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七話 ビリビリ

 思わず、内容を二度見した。

 でも、何度見直してもその内容が変化する事はなく、ただただそれが事実であると現実を叩きつけられるだけだった。


「いや、助けてって言われても」


 私を送り出したの君らじゃん。


 それに、政略結婚とはいえ嫁入りしちゃったんだからもうアルフェリア公爵家の人間になっちゃったわけで。

 助けてと言われても、私にはどうしようも出来ないと思うんだけど。


 でも、言われてもみればここ数年、私が色々と負担してた分を必然、誰かが担当しなくちゃいけないわけで。

 単なる政務だけならば、まだ代わりが見つけやすかっただろうけど、私の政務には「精霊術」が含まれている。


 精霊術が使えるのは王家の人間のみという縛りがある以上、代役は王家の人間に限られる。

 とは言っても、あの意地悪姉達がどうにか出来るかと聞かれれば、首を傾けずにはいられない。


 そして現実、ダメだったのだろう。

 だから多分、こんな手紙が私に届けられたんだと思う。


「……助けて下さい?」


 隣に座るヨシュアが、不思議そうに手紙の中身を読みあげる。


「あー、うん。多分、精霊術絡みで色々と困ってるんだと思う」


 ウェルグに出向いてどうこうは無理にせよ、手紙の返事にこれまでやってきた仕事を、詳細に書いて返すくらいは出来るけど……。


「……でも、素直に聞く人達じゃないと思うんだけどなあ」


 ただの徒労に終わる気しかしない。

 加えて、執事長がこの内容を送ってきたという事は、義母や姉達からの手紙には恨み節のような事が書かれていたのだろうなと容易に予想出来てしまった。


 ……うん。やっぱりあれらは燃やしてしまおう。


「なら、放っておけば良いんじゃない?」


 クラウスさんが言う。


「本当に困ってるなら、向こうが出向いて頭を下げに来るのが最低限の礼儀。追い出した人間に、戻ってきてくれと言うのは色々と面子が立たないんだろうけど、そうしないうちは放っておいて良いと思うけど」


 結果良ければ全て良し。

 という考え方でいくならば、過程はどうあれ、ヨシュアと引き合わせてくれた事に対する恩返し────という事も吝かではなかったのだけど、言われてもみればそうだなと思う自分もいた。

 でも、そうしたら少なからずヨシュアにも迷惑が掛かるんじゃないだろうか?

 やっぱり、面倒事は片付けてしまっておいた方が……と思っていると、ヨシュアがひょいと手紙を私から取り上げた。


「ヨシュア? って、あ! あ! あ!」


 直後、当たり前のようにビリビリと縦に手紙を破ってゆくヨシュアの行動に、私は思わず声を上げる。


「これまで、散々な扱いを受けていた人間に送る手紙じゃないな。これからは無視でいい。悪かった」


 そして、手紙を見せた事に対して謝られる。

 クラウスさんは、「ヨシュアのそういうところが好きなんだよねえ」と、げらげら笑ってた。今、理解した。この二人、性格の根本的なところが似てるんだ。


「まぁ、ヨシュアが良いなら良いんだけど」


 唯一の懸念といえば、ヨシュアに迷惑が掛かっちゃうんじゃないか。

 という一点だったので、それが問題ないのであれば、結論はもう出たようなもの。


「よし、なら放置」


 下手な考え休むに似たり。

 頭を悩ませても、良い案が浮かぶ気はちっともしなかった。

 だから、ウェルグの王城に戻っても碌なことがない事は身を以て知ってるので、今の生活にしがみついていたいという考えを尊重する事にした。


 なるようになる。たぶん。


 そんな結論を出した数分ほど後。

 何故か突然、王都へ向かって順調に進んでいた筈の馬車の速度がゆっくりと落ちてゆく。

 やがて、どうしてか。

 馬車の動きそのものが、完全に停止する事となった。



「……あれ? どうしたんだろう」


 がやがやと喧騒のような音が聞こえて来る。

 人集りでも出来ているのだろうか。


 馬車に設られた窓から顔を出して状況を確認すると同時、その原因を御者の人間から告げられた。


「橋が、落ちておりますね……どういたしましょうか、ヨシュア様」


 そこには、本来あるべき筈の橋。

 それが何らかの理由によって壊されでもしたのか。ものの見事に崩落していた。


 とても、馬車が通れるような状態ではなかった。


「それはどうしようもない。今からでも遅くない、アルフェリア公爵領に引き返そう!」

「……崩落するようなヤワな橋ではなかったと思うんだが」


 意気揚々と声高に叫ぶクラウスさんの言葉をガン無視して、ヨシュアは御者の人間に返事する。

 最中、馬車の中にいても仕方がなかったので私はひょいと馬車の外へと出てみた。


 見る限り、十組くらいの商人達が橋の崩落によって進めず、立ち往生しながらどうしたものかと頭を悩ませているようであった。


「ねえ、ヨシュア。ちょっと、崩落してる橋を見てくるね」


 橋の中央部分は、谷折りのように崩落していて、その残骸が遥か下の方に乱雑に散らばっているものの、辛うじて原型を留めてはいる。


 もしかすると、私で力になれる事があるかもしれないし、様子を見に行ってみる事にした。

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