34 エピローグ(死神の恋)
黒い手帳を開いて確かめた。私が迎えに来たのはクレアバーンズ。
彼女の行き先は闇の門、地獄にいるケリーバーンズの呪縛を受けて黒い糸に雁字搦めにされていた。
死神の仕事はただ送るだけだ。しかし善良な彼女を闇の門まで送るのは不本意だ。
手帳のページを捲り、彼女の過去を調べるとただ一生懸命に生きただけの女性だった。
人生を後悔している彼女を過去に戻せば、祖父の呪縛を自ら解けるだろうか。
只の気まぐれで、夫のクロードとの出会いの分岐点にクレアを送った。
呪縛が解けなければ元に戻して予定通り闇の門まで送るだけだ。
解けたなら元に戻して光の門に送ってやろう。
最後に愛してくれる人を探して幸福な夢を見ると良い。
分岐点で選んだ新たな世界はクレアが言った通り『夢』の世界なのだ。
新たに手帳に記された彼女の軌跡はページを破れば消えてしまう。
闇でも光でも、どっちみち彼女はクレアバーンズ、クロードの妻として死亡する予定だった。
私は少しヒントを与えながら見守った。
クレアはケリーバーンズの呪いの糸を一つ一つ切り離していった。
真に愛する人、アスランと出会い幸福を掴もうとしていた。
私が彼女を元の世界に戻そうとした時には、その身に多くの愛情の糸を絡ませていた。
愛情の糸を死神の鎌で断ち切り、クレアを元の世界に戻すことが私には出来なかった。
あろうことか【死神の祝福】を与えて、クレアの夢の世界を現実の世界に変えたのだ。
彼女の不幸な過去を記した手帳のページも破り捨ててしまった。
本来【死神の祝福】はクレアのような平凡な女性に使う力ではない。
世界に影響のある人物・キーマンとなる者などの中で、運命の輪から外れた人物に使うべき力だった。
私は罰を受けて死神の資格を剥奪される覚悟でクレアに新しい人生を与えた。
もしかしたらクレアを最も愛したのは私だったのかもしれない。
私は罰を受けなかった。
クレアは後世に名を遺す女性投資家となり、平民女性の地位向上に努め、海賊の撲滅に尽力した。
クレアを溺愛する夫のアスランは彼女を支持し生涯支え続けた。
長男は両親の意思を継ぎ、次男は海軍の提督となった。
長女は他国の王家に嫁ぎ同盟の橋渡しをした。
孫達も時世を担う優秀な者ばかりだ。
「ふむ、私には人を見る目があったようだ」
寿命の期間は変えられなかった。
62歳になったクレアを迎えに行くと幸せそうに微笑んでいた。
「お手をどうぞ」
差し出した手を取りクレアは私と共に光の門に向かって飛び立った。
クレアローラングとして。
完結しました。最後まで読んで頂いて本当に有難うございました。




