第一章 双子と狂犬の梓
この話はフィクションであり、完全オリジナル作品です
一章 双子と狂犬の梓
時は戦国時代。様々な戦が飛び交い、たくさんの人の命が失われる時代。そんな中、歴史には残っていないが、ある双子が裏で活躍していた。これはそんな双子の物語である。
双子は、農民として生まれた。しかし、当時双子は不吉だと恐れられてきた。それだけではなく、双子は目の色が赤かったのだ。双子が生まれた村の人々は、鬼の化身だと言って恐れた。そして、双子を森の奥深くに捨てた。そのままでは双子は死んでしまっただろうが、その森は忍者が拠点としていた場所であった。
月夜に照らされる山で、ある忍者が双子に気づいた。その忍者は狂犬の梓と言うとても強い者であった。そして、狂犬の梓は仲間と協力せず、大抵のことは一人でこなす特殊な忍者であった。そして、梓は子供が大好きであった。だが、怖い顔つきのせいで子供が近寄るどころか、恐れられるのだ。そんな、子供が好きな梓だからこそ、双子だろうが赤目だろうが、拾って育てることを即決したのだった。そして、双子は梓によって名前が与えられた。
双子の女の子は、桜月
男の子は、晃月
双子が梓に拾われてから五年が経った_。
五歳にもなれば、双子は話せて、歩けるようになっていた。
「いづなー、きょうはなにするの?」
「なにするのー?」
桜月に続いて晃月が真似するように言った。
「今日は、忍術の勉強をするぞ」
梓は桜月と晃月を忍者として育てようと、双子が歩けるようになってから忍術や体術、この世界で生きていくための知識、道徳などを毎日教えてきたのだ。そのため、習慣となっていた。
「「やったー!」」
桜月と晃月は忍術が好きであった。2人は異様なほどまでに忍術の飲み込みが早かった。そのため、通常五年かけて学ぶ、基礎忍術を桜月と晃月は二年で習得したのだ。なので、梓は二人に上級の忍者が使う技や裏技などを次々と教えていった。
それにより、桜月と晃月は下級忍者や中級忍者には負けないほどに育った。
桜月と晃月が十五歳となった日_
桜月と晃月は一人前の忍者となるための試練を受けようとしていた。
「試練って何だろうね、晃月」
「何だろうね、桜月」
桜月と晃月は生まれてからずっと兄弟喧嘩をしたことがないくらいに仲が良かった。そして、とても強かった。だからというべきか、二人は微塵も緊張のそぶりすら見せずに、楽しそうに笑っていた。
「桜月、晃月。お前たちは試練に合格すると思うが、油断はするなよ」
梓は二人のことが心配なのだろうが、無表情で忠告した。
「「わかってる」」
桜月と晃月はさっきまで楽しそうに笑っていた時とは全く違い、怪しげな顔で少し口角を上げて返事をした。
「わかってるならよし。それと、…」
「「その名に恥じぬように、でしょ(だろ)」」
梓が少し二人を見た後に話しかけると、二人が梓の言おうとしたことを先に言ってしまった。
「父さん、その言葉何千何万回も言ってるから覚えたよ」
「そうそう、それはもう耳にタコができるくらいに」
桜月と晃月はため息をついて呆れたとでも言うかのように梓に言った。
「それほど大事なことなんだ。お前たち、自分の名前の由来も覚えているな」
梓は真剣な顔を崩さずに二人をまっすぐに見た。
「覚えてるよ」
「それも何回も聞いたからな」
そう言うと、二人は自分の名前の由来を言い始めた。
「桜月。美しくすぐ散る桜のように一瞬一瞬を大切に。そして、月夜の夜桜のように美しく綺麗であれ。」
「晃月。いつ何時でも、諦めずに前を向いて、独創的な明るい考えを持て。そして、月光のように人々を導く存在となれ。」
「そうだ。それを覚えているならいいだろう」
梓は二人が自分の名前の由来を覚えているとわかった瞬間に微笑した。
「よし!桜月、晃月。圧倒的に合格してこい!」
梓はさっきまで真剣な表情だったが、それを思わせない笑顔で二人の頭をわしゃわしゃ掻き撫でた。
「「もちろん!!」」
桜月と晃月と梓はとても仲がよかった。梓は子供の前では緊張してしまい、顔が怖くなっていたが、桜月と晃月の前ではとても表情が柔らかかった。
試練は桜月と晃月にとってはとても簡単なものであった。
「つまんないね、晃月」
「つまんないな、桜月」
二人は試練を無傷で手こずることなく乗り越えた。当たり前である。なぜなら、二人は忍者の中でも上位を誇る梓の育て子なのだから。そして、桜月と晃月は無事に一人前の忍者として認められた。
桜月と晃月は梓に試練を乗り越えたと伝えた。
「よくやった!流石俺の子だ!」
梓は二人を抱きしめた。そう、まるで本当に血の繋がった親子みたいであった。だが、そんなに仲のいい三人だが、桜月と晃月は梓に一つだけ秘密にしていることがあった。それは、桜月と晃月の能力である。
まずは不思議な能力について説明しよう。この世界には稀に通常の人ではできない 不思議な能力を持って生まれてくる者がいるのだ。それのものたちは稀有人と呼ばれた。桜月と晃月はそんな稀有人であった。
桜月は、どんな物でも見通せる[千里眼]
晃月は、過去や未来を見ることができる[予知]
桜月と晃月は幼い頃にこの能力があると気づいた時、なぜか誰にも伝えてはならないと直感でわかった。誰にも、とは、桜月と晃月以外のことである。なので、二人は梓に内緒で毎日能力の練習をしてきた。そのため、桜月と晃月はその能力で様々なことができるようになった。主に情報収集である。桜月と晃月の能力が合わされば、大体の情報は完璧に手に入る。どのような遠くにある情報でも手に入り、人に聞かずともその土地の過去を見れば情報は手に入る。そして、戦闘に関しても能力は役に立つ。
桜月の[千里眼]は遠くも見通せるが、それ以前に様々な物、事を見通せる。そのため、相手からの攻撃の向きなどが瞬時にわかる。
晃月の[予知]は大昔のことも先の未来のことも見通せるが時間がかかる。だが、数秒後のことならばすぐに予知できるため、いつどこに何をされるかもわかるのだ。
そんな便利な能力だが、桜月と晃月は必要最低限にしか使わない。なぜならば、この能力が自信の向上の妨げになるからだ。そのため、二人は上級忍者の中でも上位を誇る強さとなった。しかし、梓にはまだ叶わない。
桜月と晃月が試練を乗り越えたその日、梓に一人前の忍者となった証として二つ名を貰った。
桜月は、‘‘月華の風露‘’
晃月は、‘’月華の幽光‘’
そして、桜月と晃月、二人合わせて……………
【鏡花水月の二つ影】
この二つ名は梓が大切な桜月と晃月の為に数年前からずっと考えていた名前であった。一人前の忍者となったものは親元を離れるのが決まりであったため、二人は梓としばらくの間会えなくなるのだ。
「父さん、…」
「「ありがと」」
桜月と晃月は涙目になりながらも笑顔で梓にお礼を言った。
「お前たち…」
梓は二人を静かにぎゅっと抱きしめながら少しの時間の幸福を噛み締めた。
「さて、桜月、晃月。明日の夜にはここを出なければならないだろ。準備などを早く終わらせてお前たちとの時間を過ごさせてくれ」
梓は二人を少しの間抱きしめて、言った。
「「わかった!」」
そうして、三人は家族水入らずで一日中過ごした。
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