心の海

　ーーその海は、“凪の海”と呼ばれた。

　そこは世界中の地図を探しても、見つからない。曇った心では、きっと辿り着けない場所。

　その海は、人の心の中にある、すべてからほどかれた海。

　昼には空に浮かぶ島のような雲ぐも、夜には満天の星ぼしを空に散りばめてーー。

　さざなみの音、暖かな光。決して肌を濡らさない涼しげな波と、やわらかな春風が肌を優しく撫でるようにーー。

　砂浜の上で、ただ優しさだけに包みこむ。暑くもなく、冷たくもない穏やかな世界。

　ーーその海は、“凪の海”と呼ぶ世界だった。