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九話 人気者

「……相変わらず、その精霊術の技量は凄まじいの一言ですね。メルト殿下」


 〝シルフ〟の手を借りて橋の補修を行う中、感嘆が入り混じったような声音が、背後から聞こえて来る。

 ウェルグ国内であれば、私の顔と名前が一致している人は多いだろうけど、ここはもうノーズレッド王国内。

 にもかかわらず、私の後ろ姿だけで名前を呼ばれた事に驚きつつも私は肩越しに振り返る。


「あれ。なんで私の名前を……って、ドルクさん!?」


 振り返るとそこには、穏やかな笑みを浮かべた中肉中背の三十歳前後の男性がいた。


 彼の名を、ドルク・アンドリュー。

 姉達に政務を押し付けられる中で仲良くなった人間の一人で、マスカレード商会と呼ばれる商会に所属している商人さんであった。


「……いやはや、橋の崩落でどうしたものかと困っていたのですが、まさかこんなところでメルト殿下にお会い出来るとは。あぁいや、今はアルフェリア公爵夫人になられたのでしたか」


 であれば、ノーズレッドにメルト様がいらっしゃっても何らおかしくはありませんね。

 と、ドルクさんは言葉を締め括る。


 ドルクさんは、ウェルグ王家とも直接取引をしていた大商会────マスカレード商会に所属していた為、政務の大半をぶん投げられていた私とは無論、交友があった。


 それもあって、私の身の上もそれなりに知っている。だからこそ、言い詰まっていたのだろう。

 ようやく、苦労の連鎖から解放された私であったけど、同時に冷酷公爵と呼ばれているヨシュアに嫁ぐことになってしまっている。

 祝福すべきなのか、そうでないのか。


「おめでとうで問題ありませんよ、ドルクさん」


 だから、私はドルクさんに助け舟を出す事にした。


「ヨシュアは、冷酷なんて呼ばれてますけど、その実、物凄い気遣い屋ですし、屋敷にいる使用人さん達も優しい人ばかりですから」


 一瞬、側にヨシュアがいるから取り繕っているのかとでも思ったのか。

 ドルクさんの表情は曇っていたけれど、ここは伊達に付き合いが短くないとでもいうべきか。


 私が本心からそう言っているのだと察してくれたのか。ドルクさんの表情は次第に和らいでゆき、最終的に笑みを向けて「そうでしたか」と言ってくれた。


「ところで、メルト様達も王都に?」


 この道は王都に続く道である。

 普通に考えれば、それ以外に他の選択肢はないのだが、何を思ってか。

 ドルクさんはそんな確認をしてきた。


「あ、はい。えと、クラウスさんを王都に送り届けるついでに私は今回、同行させて貰ってる感じですね」

「成る程。でしたら、王都に滞在中、お時間がありましたら、うちの商会に寄って頂けませんか」

「マスカレード商会に、ですか?」

「ええ。アルフェリア公爵閣下とのお話がめでたい話であるのなら、色々と恩のあるメルト様にはお祝いの品を是非ともお渡ししたく」


 ……ああ、そっか。

 普通は、結婚出来て良かったね。

 になるんだろうけど、それが殆ど生贄で、相手は散々な風評の冷酷公爵。


 内情を少しでも知る人間であれば、祝うに祝えないという状態に陥る事は必至であった。


「そうでもしなければ、私は大旦那に大目玉を食らってしまいます」


 ですのでどうか、帰り際の数分でも構わないので寄っていただけましたら幸いですと言葉を付け足された。


「……メルト様って、あのメルト様か?」


 そんな中、ドルクさんの言葉を聞いてか。

 また一人と、何故か私の名を呼んでくる。


 ……あのメルト様って、どのメルト様なんだろうか。


「ディリーズ商会のもんです! あの時は、メルト様に救われたってうちの若いモンが言ってまして! ほんっ、と助かりました!! なんとお礼をすれば良いか……」


 でぃ、ディリーズ商会?

 は、はて。何か私したっけかな、と思案する事、十数秒。


「あ、もしかして、あの時の壺の!」

「ええ! そうです! そのディリーズ商会です!」


 そう言えば、二ヶ月ほど前。

 ウェルグ王国のとある貴族様に届ける壺が割れてしまっていた。

 どうしようと右往左往していた青年が確かディリーズ商会の人間だったような気がする。


 しかも、届け先はウェルグ王国の中でも色々と面倒臭い厄介な貴族であった。

 青年に悪気があったわけではなさそうだったが、流石の万能精霊術でも壊れた物を完全に元通りにする事は難しい。


 という事で、丁度、件の貴族が溺愛しているご令嬢が体調を崩しているという話を聞いていたので、その体調を案じ、薬草を持って来ていた。とかやれば、怒りは少しくらい収まるのではないか。

 そう思って精霊術でどうにか用意した薬草を持たせて一緒に試行錯誤していた記憶が蘇る。


「あのバカタレ、よりにもよって貴族様への商品を傷付けるなど」

「……ま、まあまあ。誰しも失敗はありますので」


 結局、その事では大事に発展する事はなかったし、終わりよければ全てよしなのだ。

 そして、それを皮切りに、「あの時はお世話になりました!」といった声が続々と聞こえ出し、それらの声に私は揉みくちゃにされる。


 ……確かに、助けたいという気持ちはあったけど、根底にあったのは、ただ、面倒事が起こるとその皺寄せが間違いなく私にくるから出来る限り大事にならないように動いていただけだった。

 だから結構、お礼を言われるのが申し訳なくて。


 でも、流石にこんな状況でそれを言い出せるわけもなくて。


「人気者だな」

「もしかしてメルトさん、その人気使って女王になる事も出来たんじゃない?」

「絶対なりたくないです!」


 他人事と思って笑うヨシュアと、隣でとんでもない事を言い出すクラウスさんに、即座に否定の言葉を返しながら、目で「助けて!」と訴えかけるけど、何故か取り合ってくれない。

 ヨシュアに至っては、ふむふむと商人さん達の話に耳を傾けては、昔から何も変わらないな。なんて感想を残して観衆の一人と化していた。


 橋の補修さえ終わりさえすれば。

 そう思い、〝シルフ〟に視線を向けるけど、此方も私の状況を見て楽しんでいるのか。

 明らかに補修の速度が遅かった。


 ……後で覚えてろ、二人とも。

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