6.法陣師の俺、もとパーティ仲間と決別し、王都に向かう
「そんな提案、受けられるかよ。馬鹿らしい!」
「なっ!?」「なんだとっ!?」「……気がふれたか?」「ああ!? どういうつもりだ、てめぇ!?」
俺の返答が予想外の物だったのか、ミーネは笑顔で硬直し、ルーアは驚愕の表情を浮かべ、ゴウは眉をしかめて首を傾げ、ダイは怒りの表情を浮かべてこちらを睨む。
いや、どう考えたって、受けるに値しない話だろう。
「何が悲しくて、冤罪でランクを下げさせられた相手の下につかなきゃいけないんだよ。少し考えれば、分かることだろう」
「それは、貴方たちが身の程を知らないから……」
「身の程が合わないっていうなら、もう俺たちにかまわないでくれ。俺とペルシィは二人でやっていくから」
「………私よりも、その女を選ぶというのですか?」
笑顔のままで、ミーネは俺の後ろにいるペルシィを見る。笑顔だが、目が剣呑な気配を宿していた。
「まあ、そういうことになるな」
「………私のもとにつかないのであれば、いつまでたってもFランクのままになりますよ?」
「このギルドにいる限りは、そうなるだろうな。でも、この街から遠く離れた場所なら、Aランクの威光も届かないだろう。そこでぼちぼち、ランクを上げていくさ」
「そんなことは許さないぞ!」
と、そこで俺とミーネの会話に割って入ってきたのは、ルーア達であった。
ミーネを後ろにやるように前に出ると、ルーア、ゴウ、ダイの3人は、俺に対して鋭い視線を向けてきた。そうして、ルーアが顔をしかめて俺に怒鳴ってくる。
「お前たちは、私たちの下で馬車馬のように働くべきであるはずだ! ながらく、パーティで使ってやった恩も忘れるとは!」
「使ってやった、というのは酷い言い方だな。そもそも、誰も好き好んで、雑用を引き受けていたわけじゃないぞ。お前たちがしないから、仕方なくやってやっていただけだ」
「な、なんだと!?」
「こっちが文句を言わないからって、それで調子に乗っての言葉だと思うが、その様子だと、お前たちのパーティに、これから新規で入る冒険者がかわいそうだな。使いつぶされる未来しか見えないぜ!」
ことさら、声を大きくして言うと、それまで、高みの見物をしていた周りの冒険者が、ひそひそと言葉を交わしているのが見えた。
「やっぱり」だの「あそこのパーティはまずいんだな」などの囁きが聞こえ、ルーアが頬をひくつかせた。
「そこまでにしておけ、Aランクを侮辱するとは、教育が必要なようだな」
口を閉ざしたルーアに変わり、一歩前に出てきたのは、魔剣士のゴウ。手には抜き身の剣を持ち、俺に向かって構えをとった。
「おいおい、ギルド内で暴力沙汰は問題だろう!?」
「なに、立場をわかってない低ランクの教育という名目なら、どうとでもなるさ……キエエエエエーーー!」
と、踏み込んだゴウが、真っ向から唐竹割に魔剣を振り下ろしてくる。それをーーーー
「はっ!」
「な、なにいっ!?」
魔力をこめた両手で、白刃どりの要領で抑え込んだ。魔剣の生じる魔力と、俺の両手の魔力が拮抗し、バチバチと音を立てる。
「本当に、斬りかかってくる奴があるかよっ!!」
「ぐほぉっ!?」
白刃どりをしながら、俺はゴウのみぞおちに蹴りを入れる。魔剣から手を放して吹き飛んだゴウは、地面に転がった。
「なっ!? てめぇっ!?」
ゴウがやられるとは、思ってもみなかったのか、驚きの声を上げた銃兵のダイは、素早く銃を構えると、俺に向けて発砲する!
とっさに、全身に魔力をこめて防御すると、パン!パン!と腹部と肩口に衝撃があった。
魔力で全身をコーティングすることで、致命傷は避けられたが、鈍器で殴られたような衝撃が響き、くいしばって踏みとどまる。
追撃があるかと思ったが、3発目を打とうとしたダイの側頭部を、いつの間に回り込んだのか、ペルシィが放った、飛び膝蹴りが直撃し、ダイは地面に倒れこんだ。
「まったく、剣をふるうわ、発砲するわ。これがもとパーティというんだから嫌になっちゃうっすよ」
「そうだな。ああ、大丈夫ですか?」
「えっ?」
ゴウとダイは気を失ったのか、地面に倒れ伏している。それを確認してから、俺は背後にいた受付嬢に声をかけた。
先程まで、俺とペルシィに冷たい視線を向けていた受付嬢は、俺の言葉の意味が分からなかったのか、キョトンとした顔をする。
「はー、あんた、わかってるっすか? 魔剣はともかく、あのおバカが撃った銃弾は、ジーンさんが避けたら、あんたに当たっていたっすよ」
「!?」
軽い身のこなしで、俺の横に戻ってきたペルシィの言葉に、受付嬢の顔から、血の気が引くことになった。
「ジーンさんも、それが分かったから、避けずにわざわざ受けたっていうのに……」
「ペルシィ、そこまででいいよ」
なおも受付嬢を責めようとするペルシィを制止する。そもそも、ギルド内で銃をぶっぱしたダイが悪いわけだし。
「さて、これ以上長居をすると、また攻撃を受けそうだしな。俺たちはさっさと、出ていくとしよう」
「まて! Aランクに暴力をふるっておいて、このまま逃げるつもりか!?」
ギルドから出ていこうとする、俺とペルシィに向かって、憎々しげにルーアが文句を言ってくる。
それに対し、俺はため息をつくと、ルーアに対して反論をした。
「暴力も何も、先に剣を抜いて斬りかかってきて、おまけに次は銃を撃ってきたのはそっちだ。俺もペルシィも、進んで手を出したわけじゃない。罪に問われるのは、そっちの方じゃないのか?」
「なっ!?」
「ああそれと、散々俺とペルシィを使えない奴と言っていたが、その使えない奴らに負けた、今の気分はどうだ? Aランク」
「ぐ、くく……」
怒りに震え、目を血走らせながら、こちらを睨むルーア。その背後では、笑みを浮かべたまま、ミーネがこちらを見ている。
俺の言葉に、激高して攻撃するかと思ったが、ルーアは武器を抜かなかった。受付嬢も、自らの身が危険にさらされたことで、ルーアたちに良い感情を持たなくなったようで、厳しい視線を向けている。
そんな彼女の前で、これ以上のトラブルは起こせないと思ったのか、ゴウとダイが倒され、一人で俺とペルシィ相手にやりあうのが不利と思ったのか……
ともあれ、これ以上は絡んでこなさそうなのを確認し、俺とペルシィはギルドをあとにするのであった。
「やってやったっすね! さすがはジーンさんっす!」
「喜んでいる場合じゃないぞ。ゴウとダイが回復したら、俺たちに執拗に絡んでくるだろうし、さっさと街を出るとしよう」
ギルドを出るなり、楽しそうに笑顔を見せるペルシィ。俺も内心では、喝さいを上げていたのだが、こうなってしまった以上、この街に留まっているのはまずい。
Aランクのあいつらは、ある程度の発言力はあるだろうし、ランクを落としたように冤罪をかけて、牢屋にぶち込んでくるような手を使ってくるかもしれない。
そんなわけで、俺たちは急いで馬車を借り受けると、王都とは逆の方へと走り出した。
目的地は王都だが、素直に王都方面に向かうよりも、別方向に向かったと思わせておいた方が良いだろう。
「私たちの冒険はこれからっす!!」
そんな、はしゃいだペルシィと御者台に並び、俺は馬車を進ませるのであった。
書いたストック分を終えました。また、ある程度書き溜められたら投稿する予定です。
評価等、お気が向きましたらよろしくお願いいたします。