Section2-1
そんな、シークがそんなことをするなんて、考えられない。
人間相手に優しく接することのできるシークが、反政府組織のリーダーだなんて。
そう思う反面。
ホワイトc9がリセットされ、型番がホワイトc9R1に変わってから。その後に彼がどうなったのかを、ブラックa2は知らなかった。
知らないからこそ、絶対にあり得ない、なんて。そんな答えは浮かばない。
今もあの病院に勤務しているなら、ホームページか何かに、まだ型番が載っているはず。
そう思い『まな診療所』で検索したが、ホームページがヒットしなかった。
マップで検索をかけても、住所すら出てこない。
そもそも存在しないかのようだ。
少なくとも、今は見つからない。
「……確かめないと」
ブラックa2は拳を強く握りしめ。周囲に人がいないことを窺い見てから、ビルの隙間を抜け出る。
あの病院は確か、隣の葛飾区内にあったはず。
近くまで行けば、何かわかるかもしれない。
行ってみよう、事実を確かめるために。
ブラックa2は歩き出す。
時刻はようやく、午前の七時半に差し掛かったところだった。
最寄りの駅が煙を撒き上げながら崩れたとするなら、列車に乗っての移動は難しいかもしれない。
かといって、宙を走る空中バスに乗る客のほとんどは人間。アンドロイドの彼が乗るわけにはいかない。
となれば、地上を往く列車以外の交通手段か、自分の足で向かうしかない。
ブラックa2はここ、足立区から葛飾区までに掛かる移動時間を確認してから、結局徒歩で向かうことにした。
最初は周囲を慎重に見ながら進んでいたが。幸いなことに、人の姿は一人として見かけなかった。
情報によれば、今、人々は東京都外に向かって避難している最中のようだ。
随時情報を確認しながら、住宅街を抜け、土手沿いに葛飾区へと向かう。
だが途中、川を渡ろうと小走りに橋へ向かおうとして、ブラックa2は立ち止まる。
橋の中央、まるで誰かの足止めをするかのようにアンドロイドたちが立ち、道を塞いでいた。
その手には混紡のような武器が握られており。数えれば五体いるようだった。
「さすがに、分が悪いな……」
橋の上にいるアンドロイドたちに見えない位置から様子を窺うが、相手はその場から動く様子がない。
橋を渡ったほうが、距離としては近いのだが……土手沿いにでも行けるのだから、ここは迂回するべきだろう。
ブラックa2は橋から離れ、別の道を検索しながら再び歩き出した。