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六話 手紙の中身

 それから数十分程経過した後、クラウスが観念しているうちに王都に向かってしまおう。

 というヨシュアの考えに従って、私達は馬車に乗り込んで王都へ向かう事になっていた。


「仲、良いんですね二人とも」


 観念してはいたが、やっぱり王城へ戻る事が嫌なのか。最後の最後で抵抗を見せて脱走を試みていたクラウスさんを馬車に放り込んでいたヨシュアの姿を目にしていた私は、呟く。


 一応、私も王族だったからだろう。

 王子と公爵家当主という立場の違いがあるにもかかわらず、ヨシュアとクラウスさんの間柄というものは、旧知の仲。兄弟。親友。そういったものにしか見えなかった事実が意外であったので、尋ねてみる。

 だけど、あまり彼らからすると面白くない質問だったのか、二人して険しい表情に移り変わってゆく。


「腐れ縁だな」

「腐れ縁だね」


 数秒ほど悩んだのちに出てきた言葉は、二人して同じものだった。

 だから、「やっぱり仲良いじゃん」と思って、くすりとつい、笑ってしまう。


 でも、そんな私の反応が不服であったのか。

 ヨシュアは言い訳をするように、言葉を紡ぎ始める。


「……変わってるんだよ、コイツは」

「変わってる?」

「昔の俺に、友達になろうとかいって手を差し伸べてくる人間といえば分かりやすいか」


 昔のヨシュア、というと……周りからあまりよく思われてなかった頃だろうか。

 クラウスさんに、私のような事情があれば分からなくもないけど、そんな様子は見受けられない。

 周囲から嫌われていたヨシュアに、あえて手を差し伸べてくる理由は一見するとないようにも思える。確かに、私もヨシュアの立場であれば、少しだけ「変わってる」と言っていたかもしれない。


「仕方がないじゃないか。僕は嫌いなんだよ。あの頭でっかち共が」

「貴族諸侯に対しても、この言い草だ」


 ほら、変わってるだろ?


 自分達と違って、ちゃんとした王子なのに、こんな発言をするんだよ、コイツは。

 呆れ返るヨシュアの気持ちも、今ならよく分かる。ずっと王城で過ごしていた私だからこそ、その考え方は変わってると言わずにいられなかった。


「ぶっちゃけ、政務は別に構わないんだけど、話が通じない貴族の爺共とのやり取りがものすっごく、ストレス溜まるんだよ……! あいつら人の話聞く気ないし……!」

「でも、陛下は上手くやってただろ。上に立つ人間は、どんな人間だろうと上手く扱わなきゃいけないと言ってな」

「僕には無理」


 清々しいまでの一刀両断。

 改善の余地はどこにも見当たらない程、諦め切った一言であった。


「そういえば、ノーズレッドの国王様ってどんな方なの?」


 王都に出向くついでに、王家の人間に顔見せをするともヨシュアは言っていた。

 とすれば、国王様と顔を合わせる機会があるかもしれない。否、一応王女という私の立場を考えれば、顔を合わせる可能性は極めて高いものだと思う。


「偏見がないさっぱりした人だな」


 するりとヨシュアの口から言葉が出てきた。


「良く言えば、全員に平等。悪くいえば、身内贔屓をしてくれない石頭だよ」

「……両方美徳じゃないです?」

「……実の息子である僕にくらい、身内贔屓して欲しいんだよ。特に、政務とか政務とか政務とか」


 続くように聞こえてきたクラウスさんの言葉は、私怨百パーセントの感想であった。

 偏見に満ち満ちていた。


「でも、心配せずともあの陛下の事だ。メルトさんの事は気に入ると思うよ」


 私の実の父であり、ウェルグ王国の国王様は、救いようがない悪い人、というわけではないのだけど、私にとってはあまり良い父ではなかった。


 ……だからこそ、義母や姉達から嫌がらせを受けていたのだけれど。


 そのイメージが先行しているせいか。

 少しだけ、クラウスさんの言葉に対して意外に思ってしまう。


「基本的には全員に平等な人なんだけど、政治的な腹の探り合いをする機会が多いからか。あの人、裏表のない性格の人が好きだからさ」


 だから、僕の目から見てさっぱりした性格の君の事は、陛下的に好ましいものだと思う。

 そう告げられて、少しだけ安堵して、緊張が心なしか解れたような気がした。


 それどころか、ヨシュアも気を許しているようにも思えるその国王様に会ってみたいという気持ちが膨れ上がった。


「ところで、話は変わるんだが」

「?」


 懐に手を突っ込み、ゴソゴソとヨシュアは何やら一枚の手紙のようなものを取り出す。


 どうしたのだろうか、と思っていた私だけど、取り出されたその手紙には覚えしかなくて、変な汗が背中を濡らす。

 もしかすると、顔も引き攣っちゃってるかもしれない。


 その手紙は、ヨシュアとクラウスさんが私の部屋を訪ねて来た際に丁度、片付けていたあの(、、)手紙と同じものだった。


「また届いてたぞ、手紙」


 差し出される。


 そのせいで、少しだけ気まずい空気が場に降りた。ヨシュアは、私宛に手紙が大量に届いている事を知ってるし、それに対して返事をしていない事も知っている。


「実家が好きじゃない事は百も承知だが、流石にそろそろ返事の一つくらいしておいた方が良いんじゃないか? これだけ手紙が来るんだ。重要な事かもしれないだろ」

「……う、うむむ」


 一理ある。

 どころか、あり過ぎる。


 臭い物に蓋をする理論で見ないふりを敢行していたのだけれど、流石にそれも限界であったらしい。


「た、確かに、これだけ手紙が送られてくるという事は重要な事なのかもしれない」


 しかも、ヨシュアのその言葉にはちょっとした心当たりもあった。


 あの手紙。

 初めの頃は、義母や姉達から届けられていたんだけど、ある日突然、差出人が城勤めをしている執事長の名前に変わっていた。


 けれど、執事長も私が特別親しくしていた人間でもない上、義母や姉達に頭が上がらない人だったからあまり気に留めていなかったのだけれど、


「ま、試しに一回くらい見ておいた方が良いんじゃない? ロクでもない事なら、次からは絶対に見ないようにすれば良いだけなんだし」


 隣でクラウスさんが言う。


 これが最初で最後。

 そう思って今回は折角なんだし、読んでみとこうよ、と。


「……まぁ、そうですね。じゃあ一回くらいは読んでおきますか」


 赤い封を外し、私は手紙の中を確認する。

 差出人はやっぱり、執事長。


 で、肝心の中身はというと簡潔に一言で纏められていた。



『政務の手が回りません。助けて下さい』

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