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雨過天晴  作者: 田中ソラ
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第七話 水城奏

「泣かせてしまってすみません……」

「いいんだ。家まで送っていく。いいか?」

「……お願い、します」


 それから少し経って。お互いの顔に笑えるようになるまで回復することができた。

 目が腫れてて、充血してる。はたから見れば喧嘩終わりのカップルみたい。事実歩いていると白い目で見られた。それも面白くて、帰り道は笑いが絶えなかった。


「先輩。本当にありがとうございます」

「お礼を言うぐらいなら、敬語と名前呼びにしてくれる?」

「……頑固」

「言ってろ」

「……ありがとう。景先輩」

「もう一声」

「えぇ。これ以上どうすれば」

「くん付け。先輩だなんて、嫌だなぁ俺は」

「……ありがとう! 景くん!」


 意地を張ってる景くんは頑固すぎて。私が折れないといつまでのこの会話は続くだろうと思い、感謝も込めて折れることに決めた。

 拗ねるようにそういうと高らかに笑う声が聞こえて、頬が熱くなる。


「もう!」

「悪い悪い! 素直に言ってくれると思わなくて」

「……言わなかったら折れなかったくせに」

「ははっそれもそうだな」

「いじわる」


 くすくす笑いながら歩いていると時間が過ぎるのは早くて。家に着いた。

 改めてお礼を言い、手を振る。逆光になっている景くんの表情は見えなかったけれど笑っているだろう。景くんにはすごくお世話になっている。芽久を除くと一番仲良いだろう。


 でも、これからも仲良くできるか不安だ。彼がよくても、桜木先輩は良くないかもしれない。彼らの友情にヒビを入れるようなことはしたくない。


「どうしようかなぁ」


 そう、独り言をいってしまうぐらいには、切羽詰まっていたのかもしれない。

 でも、桜木先輩のことだけで悩むことがないのは、私にとって心の余裕になった。





「美琴ちゃんごめん!」

「えっと。なんでこうなったの?」

「俺じゃ止められなかった!」


 手を合わせて謝る景くんの隣には不機嫌そうな水城先輩。

 本当に、どうしてこうなった? 私は目をつけられるようなことをした……な。昨日。

 走って逃げた私を追いかけた景くんにはさぞ、驚いたものだろう。私だってびっくりした。なら景くんの親友である水城先輩が驚かないわけがない。


 それに様子を見るに私とのこと何も話していないんだろう。ならぽっと出の女に親友を取られた気分になるだろう。私でもなる。


「春日井美琴だな。景との関係はなんだ」

「えっと……」

「俺が説明するから! 美琴ちゃん巻き込まないで」

「あのなぁ……お前がここまで一人の女を気に掛けるのも珍しいし、しかも名前で呼んでるしどうして僕に言わなかった? 昨日あの場で関係を察して寂しかったんだぞ⁉」


 えっと、何を見せられてるの? 痴話喧嘩?

 情報の多さに頭がパンクしそうになるのを必死で抑える。


「……取り乱して悪かった。ひとまず君の口から聞きたい。いいか?」

「はい」


 有無を言わせない圧に私はすぐに屈した。申し訳なさそうな顔をしている景くんが目に入る。

 大丈夫。先輩のことは、何も言わないから。


 近くの一目につかない公園に入り、私は桜木先輩に恋をしていてそのことを察した景くんが私の相談を聞いてくれていた。そして先日の件で仲が深まったことを説明した。

 小田先輩のことも聞かれたけど、そのことも私に気を遣った景くんが紹介してくれたのだと説明すると水城先輩はすんなり納得してくれた。


「そういうことか。すまなかった」

「いいえ。私のほうこそ先日は……」

「……アイツは、桜木はどこか僕達にも一線を引いている。君だけが気に病むことはない」


 嘘つき。あの時、あんな気まずそうな、辛そうな顔をしておいて。今も罪悪感にさいなまれた顔していて、そんな期待させるようなこと言わないで。

 先輩の周りの人は、ずるい人ばかりだ。


「よかったら、僕にも桜木のこと協力させてくれ。力になれるかもしれない」

「いいえ大丈夫です。あそこまで拒絶されて、これ以上何を想えばいいんですか」

「奏、そこまでにしておいてあげて。この子もこの子なりに考えがあるからさ」

「……分かった。何かあればすぐに景に言ってくれ」


 それだけ言って立ち去った水城先輩。

 先輩たちは、私をどうしたいんだろう。玉砕させたいの? それとも……。

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