表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月華の双子  作者: せつか
2/7

第二章 美濃の蝮

二章 美濃のマムシ


「父さん、しばらくは会えないけど、いつか必ず会いに来るね」

「父さん、元気でね」

桜月と晃月は梓との別れを悲しく思いながら森を出た。


まず、桜月と晃月は美濃の城下町を目指した。美濃は武力が強くて有名だったから、どのくらいの強さなのかを含めて行ってみたかったのである。二人は梓と中級忍者以外と戦ったことがないため、様々な大名を見てどのくらいの強さなのか、自分たちの力は通用するのか、どんなつわものがいるのかを確かめたかったのだ。

桜月と晃月は亥の中刻(二十二時頃)に出発して、子の下刻(一時頃)には美濃についていた。通常、二人のいた森から美濃まで三日から四日かかり、そこいらの忍者でも半日はかかる。

なぜ桜月と晃月がこんなにも移動が早いかというと、秘密は月にあった。二人は双子だからか、赤い目のせいなのか、月の出ている夜は特別、身体能力などもろもろ上昇するのだ。


「美濃に着いたね。まずはどうしようか、晃月」

「そうだなぁ。まずは人目につかない仮の拠点を探そう。桜月」

美濃の城下町の手前についた二人は仮の拠点を探すことにした。

早く探し出すために、桜月の[千里眼]を使った。そうしたら、人通りが少ないところに宿があった。二人はそこを仮の拠点としようと決めた。

二人の容姿は目立つため、変化の術(忍者とわからないように変装すること)を使うことにした。二人は黒髪赤目で忍者特有の服を着ていた。それに、容姿が通常の人よりも整っていた。二人は旅人に変化した。歩くのに適した服を着て、夫婦とわかるように同じ色の服を着た。

「すいません。部屋は空いていますか?できれば二人部屋がいいのですが」

旅人夫婦に見えるような格好をして、晃月が宿の従業員に聞いた。

「おう、空いてるぜ。二階の一番奥の部屋だ。生憎と食事は出ない」

宿は薄暗くて目立たないためには最適の場所と言えるだろう。部屋に入ると、薄汚く、この宿に人がほとんどいない理由がすぐにわかった。桜月と晃月はまず、部屋の掃除をした。

掃除が終わり、二人は城下町の様子を見るために出かけた。

城下町はとても人々で賑わっていた。美濃の民はやつれておらず、笑顔が絶えぬ様子であった。

二人は依頼主を探している。依頼を受けないと、金が手に入らない。どこからか盗むこともできるが、それは梓のくれた二人自身の名前に反する。そのため、人が多く、武力が高い美濃にきたのだ。

このままでは金が無くなってしまう。なので、桜月の[千里眼]を使い、美濃の中で依頼をくれそうな者を探した。すると、美濃の城の主が困り果てていた。二人はこっそりと美濃の城へと侵入し、城の主が一人になったところを見計らって声をかけた。

「斎藤道三(美濃の城の主の名前)」

桜月が天井裏から斎藤道三に話しかけた。

「誰だ」

斎藤道三は声をかけられても驚くことなく、自身の刀を握った。

「さすが美濃のマムシと言われるだけのことはある…ということか」

晃月が少し面白そうに笑いながら言った。

「誰だと聞いている。もしかしなくても、忍か」

「あぁ、そうだ。私達は…」

「鏡花水月の二つ影」

桜月と晃月は自身の二つ名を名乗らず、二人での二つ名を名乗った。

「鏡花水月の二つ影?聞いたことがないな」

斎藤道三は数人の忍者を雇っている。そのため、忍者について少しは知っているのだ。その斎藤道三が二人のことを知らないのは当然である。昨日一人前として旅に出た忍者なのだから。

「知らなくて当然だ。私達は自分達の情報を取らせないのだから」

桜月は自分たちが過去に様々な依頼を受けてきたような言い方をした。そうすることで腕は確かなのだろうと思い込ませるのだ。これは五車の術技(コミュニケーション術)という物だ。

「そうか。それで、なんの用だ。敵側からの暗殺を命じられたか」

斎藤道三の武術の腕は確かだ。美濃の蝮の名は周辺の大名が収めるところにも広まっている。それに、桜月と晃月が見ても、一人で正面から対等勝負をしたら勝つ可能性はこちらの方が低い。それに、話しかけた時からずっとこちらに殺気を放っている。

「暗殺ではない。暗殺ならば、お主が一人になったその瞬間に殺している」

「ならば、なんの用だ」

「斎藤道三。取引をしよう。今、困っていることがあるだろう。それを叶えてやる。その代わりに金をいくらかもらう」

やっと本題に入った。だが、ここからが正念場である。初の仕事の取引だ。成功させなければならない。

「取引…だと。我に上から目線で話しかけながら取引か。いいご身分だな」

斎藤道三が二人の上から目線の話し方や態度を嘲笑うように言った。

「それはすまない」

二人はサッと瞬時に斎藤道三の前に現れ、膝をついた。二人は性別も見た目も分からぬように忍び装束をまとっていた。

「少しは頭の出来がいいらしい。それで、取引とは。詳しく説明してもらおう」

さすがは美濃の主。風格がそこらの人とは比べようもないくらいにすごい。まるで猛獣に睨まれているような、私達を試しているような。そんな圧だ。

「感謝申し上げる。美濃の蝮よ。困っているとわかったため、ここにきた次第でありまする」

晃月がさっきまでとは違い、上のものを敬うような言い方に変わった。

「ほう。誰にも話してはいないはずだが」

はて、と謎に思ったようだ。

「情報収集は忍者の得意分野でございます」

「それもそうか」

「取引のことなのですが、その困ったことを解決するために助力しようと思います。それで、銭を十枚ほどもらえたらと思います」

「銭を十枚か?それは民の一ヶ月分の給料と変わらぬぞ」

斎藤道三はさすがに驚いたようで目を点にした。

「はい。我らはそれ以上を求めませぬ」

桜月と晃月は自分達が過ごすために必要な分しか望んでないのだ。それに、二人が求めているのは自分の戦闘力を図るためや様々なところの情報を手に入れることである。

そして、無事に取引が成立した。

取引内容は、斎藤道三の困り事が解決するために助力すること。報酬は銭十枚。


斎藤道三の困り事とは、美濃にいる数人の賊が隣の伊勢の大名の部下を殺してしまったため、伊勢の大名が怒り、戦になりそうということである。伊勢の大名の土地には美濃に関する者を入れないように命令しているため、手紙を送るのも難しく、手紙を送ったとしても、手紙を開こうとはしない。斎藤道三は伊勢の大名とできれば仲良くしたいため、どうにかして話し合いの場を作れないかを考えているのだ。下手に動けば大きな戦となってしまう。そこで、代々美濃に仕える忍者の出番なのだが、生憎と他の用事で手が離せない。

そこに目をつけたのが[鏡花水月の二つ影]、桜月と晃月であった。二人は、戦いが好きであった。そのため、面白そうな依頼を探していたのだ。二人は運がいいのか、もしかしたら戦に関わるかもしれない依頼に偶然ありつけたのだ。とてもありがたいことである。

この問題を解決するために、二人は斎藤道三にある提案をした。斎藤道三は最初、「それは、大丈夫なのか?」と言っていたが、色々説得したら納得してくれたようだ。

翌日、早速斎藤道三に提案した計画を実行することにした。

まずは、素早く走れる桜月が伊勢の大名に話をしに行った。

伊勢の大名は最初、とても怒っていて話を持ちかけるのに十分もかけられた。だが、冷静になれば話をちゃんと聞いてくれた。

桜月は斎藤道三が仕掛けたものではなく、美濃に偶然いた数名の賊によるものだと話した。しかし、信じてくれるわけもなく、話し合いの場を設けようと話した。最初は行かないとほざいていたものの、無駄な戦で戦力を落としたくはないだろうと言ったら、行くだけ行くということになった。口約束だけでは後で最悪なことになりかねないため、紙に書いて約束した。このことは斎藤道三に話してあるので許可はもう降りている。

約束事はシンプルだ。互いに話し合いだけの場にすること、脅しはしないこと、二、三人で来ること、である。これを守らないのならば、こちらも相応の扱いをさせてもらう、という条件をつけて。

美濃は日本の中でも上位に入る戦力を持ち合わせている。そのため、最後の条件は伊勢の大名への忠告ということになる。


桜月は伊勢の大名に帰ると言いながら、近くで悟られないように後ろからつけていた。伊勢の大名にも雇われた忍者がいる。だが、上級忍者ならば少し違和感を覚えるだろう桜月の気配にも一切気づかない。おそらく中級から下級の忍者だろう。


桜月が伊勢の大名の元へ向けて出発した時、晃月は斎藤道三の護衛をしていた。忍者として、少し離れたところから見ていた。だが、斎藤道三自身も強いため、あまり出番は来ない。晃月は暇で退屈していた。


数刻がすぎ、未の中刻(午後二時頃)になった時、伊勢の大名が数名の部下を連れて美濃と伊勢の国境くにざかいにある川の前へと着いた。話し合いの場はこの美濃と伊勢の国境にある川に決まっていたのだ。お互いに川を挟めば手出しはできないだろうと踏んでの選択である。これには伊勢の大名も納得してくれたようだ。

すでに斎藤道三はついている。斎藤道三を見た時、伊勢の大名はすごく驚いた。斎藤道三は一人だったのだ。そして、隣には木の板の上に並べられた数個の生首があった。

「お主が話を聞かないため、其方の部下を襲った賊どもをわざわざ我自ら始末してやった」

斎藤道三は伊勢の大名が来るまでに賊を一人で退治したのだ。賊は数人といえ、一対数人なのだ。強くないとできない処遇である。

二人が向かい合って、話し合いが始まった。そもそも、賊の首が目の前にあるのだ。伊勢の大名も勘違いをしていたと言わざるを得ない。そのため、話し合いは無事に終わったように見えた。話し合いが終わり、斎藤道三が帰るために後ろを向いた時、斎藤道三に向かって数人の忍者が襲いかかった。だが、倒れ込んだのは斎藤道三ではなく忍者たちの方であった。

何が起こったかというと、斎藤道三に忍者どもが襲いかかろうとした時に、晃月がその忍者どもよりも早く動き、忍者全員の喉を掻き切ったのだ。

桜月は晃月が動いた時に、伊勢の大名の後ろに行き、すぐに始末できるように小刀を首に向けて、縄で拘束した。実に予定通りである。


話し合いの前日。晃月は話し合いの場に決定した川で未来予知をした。すると、斎藤道三が伊勢の大名によって雇われた忍者に襲われる未来を見た。

晃月は斎藤道三に明日、伊勢の大名が雇った忍者に襲われるかもしれない。と言うことを知らせた。計画として、斎藤道三を襲いにかかろうとした時に忍者を始末することを提案した。斎藤道三は自身の安否を不安がった。そのため、晃月の戦闘能力を認めさせるため、斎藤道三と手合わせを要求した。斎藤道三は許可してくれ、手合わせが始まった。晃月は速さを重視し、戦った。速くないと、すぐに駆けつけて忍者を殺せないからである。斎藤道三は強かった。一振り一振りが重い攻撃で、晃月の速さにもギリギリついていけていた。手合わせが終わると、提案した計画を許可してくれた。

忍者を使ってくるのは、戦闘が好きな晃月にとってはすごくいいことだが、今回予知で見たのは中級忍者だけだったため、あまり気乗りはしていないようだ。未来予知のことを桜月に伝え、晃月が忍者を排除している間に伊勢の大名を拘束しておいてほしいと頼んだ。

そして、今に至る。


伊勢の大名は斎藤道三に従うか斬首刑かのどちらかであった。もちろん、伊勢の大名は従うことを選んだ。その後は二人の出番は無く、依頼は達成したのであった。


翌日。斎藤道三から報酬をもらい、自分たちのことを書くな、伝えるな、言うな、広めるな、と伝えた。そして、仮の拠点の宿へと戻った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ