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+++アスラン視点
「それは俺だと思います!」
つい叫んでしまった。
病室の扉は開いていた。
イケメンがクレア嬢に求婚をした──
手に2回もキスをしたので黙っていられなかった。
彼女は二人に対して困っているように見えた。
『好きな人がいる』
誰の事を言ってるか分からなかったが、助けてやりたかった。
いつからか気になって街で見かければ目で追うようになっていた。
ロザリアより1歳年下、俺より4歳も年下の少女。
しっかりしているようで、どこか脆い印象のクレア嬢。
一人暮らしなんて!警備隊としては何て厄介なことを始めてくれたんだと思った。
自分の事を判っていない、その美貌が男性を魅了していくのを判っていない。
俺は夜警の番でない日もクレア嬢の家の周辺を気にかけていた。
「くそっ、これじゃぁ俺はまるでストーカーじゃないか!」
何と思われても俺はクレア嬢が危険な目に合わないように、周辺に気を配っていた。
あの夜も警備隊が巡回する時間から30分ほど後にクレア嬢の家に向かった。
『明日はホテルに移動する、今日だけだ』
地域の住人を守るのは警備隊員の仕事なのだと自分に言い聞かせながら。
塀の向こうから煙があがっていた。
気が動転したが、俺は塀を越えて屋敷の庭に入り、クレア嬢の家まで走った。
1階は火が回っていて「クレア!」と叫んでいた。
2階から声がして俺は水を被って階段を駆け上がると、彼女は窓枠に足を掛けて飛び降りようとしていた。
急いで引き寄せて抱きしめるとクレア嬢もオレにしがみついた。
(良かった無事だった)安堵と共に俺は2階から飛び降りた。
燃える屋敷を見つめてクレア嬢は「さようならクロード」と呟き、意識を失った。
事件の顛末を聞いて死ぬほど後悔した。
街で会った時、直ぐにホテルに送ってやれば良かった。
幸いクレア嬢はどこも怪我はなく無事だった。
今は静かに眠っていると聞いて、一目無事な彼女の顔を見たくて病室に向かい『それは俺だと思います!』と叫んでしまった。
思いがけずクレアは俺を慕っていると言ってくれた。
不愛想で頬に傷まである俺なんかを慕ってくれている、信じられなかった。
これからは堂々とクレアをこの手で守ってやれる。
身分差なんか関係ない、俺も除籍された身だ。
父は戻れと催促してくるがそんな気は全くない。
長兄が他の大国の王女に見初められ王家より婿入りを希望されている。
ロザリアは晴れてエドガー殿下の正式な婚約者になった。
長兄は7歳も年下の政略で決められた婚約者がおり、今は揉めている最中だが俺には関係ない。
跡取りなんて養子を迎えればいいのだ、俺は王家に物申せない父を軽蔑している。
23歳にもなって自分の意見をはっきり言えない長兄もそうだ。
俺の事情何てどうでもいい。
現在問題になっているのはクレアを襲った奴らの供述で、火災が奴らの不始末なのは間違いないが、異常な火の回りの早さだ。
何故かテーブルに置いたランプが倒れてすぐに火が1階に広がった。あっという間だったそうだ。
休暇が始まってすぐにクレアは友人の家に招かれたそうだが、それが誰の家なのかクレアは絶対に言わなかった。
だがナタリー嬢の供述で明らかになった。
「別荘に誘ったのは親友だからよ!他意は無いわ。断られたのよ?ノエル様に招かれていたわ」
彼女はセシリーの供述で仲間と思われたが、事件には関係していなかった。
サウザー公爵家。
クレアはノエルサウザー公爵令嬢の友人で寮では同室だという。
嫌な予感がした。
***
体に異常が無かった私は翌日に退院しホテルに滞在することにした。
直ぐにバスタブにお湯を張って汗を流した。
さっぱりして部屋に戻ると男がいた。
「ご主人への未練も消えましたか?」
「未練?・・・もう無いわ」
「あの家にいる限りご主人は貴方の心から消えなかったでしょう」
確かにクロードの事ばかり考えていたわ。
「あの家すら私を縛っていたのね。火を付けたのは死神さん?」
「いいえ、貴方の行いが招いたことです」
「ねぇ、私は愛してくれる人を見つけたわ。もう終わったのよね」
「彼は本当に愛してくれるでしょうか。まだ私は認めません」
「どうすれば認めるの? 彼と寝たらいいのかしら」
「そんな薄っぺらな愛は認めませんよ」
死神が消えて自分の言葉を恥じた。
『寝る』だなんて、アスラン様に聞かれたら嫌われてしまうわ。
新聞に火事の件が載っていた。
事件の報道は数日続いており貴族のヘンリーをはじめ令息たちは嫡廃、除籍とあった。
セシリー同様に平民として裁かれるのだ。
ナタリーを生涯悩ませたヘンリーが彼女の人生から退場した。
彼女の未来も大きく変化したのね。
読んで頂いて有難うございました。




