Section2-3
「はえー……大変なことになっているんですねー」
説明を終えたブラックa2に、女性のアンドロイドは驚きながらも、のんびりとした口調で言う。
あまりにもゆったりとした言葉遣いに緊張感はなく、ブラックa2は調子を狂わされそうになるが。少しのためらいを見せてから、二体に尋ねた。
「それでその……あんたたちは、リセット予定でここにいるのか?」
だが、その質問に彼女は少しうつむいて、答えることはしなかった。
代わりに、灰色の男性アンドロイドが淡々とした表情で答えた。
「いえ、処分予定のアンドロイドです」
「……そうか」
ブラックa2も、思わずうつむいてしまう。
リセットされるアンドロイドと、処分されるアンドロイドには大きな違いがある。
リセットされるアンドロイドは、記録された一時的なデータ。日常的な仕事内容や、会話した内容を消されてしまう代わりに、プログラムをアップデートされる。
アップデートされたアンドロイドは、記憶力の向上や仕事効率のアップなど、様々な利点があるらしいが……アンドロイドから見て大した違いは感じない。
リセットを生まれ変わりと例えるなら、処分は死に当たるだろう。
処分されたアンドロイドは、身体の機能を完全に停止された後、焼却され。
きれいに残っている部品は、次のアンドロイドに使われる身体の一部となるのだ。
もしこれが人間だったなら、亡くなった人の腕なんて。たとえ自分の腕が欠損してしまうとしても移植したがらないだろう。
こんなのは、人間が効率を求めた故の、勝手な都合だ。
アンドロイドなら、誰だって一度はこの理不尽さに複雑な感情を抱く。
「俺はこれから、あいつが……友人が本当にテロを起こしているのか、確かめに行くつもりだ。だけど周りには武器持ったアンドロイドがうじゃうじゃいてさ」
ブラックa2はそう切り出してから、二人を見る。
「もし良かったら、俺と一緒に来てくれないか? 俺だけじゃ数で襲われた時、勝てないし」
その手枷は外すから、とブラックa2が言うと、女性の方は嬉しそうな表情を浮かべるが。男性のアンドロイドは思うことがあるのか、問い掛けた。
「どうして、そこまでして確かめに行くのですか? 処分されるかもしれないのに」
「……どうして、だろうな」
ブラックa2は苦笑してから、言葉を続ける。
「ここに来るまで、プログラムを書き換えられたアンドロイドを何体も見てきた。もし、あいつがそんなことをしているのなら。止めなきゃいけないと思ったんだ」
「その行動に、私たちが手を貸す意味は?」
「特にない。強いて言うなら、手枷を外してやれるってことくらいだ」
女性のアンドロイドは嬉しそうだった表情を曇らせ、再びうつむいてしまった。
だが、少なくとも男性のアンドロイドは乗る気になったのか。真剣な表情で頷き返した。
「手を貸します。どうせこのまま、処分される予定ですから」
「わ、私も……!」
女性の方も、乗り遅れまいと必死に頷き答える。
ブラックa2は短く礼を告げてから、彼らの手枷を外すことにした。