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モノクロの果てに  作者: 深海
前編
2/8

Section1-1

 十七年前、初冬。

 当時、ビルの建設途中だった工事現場近くで。

 夜間であるにも関わらず、一人の少年が膝を擦りむいたまま、夜道を歩いていた。

 小学生だろうか。膝下から垂れていた血はすっかり乾いていたが、治療した様子は見受けられない。

 少年は半べそになりながら。一人、途方に暮れるかのように夜空に浮かんだ三日月を見上げていた。

 周囲に人の姿はなく、いるのはロボットだけだった。

 その、ロボットたちの中に、彼。ブラックa2もいた。

 怪我をしている少年を見つけた彼は、一時間ほど様子を見ていたが。

 いつまでも家に帰る様子がなかったため、恐る恐る少年に近づいた。


 アンドロイドたちには、人間に声を掛けると、最悪『人の心を持つ危険な不良品』として扱われ。処分される危険性があった。

 けれど、相手が子供なら、自分たちをそんなふうに扱いはしないのではないか。

 少年を見かねたブラックa2は、そこまで考えてから行動した。



「どうしましたか?」


 道案内をするアンドロイドたちになるべく似せながら、少年に声を掛ける。

 少年の視線が、ブラックa2に向けられた。

 だが、その視線はすぐに地面へと落とされる。


「案内をご希望ですか? なんでもお尋ねください」


 ブラックa2が再び声を掛けると、少年は()ねるように答えた。


「……ロボットにはわかんないよ」

「何か、お困りのことがございますか?」


 それでもブラックa2が尋ね続けると、少年はその場にしゃがみ込む。

 どこにでもあるような、何気ない街灯が、二人を温かく照らし続けていた。

 少年は嗚咽と、鼻をすする音を出して、言った。


「痛い……すごく、痛い」

「どこが痛みますか?」


 ブラックa2もしゃがみ込み、少年に合わせる。

 もしかしたら、擦りむいた箇所が痛むのかもしれない。雑菌でも入っただろうか?

 そう思っていると、少年から予想外の言葉が返ってきた。


「喉が、胸が、足が、痛い……痛いよ……」


 少年が顔を上げ、ブラックa2を見る。

 両目から大粒の涙がぼろぼろ、こぼれ落ちていた。

 よく見れば、彼の目元は涙で赤く腫れ、痛々しいほどだった。

 だが、膝の擦り傷を除けば、他に外傷はなさそうに見える。

 外傷がないのなら、身体の内側が損傷している?

 しかし、痛む箇所を聞いた感じでは、内臓の損傷ではないだろう。


「……治療しましょう、案内します。立てますか?」


 ブラックa2は、黒い腕を少年に差し伸べる。

 少年は驚きの目を向けてから。その黒い手を掴んで、ふらつく足で立ち上がった。


 それからブラックa2は近場の小さな内科病院へと向かった。

 素人の自分が調べるよりも、専門的なアンドロイドに調べてもらったほうが早い。

 この病院なら、情報が正しければ夜間でも、急患を受け入れている。

 そう考えて、少年を連れて行った。

 途中から、あまりにも少年の足取りが遅かったため背負い。

 病院の扉前まで来て、インターホンを鳴らした。

 ここで人間の医者が出てきたら『アウト』だろう。間違いなく自分は処分される。


『こちら、まな診療所です。急患ですか?』


 インターホン越しに声が聞こえた。

 これだけでは人かアンドロイドかわからない。

 ブラックa2は、少しの迷いを見せてから、答えた。


「子供が一人、膝を怪我していたので連れてきました。喉と胸、足が痛いと言っています」

『わかりました。今、扉を開けます』


 ガチャリ、とロックが解除される音がして。すぐに扉が開いた。

 そしてやってきたのは、白い腕を持つ、医療福祉に携わる中性的な顔つきのアンドロイドだった。

 相手はブラックa2を見ると、驚きの表情を見せてから、すぐに真剣な表情へと戻り。少年を院内へと招き入れた。

 だが、その後をついて行こうとしたブラックa2を、白いアンドロイドは引き留める。


「彼はこちらでお預かりします、あなたは仕事に戻ってください」

「え、でも……」

「あなた、職場を抜け出してきたでしょう? これ以上は危険です」


 そこまで言われて、白いアンドロイドが言わんとしていることを理解した。

 職場を抜け出したことが人間にバレたら、その時点で処分されるかもしれない。

 これ以上持ち場から離れているのは危険だ、そう言っているのだ。


「さあ、早く」


 白いアンドロイドが急かす。

 ブラックa2は来た道を急ぎ、駆け戻った。

 少年の痛みが無事、取り除かれることを祈って。

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