある。武田軍の騎馬隊は一騎で百人は倒せるほどの強さだという。その騎馬隊によって、戦の勝率が高くなっているのだ。
桜月と晃月は武田軍の騎馬隊を見て、驚いた。騎馬隊全員が中級忍者並みに強く、馬でさえも筋肉量が通常よりも多かったのだ。美濃の兵力も強かった。充分に強かった。だが、この武田軍の騎馬隊はそれを遥かに凌駕するほどに強かった。桜月と晃月はどうすればそんな隊が出来上がるのだろうかと観察した。すると、武田勝頼が出てきて、自ら稽古していたのだ。この鍛え方は真似できないと考えた。
武田勝頼は騎馬兵一人の数倍の強さだった。桜月と晃月ならば勝てるが、信長や側近が戦うとすると勝つ可能性はあまりに低い。
二人は思った。この戦において、最も苦戦するのは武田勝頼と戦うことである。無論、騎馬隊も大変だが、それ以上に武田勝頼は強い。これはどうしたものか。桜月と晃月が戦ってもいいが、それだと信長に示しがつかない。
桜月と晃月は考えるのをやめた。なぜなら、二人は戦の初心者である。戦において、最善の判断がまだわからなかった。なので、帰ってから信長に相談しようと思ったのであった。
二人は騎馬隊を二十分程度観察した。騎馬隊の戦い方、持ち物、工夫。全て知っておき、信長に有益な情報を伝えるために全力で観察した。
武田軍の全体をほとんど観察し終わると、巳の中刻(午前十時)になっていた。二人はそろそろ帰らなければこっそりと偵察に行っていたことがバレると思い、行きと同じく全力疾走で尾張へと向かった。
二刻(四時間)後、尾張についた桜月と晃月は清洲城に入り、借りている部屋に戻ろうとした。だが、部屋の前に側近がいた。
「さて、どこに行っていたんだ?」
いつもの明るく親しみやすい側近とは違い、腕を組んで目が怒っているのに笑っていた。
「な、なんでここにいるの」
桜月は冷や汗を流しながら質問した。
「なんでって、ここは信長様の城だぞ。俺がいてもおかしくはないだろう?それに、こっそりとどこかに行っていたお前らには話を聞かないとだしな」
二人はこんなにも怒っている側近を初めて見たため、つい、正座してしまった。
「ご、ごめんなさい」
桜月が目を逸らしながら謝った。
「ご、ごめん」
桜月に次いで晃月も謝った。
「それで、どこに行っていたの?」
「武田軍のところに行ってました、」
桜月が側近の気迫に気圧されて答えてしまった。
「武田軍?まさか、偵察に行ったのか!?」
側近の怒っている気配がなくなり、焦りが見えた。なぜそんなにも焦っているのか聞いてみた。
どうやら武田には凄腕の忍者がいるらしい。霧島というらしい。側近でも勝てるかどうか怪しく、武田に仕えている。そのため、忍者が情報を探ろうとしても追い返されるそうだ。
桜月と晃月が武田軍のところへ行った時に襲ってきた忍者、。二人は考え込んだ。二人は思い出した。武田軍のところにつく半刻(一時間)ほど前に何者かが追いかけてきていたことを…。二人は見られないほど距離をとり、そのまま全力疾走で進んでいた。だが、二十分ほどでその何者かの気配は遠くなった。なぜだろうと少し思ったが、気にせずそのまま進んだ。武田軍についたら、気配を完全にたち、偵察していたため、何者にも見つからなかった。帰りは、行きで追いかけられたことにより、慎重になって、気配を絶って帰った。
そのことを側近に伝えた。
「それは、お前らが速すぎるからだっ」
側近はなぜか涙目になりながら叫んだ。二人は自分達が速いことに気づいていないため、疑問に思って首を傾げた。側近は説明するのを諦めたようでため息を吐いた。
「それで、何か有益な情報は手に入ったか?」
側近は真剣な表情になった。晃月が武田軍の情報を伝えた。
側近は信長にその情報を伝えに行った。
翌日、戦の前日。皆が戦の準備で忙しそうであった。だが、二人にはやることがなく、迷惑にならないように部屋で過ごした。