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二話 幼馴染

 †


「————まず、本題を単刀直入に言わせてくれ。少なくとも先二年間は、この関係を我慢してくれないか」


 ヨシュアのその発言に、私は目をぱちくりとさせてしまう。

 我慢、というと、冷酷公爵様こと、ヨシュアとの縁談についてだろうか?


「あの、幾つか質問しても?」

「遠慮なく聞いてくれ」

「政務って私、どのくらい担当しなきゃいけませんかね」

「……成る程。そういう質問か。政務ならば、たしかに、出来れば少しくらい手伝っては貰いたいな。見ての通り、手が回っていなくてな」


 そう口にするヨシュアの視線の先には、机の上に積み重ねられた書類のようなものが幾つか見える。

 だが、今まで処理してきた山積みの書類を考えればあの程度、優しいものだ。問題ない。


「ご飯は、温かいものでしょうか……?」

「いや、それは当然だと思うんだが。というか、何故敬語で言う」


 これまでは義母と姉の嫌がらせで冷え切ったご飯ばかり食べる羽目になっていた。

 出来れば、温かいご飯を食べさせていただけると……嬉しいなあ、なんて。


 と、一縷の望みを乗せて尋ねると、当たり前のように快諾された。

 ……え、いいの!? 本当に良いの!?


「あ、あと、精霊術の使用は程々で勘弁を」

「……なあ、メルト。お前、俺を奴隷商人か何かと勘違いしてないか?」


 私達、ウェルグ王家の人間は、代々精霊術と呼ばれる秘術を扱う御家。

 その効果は多岐にわたり、花や食物を成長させたり、壊れた建物を直したり。

 兎に角、万能だったのだが、その反面疲労感がとんでもなく、出来れば酷使は勘弁して欲しいかなあ。

 と、希望を告げてみると滅茶苦茶呆れられた。


 でも、王宮では平気で姉と義母が強制的に私にさせてたんだよ、これ。


「さ、最後! 最後にもう一つだけ!」

「……なんだ」


 もう少し真面な質問はないのかと言わんばかりの辟易とした返事だけど、私にとっては重要な事なのだ。


「なんか急に政略結婚、って形になっちゃったけど……昔みたいにヨシュアと接しても問題ないのかな」

「…………」


 一応、その場のノリで敬語は取っ払っちゃってるけど、子供だったあの頃とは違う。

 それにこれは国同士が決めた政略結婚。


 これでも王女の身なので、これを公とするなら、公私を弁えて接する事だって吝かではない。だから、そう問うてみると、至極真っ当な真面目な質問にヨシュアは口を真一文字に引き結ぶ。


 やがて、


「俺は、お前となら許容するってあいつに(、、、、)条件出したんだ。駄目だなんて言うはずがない。寧ろ、誰が何と言おうと昔のように接して貰うつもりだった」


 最後の質問だけは、あくまで確認。

 その返答がどう転ぼうが、最早私の返事が変わる事はなかったけど、それでもやっぱりそう言ってくれるのは素直に嬉しくて。


「末長くお世話になります」


 二年と言わず、一生お世話になろう。

 いや、お世話にならせて下さい。


 そんな事を考える私に、ヨシュアから呆れ混じりの苦笑いが向けられた。


「……何となくは想像出来るが、一体、どんな日々を送ってきたんだか」

「真っ先に生贄にされるような日々です」


 お互いに境遇は似ていたので、何となく理解は出来るのだろう。

 とはいえ、私のその物言いにはヨシュアも笑いを噛み殺していた。


「でも、ヨシュアって、姉さん達が来てたらどうするつもりだったの?」


 あくまで今回の件は、王家から一人。

 冷酷公爵様に政略結婚で嫁がせる。

 というものであった。


 そこに誰を寄越せという指名はなかった筈。

 だから、あの横暴な姉Aや姉Bが来ていたらどうするつもりだったのだろうか。


 そう思って問うてみる。


「それはないと分かってた。それに、逆にメルトを指名すると、それを奪おうとする可能性は無きにしも非ずだっただろう」

「よ、よくご存知で……」


 たとえ相手が冷酷公爵だったとしても。

 あの意地悪姉共なら、やりかねない。


 最悪、ウェルグ王国に戻ってきて、代役ですとかいって私に行けとか言いかねない。

 流石はヨシュア。


 八年前に二人で愚痴り合っていただけあって、こっちの事情をよく知っている。


「だから、あの内容だったんだ」


 ただ、何気なく発せられたヨシュアのそのセリフはまるで、はなから私を選ぼうとしているようにしか捉えられなくて。


 加えて、少し前に告げられた私なら許容する。と言う発言も拍車を掛けていた。

 でも、ヨシュアが私に惚れていた。なんて自惚れる気は一切なかった。

 あくまで私達は、友達。

 それ以上でもそれ以下でもなかったから。


「でも、良かったよ」

「良かった?」

「ああ。なにせ、俺に出来る恩返しといえば、このくらいしかなかったから」


 ————恩返し。


 当たり前のように発せられたその言葉。

 しかし、私にはその言葉を向けられる覚えはこれっぽっちもなくてつい、眉間に僅かに皺が寄り、疑問符が脳内でチラつく。


 でも、それを指摘して尋ねようとする私の言葉は、ヨシュアの言葉によって遮られる。


「ひとまず、問題がないようで良かった。長旅で疲れてるだろう。メルトの部屋は用意してあるから、今日はそこで休んでいてくれ」


 その言葉を最後に、部屋の隅に待機していたメイドさんに、「ささ、こちらです」と言われて半ば強引に私は部屋へと案内をされる羽目になっていた。

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