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夢の世界に来て3か月が経った。あれから死神は現れない。
前回はどの店も忙しい年の瀬に強盗団はバーンズ商店に押し入った。
その日父は義母と呑気に旅行中だった。
今回は金庫には銅貨を入れた袋を数個放り込んである。
店を閉めた後、ガラスケースの高価な商品は安物と入れ替えておいた。
父はこのことを知らない。
「お嬢さん、本当に強盗団は来るんですか?」
「ええ、義母が手引きしたはずなの。証拠は無いけど」
「来ない方がいいですが、大丈夫ですかね」
「少々被害は出るけど、背に腹は代えられないわ」
マックスさんは物凄く不安そうだが言い訳もきちんと考えてある。
現に数日前から何度も下見に怪しい男が来ていた。
襲撃の日になり私自身も見届けたかったが、マックスさんに反対されて自室で祈る気持ちで待っていた。
連絡が来たのは早朝で強盗団は街の第二警備隊に捕まっていた。
マックスさんの知り合いが第二警備隊にいて、相談してあったのだ。
捕まった中には下見に来ていた男もいて、この男が警備隊に追跡されていた。
店に駆けつけてマックスさんや従業員と合流。
店内は荒らされて、高価なガラスのショーケースが割られたのが痛い。
「申し訳ない、我々が踏み込んだのと同時にケースを割られて」
「いいえ、被害がこれだけで済んで良かったですわ」
警備隊長さんと後ろには顔に傷のある精悍な男性が控えていた。
「隊員の方々にお怪我はありませんでしたか?」
「大丈夫ですよ。強盗団は痛い目にあったがね。はははは」
「今は取り調べ中ですが、後でこちらのお話も聞かせて頂きます」
「はいそれは私が」とマックスさんが引き受けて、隊長さん達は帰っていった。
「やりましたね、お嬢さん」
「マックスさんが協力してくれたからよ。有難う」
父たちが帰ってきて報告を聞いた時の義母の驚愕した顔は見ものだった。
「強盗が何度も下見に来てたなんて、どうして教えてくれなかったんだ」
「お父様たちに旅行を楽しんで頂きたかったのよ。不安にさせたくなかったの」
愚かな父は嬉しそうに私を抱きしめ、マックスさんにも感謝したのだった。
*****
「強盗団が捕まって何よりだわ」
「捕まったのは実行犯で命令した黒幕がいるみたいなの」
「まぁこわい」
ナタリーに誘われて人気のカフェでお茶をしていた。
「あ~来た」そう言いながら入り口に小さく手を振るナタリー。
見るとヘンリー様とクロード様が揃ってやって来た。
ナタリーを軽く睨むと「ふふふ」と笑って返される。
挨拶して四人でぎこちなくお茶をしているとミモザ様がご友人達と店に入ってきて、一瞬で顔を曇らせた。どうやらこれがナタリーの目的らしい。
「あら、皆様ごきげんよう」可愛らしい声が頭上で響いたが怖くてミモザ様の顔が見られない。嬉しそうに挨拶を返すナタリーと一触即発な雰囲気だ。
私も小声でご挨拶をし、俯いたまま顔を横に向けるとガラス窓に警備隊員の姿を見つけた。
アッシュゴールドの髪、顔に傷跡(あの方だ)
「あの申し訳ございません。少し失礼致します」
「クレア どこに行くのよ」
私は逃げるように外に出て隊員に声をかけた。
「こんにちは。先日は有難うございました」
「仕事ですからお気になさらずに」
「何か進展はございましたか?」
「なかなかしぶとい奴等で、もう少しお待ちください。では・・」
「あーーあの、お名前を教えてくださいませ」
露骨に嫌な顔をされた。きっと言い寄る女性に辟易しているんだろう。
「・・・・アスランです。お嬢様は御一人でここに?」
「いいえ、友人達と一緒なんですが居心地が悪くて」
「はぁ、それで声をかけてきたのですか」
「すみません、ご迷惑なのは重々承知です」
「お送りしましょう。どちらまで?」
「助かります!」
私はカフェに戻るとナタリー達に「事件の件でお先に失礼します」と告げた。
クロード様が何か言いたそうだったが、離れた席でミモザ様が睨んでおり私はアスラン様の元に急いだ。
読んで頂いて有難うございました。