Section1-2
『現在、東京都内で大規模な障害が発生しております。これにより、列車の事故や停電、断水など。様々な事故が発生しており――』
視界にニュース番組を透かして表示させると、速報で今起きている不具合や事故の情報を、黄色のアンドロイドが読み上げていた。
だが次第に、情報を読み上げていたアンドロイドが奇怪な音を出しはじめ。
「ましてテ、てけ、テケケケケ……」
直後、爆発音。
カメラは爆風を映して、ノイズを混じらせながら放送を中断させた。
「なんだよ、これ……」
ブラックa2が呆然と呟いた。
そして聞こえ出す、人々の悲鳴、駆け出す足音。
騒々しさは、この場にいるアンドロイドたちにも不安を伝播させていく。
あまりにも常識離れした出来事に、呆然と立ち尽くしていた彼の視界で。つけっぱなしだったニュース番組が再び映し出され、今では珍しくなった人間のキャスターが動揺を抑えるようにゆっくりと言った。
『み、皆さん。たった今、政府から発表がありました。中継です、ご覧ください』
映像が切り替わり、政治家らしき男が話し始めた。
これはテロだ、と。
『このテロに加担していると思われる、アンドロイドの情報を公表します。この型番と同じアンドロイドを見かけた方は、近づかず、すぐにこちらの電話番号へ通報してください』
そう言って、政治家が指し示した電子ボードに表示されたのは、絵文字の羅列。
誰もが驚き、慌て訂正しようとしている様子が映し出されているが。結局、通報の番号は表示されず。
それどころか、先ほどまで表示されていたアンドロイドの型番すらも表示されなくなり。
記者と政治家の怒号で、現場は大混乱だった。
「逃げろ! 早く!!」
その時、ブラックa2の後ろから、数人の人間が駆け足で逃げていくのが見えた。
人々は、同じ人間に対してだけ、逃げろと声を上げている。
誰も、アンドロイドには見向きもしない。
「ぎゃあ! ひ、ひいぃ……!!」
悲鳴がすぐそばで聞こえ、ブラックa2は振り返った。
見れば、すぐそこで転び、倒れ伏した人間に襲い掛かるアンドロイドの姿。
アンドロイドの白い手には、包丁。
すでにその体は赤い血でまみれていた。
人間を助ける義理なんてない。
そもそも、助けたところで何の得もない。
むしろ助けたことで、人の害となる存在。
『人の心を持つ不良品』として処分されてしまうかもしれない。
それなのに、彼の身体は自然と動き出していた。
すぐそばにあったのは、足場を組み立てるために用意された鉄パイプ。
ブラックa2は長い鉄パイプを手に取り、白いアンドロイドに向かって駆け出した。
鉄パイプを、金属バットのように持ち。振りかぶってアンドロイドの顔面に叩き込んだ。
普通のアンドロイドなら、この衝撃でなにかしらの異常を察し、一旦動きを止めるはず。
「マジかよ……」
だが、白いアンドロイドは、ゆらりと、糸で吊られた人形のように立ち上がった。
リミッターが壊れているのか、意図的に切られているのか。
どうやら壊れるまで動き続けるつもりのようだ。
「逃げろおっさん!!」
助けた人間に、ブラックa2が叫んだ。
人間は、不安定な足取りだったが、それでも駆け足で逃げていく。
見れば、他のアンドロイドたちも異常事態を察し、どこかへ避難したあとのようだ。
白いアンドロイドと相対するブラックa2。
相手は包丁を強く握ったまま、一言も発さずに襲い掛かってきた。
その攻撃を、鉄パイプで弾き、かわす。
「まさか……お前、プログラムを操作されたのか!?」
ブラックa2の言葉に、相手は反応を返さない。
ただ、決められた行動を繰り返しているだけのように見えた。
「くそ……悪く、思うなよ!」
接近してきた相手に、ブラックa2の蹴りが決まる。
身体がよろめいた瞬間を狙って、鉄パイプで頭を思い切り殴りつけると。
相手の頭部が吹き飛んで。何本かの配線がちぎれ、むき出しになった。
白い手から、包丁が零れ落ちる。
アンドロイドの体が、後ろに向かってゆっくりと、大の字に倒れていった。
動かなくなった白のアンドロイド。
ブラックa2は、倒れたアンドロイドの首から伸びる配線から視線を逸らして、焦りの言葉を漏らす。
「何なんだよ、一体……どうなってんだ!?」