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雨過天晴  作者: 田中ソラ
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第三話 白髪美少女

「夕暮先輩と何話してたの⁉」

「別に大したことないよ? 芽久が行っちゃって気を遣ってくれたらしくて」

「……ごめんね」

「え、いいよ! 私から送り出したし、ね?」


 不満そうな顔をしている芽久を見るのが最近多くなったなーなんてぼうっと考えているといつの間にか芽久が支払いを済ませていて。

 慌ててお金を払おうとすると寂しがらせたお詫び、なんて言って。そんなの私は全然気にしないのに、なんて駄々をこねても払わせてくれなかった。

 芽久は時々頑固になることがある。そこも可愛いんだけどね。


 それから私は連絡先を交換した夕暮先輩とは連絡を取ることなく中間テストが終わった。

 芽久は生き生きとしていて、これから松木先輩と会うようだ。私はそんな芽久と別れ、帰路についていると後ろから声をかけられた。


「美琴ちゃん久々―って言っても、少しぶりだけど」

「夕暮先輩」

「今日健二が椎名ちゃんと会うって聞いてもしかして一人かもーって思って探してみたら当たり。もしかして友達少ないタイプ?」

「……うるさいです」

「うわ、図星だ! なら尚更椎名ちゃんに彼氏できたの寂しいな」


 遠い目をしている夕暮先輩は、憂いを帯びていた。

 何が理由で彼をそうさせているかはまだ関わり始めて短い私には分かりっこない。だけど、少しだけ同じ気持ちを感じてしまった。


「ね、これから時間ある? 紹介したい奴がいるんだよね」

「……嫌な予感がするので拒否します」

「なんでさ! 水城奏みずきそうって言うんだけど」

「無理です!」


 水城先輩。彼のSNSはフォロワーの数が半端ない。モデルの仕事を一度だけしたことがありその顔と名が全国に知れ渡った。どこにファンがいるかなんて分からないし、女子に恨まれるようなことはしたくない。

 顔面を蒼白させる私が心底面白いんだろう。彼はにやにやしている。


「本当に嫌ですからね。会いませんからね!」

「噓々冗談だって。アイツに会わせたくないし」

「……冗談に聞こえなかったんですけど。先輩怖いです」

「ははっ悪いな。本当に紹介したい奴は奏じゃなくて、小田倭おだわたるのほう!」

「小田先輩、ですか?」


 小田倭先輩。あの五人の中で一番目立たないけれど兄貴肌で女子人気というよりは男子人気が高い人。他県に住む彼女さんがいるって一時期話題になってたのを微かに覚えている。

 だけどどうしてそんな人を私に紹介するの? 夕暮先輩の意図がよく分からない。


「来て損はないよ。君にね」

「……分かりました。少しだけですけど、行きます」


 夕暮先輩に着いていった先は小さなケーキ屋さん。中に入ると二階にイートインスペースがあり買ったケーキをその場で食べられるようだった。先輩に催促されるままケーキを選び、買ってそのまま二階へ上がるとそこには白髪の美少女がいた。


 思わず綺麗、と口に出すと夕暮先輩はその白髪美少女の方へ向かう。


「寒田さん小田は?」

「倭くんならお手洗いに。すぐに戻ってくると思うわ」

「なら先に挨拶だけ済ませておくか。ほら、美琴ちゃん早く」


 なぜそんなにすんなり美少女のもとへ行けるのだ。私には恐れ多くてちょっと厳しい。

 透き通る白い肌に白い髪。冬がとても似合うであろう彼女は夏が近いのに長袖を着ているけれど暑そうには見えない。

 ぼうっと美少女を見つめていると気の短い夕暮先輩は手を引き、私を席へ座らせた。


「春日井美琴さん、ですよね。寒田冬実そうだふゆみです。よろしくお願いします」

「あ……お願い、します」


 見えるもの、聞こえるものが全て美しい。寒田冬実という名も彼女の全てを表していて。

 こんなに美しい人を私は生まれてこの方、見たことがない。

 顔の前で手を上下に動かす夕暮先輩のおかげではっと、現実に戻って来た。


「おーい。どうした?」

「寒田さんが、綺麗すぎて」

「ぶはっ美琴ちゃんってほんと素直だよな」

「そうね。私のことを不気味じゃなくて、綺麗って言った人久々だわ」


 吹き出す先輩を思わず睨みつけてしまったのは不可抗力ってことにしてほしい。

 手を口元に当てて微笑み寒田さんに頬が赤くなるのを感じる。ときめくのも不可抗力にしてほしい。

 

 そうこうしていると目当ての小田先輩が戻って来た。


「小田倭だ! よろしくな!」

「はい。おねがいします」

「倭くん聞いてよ。美琴さん私のこと綺麗だって言ってくれたの」

「そりゃよかったな! 仲良くできそうだな!」

 

 二人の他者を寄せ付けないような雰囲気。笑い合う寒田さんは更に美しくて、安心しきったよな顔をしている。まさか。


「小田先輩の彼女さんって……」

「ええ、私よ。内緒にしてくれる?」

「あ。勿論です!」


 彼女のファンになりたい。そう思うのも、自然なことだった。


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