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雨過天晴  作者: 田中ソラ
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第八話 花火

「やっと夏休みだー‼」

「期末、大変だったもんね。赤点回避できてよかったね?」

「ほんとだよ! じゃなかったら夏休み補修に来ないといけなかったから……」


 あれから二か月経った。状況は特に変わることはなく、水城先輩とはあの日っきり。でも景くんだけは小田先輩や寒田さんと共に出かけるほどの仲になった。

 芽久と松木先輩のお付き合いも順調。桜木先輩のことを考える時間が、少しずつ減った。先輩が芽久のことを見なくなったからだ。


 諦めたのか、それとも何かあったのかなんて分からない。芽久は桜木先輩とのことをあまり私に話そうとしないし、周りの人だってそう。

 もう、この夏で二年に詰めた恋を諦めるときがきたのかもしれない。


「美琴、28日空いてる⁉ 夏祭りあるんだけど健二くん出店でバイトしてるらしくて見に行きたいの!」

「うん、いいよ。私もその日空いてるし」

「やった! 二人で浴衣着て行こ!」


 彼氏のために張りきる芽久は相変わらず可愛い。

 出店で松木先輩がいるならもしかして、なんて思ってしまう私も何も変わっていない。先輩の目に一瞬でも入る可能性があるのなら浴衣を着ることだってなんてことない。




「結構人多いね……はぐれないようにね」

「はーい!」

「松木先輩のお店どのあたり? 場所に寄ったら抜け道でいけるし」

「えっとね」


 早いもので夏祭り当日。地元で二番目に大きな祭りで人で賑わっている。浴衣を着て、下駄も履いているので人込みはできれば避けたいところ。芽久とはぐれでもしたら……なんて考えるだけで恐ろしい。今日は松木先輩から責任もって預かっているからしっかりしないと。


 芽久の携帯を覗き込み場所を確認した。その場所は東よりだったので人の少ない抜け道でいけそうだ。私は芽久の手を引き、出店へと向かいゆっくり歩く。


 迷子の放送、喧嘩の声。楽しそうに笑う声、ラブラブな恋人同士。

 たこ焼きの匂いがこちらへ、と誘うように鼻へ入る。


「芽久!」

「健二くん! 美琴と一緒に来たよ!」

「お、彼女さんかい! まけたれよ!」


 松木先輩の出店はいちご飴で、甘いマスクの彼にはお似合いだ。

 あたりを見回しても桜木先輩の姿は見えない。少し残念な気持ちになりながら私はいちご飴列に並ぶ。すると前から聞き覚えのある声が聞こえた。


「桜木食いすぎだって。松木のとこまで持たないぞ?」

「アイツいちご飴だっただろ。俺そんなもん食べる気はないしいい」

「ったく。お、健二のとこに椎名さんがいるぞ!」


 少し離れた場所にたこ焼きやからあげなど沢山の食べ物を持った桜木先輩に、それを見て苦笑いしている水城先輩と小田先輩がいた。珍しく景くんの姿が見えない。


 三人の行きつく場所は松木先輩の出店。そこに、いなくてよかったなんて思う私とその場にいたらどうなっていたのかなんて思う自分がいた。まあ、私の姿を見ただけで方向転換する桜木先輩が現実だろうけど。


 いちご飴を買って端に寄り、一人で食べる。見える視界には幸せな光景が写ってる。

 松木先輩をいじる水城先輩と小田先輩。芽久と話す桜木先輩。私が戻るだけでその空気は壊れるだろう。少しすると携帯を取り出す芽久が見えた。


〝美琴どこ? 迷子になってない? 大丈夫?〟

〝知り合い見つけて話してた。芽久ひとり?〟

〝ううん、雄介先輩たちと一緒!〟

〝ならごめんだけど別行動でもいいかな? 知り合いの子友達と離れて一人だから心配で〟

〝分かった! 合流できそうなときまた連絡して!〟



「雄介先輩、か」


 前は桜木先輩って呼んでたのに、いつの間にそこまでの仲になったんだろう。もしかして気を遣って私の前でだけ名字で呼んでいたのかもしれない。

 考えれば考えるほど自分が惨めに思えてきて。どうしてここにいるのか分からなくなった。


 花火が始まる放送が聞こえる。今頃桜木先輩は好きな人と花火、見れてるんだろうな。

 色とりどりの大きく打ちあがる花火。その度にあがる拍手を一人で聞いた。


 食べかけのりんご飴の上に、涙が零れた。


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