17話ー1
夏祭りから数日が経過したある日、「話したいことがある」と興奮気味に電話をかけてきたヴィルヘルムの招集を受けて、ヴィオラは彼の家までやってきた。
戸を叩けば珍しく返事があったので足を踏み入れると、かつての惨状想起させる部屋の散らかり具合が目に映り、女は青ざめた。
しかして奥からひょっこり顔をのぞかせた屋敷の主人は、実に健康そうな満面の笑みで彼女を招き入れると、またもや何を思ったか熱い抱擁を繰り出した。そして衝撃に固まる淑女の様子に気づかないまま、嬉しそうに言う。
「ありがとうヴィオラ! 君のおかげで最高のアイデアが浮かんだよ」
「そ、そ、それはようございましたわね――」
男の腕の中で危うく昇天しかけていたヴィオラはかろうじてそう返すと、なけなしの力でやんわりと彼の身体を押し返した。その反応にようやっと事態を理解したヴィルヘルムは、おっと、と一声あげて、彼女を解放する。
「ごめんごめん、この喜びを全身で伝えたくて、つい」
「喜びは、よーく伝わりましたわ。喜びだけ」
だけ、の部分を強調して、渋面した淑女は腕を組む。そして顎を軽くあげて、早く内容を教えるよう先を促した。すると賢者は目を輝かせて、待っていたとばかりに意気揚々と考えてきたことを彼女に話して聞かせた。
「――つまり、今のヴィルヘルム様自身では千年を渡ることは出来ないけれど、何度も生まれ変わることで魂を長らえさせて、千年を過ごすと、そういうことかしら?」
「端的に言えば、そういうことだね」
ヴィオラの要約に、ヴィルヘルムは持っていたペンを回して楽しげに答える。
「でも、『転生』は神話においてのお話でしょう? しかも人から別の姿になってしまってはどうしようもなさそうですけれど――」
そう言うと、淑女は眉根をひそめて賢者を見た。
「メテムスとサーラ」の物語はあくまで神話にすぎない。伝承といっても極めて非現実的な内容である以上、「転生」という事象が実際に起こせるものなのか、ヴィオラは疑わしく思った。
しかも神話の中でのメテムスの力はあらゆる命を、別の命に生まれ変わらせるものだったと記憶している。
それは、例えば物語の中で牛が小鳥になったように、万物は流転していくという自然の摂理の比喩に過ぎず、人がまた人に生まれ変わることを示唆したものではないのではないだろうか。
彼女はそんな疑念を口にした。
それに答えるべく、賢者は机に広げた紙にペンを滑らせて何やら書き込みながら言う。
「君の言う通り、この話は『万物は流転する』という摂理を寓話にしたかったんだろう。けれど、ただの寓話にしては、神事が行われるほどの信仰の対象になっているのが引っ掛かる。そこで、あの日買い漁った文献をじっくり読み込んでみたんだ」
するとヴィルヘルムは、一冊の書を手に取り、とあるページを開いてヴィオラに渡した。
古い書物にしては比較的状態がよく、細かい文字が連なるも、容易に内容を把握することが出来る。
そしてとある一節で、彼女の目がぴたりと止まった。
「『スナート教』教皇選定における『生まれ変わり』 の選別方法について――?」
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