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十四話 闇魔法

 ヨシュアに案内をされてたどり着いた『リルドの湖』は、緑豊かな自然溢れる場所だった。

 雲を切る鳥がいて、思わず目を細めてしまうような心地の良い風が吹き、咲き誇る花は微かに揺れては何処か甘い香りを届けてくれる。

 森の精霊である〝シルフ〟がこの場にいたならば、きっと己の語彙を尽くして賛美していた事だろう────本来であれば(、、、、、、)


「……何があったんだろうね、これ」


 本来の『リルドの湖』の美しさの面影はあった。それでも、まるで嵐が過ぎ去った後。

 そう称すべき、何者かに荒らされた痕跡がそこにはくっきりと残されていた。


 ただ、荒らされて間もなくという訳ではないのか。ノーズレッド所属の騎士らしき者達が何人か見受けられた。


「穏やかな事じゃないのは確かだな。取り敢えず、人がいるなら事情をまず聞いてみるか」


 『リルドの湖』でゆっくり出来たら。

 そう考えていたけれど、とてもじゃないがそんな事が出来るような雰囲気でもなく。

 取り敢えず、事情を聞いてみるというヨシュアの言葉に私は頷く事にした。


「少しいいか」

「なんだあ? 先日から、ここは立ち入り禁止って触れを出し────って、公爵閣下!?」


 抑揚のない平坦な声で問い掛けるヨシュアに対して、肩越しに振り返り、返事をしようとした騎士の一人はやる気ない口調から一変。

 びくっ、と身体を跳ねさせ、慌てて姿勢を正していた。


 勿論、家格の差がある故の反応なのだろうが、それにしても「怖がられてるなあ」と思わずにはいられない態度の豹変ぷりであった。

 噛み噛みでしどろもどろになってるあたりが、特に。


「ど、どうして公爵閣下が王都に」

「クラウスを送り届けにきた。そのついでに、折角だからとメルトに王都を案内していてな」


 そこで漸く私の存在に気がついたのか。

 騎士さんの視線がヨシュアから、私に移動する。


「……あぁ、成る程。そういう事でしたか」


 私がアルフェリア公爵家に嫁いだ事は周知の事実。それ故に、説明の方は手っ取り早く済んでいた。


「でしたら、王都の案内は繁華街など如何でしょう。恐れながら、『リルドの湖』を含め、王都郊外付近はこの通り物騒でして……」

「確かに物騒だな。それで、ここで何があった?」

「……、黒い魔物の噂を閣下はご存知ですか」


 黒い魔物の噂。


 それは、王都に向かう最中にクラウスさんから聞いていた話と一致するものであった。


「クラウスから、搔い摘んでだが聞きはした」

「でしたら話は早い。その話についてなんですが、実は今、かなり厄介な事になっていまして」

「厄介?」

「ええ。ただ魔物が暴れてるだけなら問題は大してありませんでした。ですが今回の一件、どうにも陰で糸を引いている人間がいる可能性が高く。上層部は、恐らくウェルグとノーズレッドが手を組んだ事で焦りを抱いた国の人間ではないかと予想もしておりまして」


 騎士の物言いに、疑問符が浮かんだ。

 であるならば、一体全体、何が問題なのだろうか。


「『────〝闇魔法〟の使い手が、ノーズレッドの何処かに潜んでるから厄介、なんでしょ』」


 騎士の方の返事より先に、言葉がやってきた。それは、王都に足を踏み入れた直後に私達と別れていた〝シルフ〟の声だった。


 直後、私の顔と、喋る白猫こと、〝シルフ〟の姿を騎士は交互に見比べる。


「精霊、ですか」

「流石にウェルグ王家の精霊術は知名度高いですもんね」


 普通は喋る猫!?

 って驚くところだろうけど、側にいる私の正体が判明しているのであれば、その事実は然程驚愕するものでもなかったのだろう。


「ところで、〝シルフ〟は何やってたの?」

「『調べ物だよ、調べ物。ちょっと気になった事があったから調べてたんだよねえ。それと多分、今回の一件は禁術指定の〝闇魔法〟を使って暴れてる奴がいるから中々収束がつかないんでしょ』」


 突として現れ、会話に混ざり込んできた〝シルフ〟の言う通り、〝闇魔法〟は禁術指定にもなっている魔法であった。

 基本的に倫理観を無視している魔法しかなく、有名どころで言えば、『死体操作(リビングデッド)』だろうか。


 ただ、禁術指定になって久しく、もうその使い手どころか魔法の存在すら失われつつある魔法という知識を持っていた事もあって、その一言は俄には信じられないものだった。


「……仰る通り、今回の一件には禁術指定にもなっている闇魔法が絡んでいる可能性が高いと思われます。ですが、何故それを」


 しかし、私の内心とは裏腹に、騎士の方は〝シルフ〟の言い分をあっさりと肯定してしまう。


「『クラウスって言ったっけ。あの王子が、黒い炭のような鉱石って言っててね。それでちょっと思い出したんだよ』」

「〝シルフ〟は、精霊の中でも特に物知りだもんね」


 〝シルフ〟は数百年以上の時を生きる精霊。

 知識の量も私達とは桁違いに多い。

 だから、あの時私達と別れて一人行動をしていたのかと今更ながらに納得をした。


「……でも、いくら闇魔法とはいえ、そんな危険極まりない事をなんでやるんだろう」

「恐らくは、難航すると思われたウェルグとノーズレッドの同盟がすんなりと進んでしまったから、でしょう。ノーズレッド本国に混乱を招き、時間を稼ごうとしているのではないかと」

「難航、かあ」


 その物言いに、眉根が寄る。


 難航する程、ウェルグとノーズレッドの仲は私から見てそこまで悪くはなかった。

 なのにどうして、難航すると言ったのだろうか。


「……メルトの上の姉が、縁談を常に断っていただろう。それが原因だ」


 隣で私が険しい表情を浮かべる理由を察してか。ヨシュアが答えてくれた。


「国同士の同盟、和平ともなると、出来る限りお互いに安心が欲しい。可能であるならば、嫁入りなら嫡子に。嫁を迎えるのであれば第一王女。そういった具合にな」

「……あ、そういうことか」


 私が知る限り、私の上の姉達に寄せられた縁談が白紙に変わった回数は両の手を超えたあたりで数えるのをやめてしまったほど。



『イケメンで金持ちで優しくて、あたしの行動に一切口を出してこない白馬の王子なら考えてあげてもいいわね』



 いつだったか。

 こっぴどく縁談を白紙にしていた際に聞いた姉の言葉。

 確かに、あれを貫いている間は縁談どころじゃないよねと納得せずにはいられなかった。


 かと言って、私という選択肢を持ち出そうものなら、城での扱いを知っている人間であれば間違いなく拒絶していたと思う。

 現国王である陛下にこそ嫌われてはいなかったが、上の姉二人と正妻であった義母にはとことん嫌われていたから。


 だから、難航すると思われていたのだろう。


「けど、実際はすんなり進んでしまった、と」

「ええ、そういう事です」

「……となると、私も少なからず原因になってしまってたって事だよね」


 あの時は冷酷公爵としか聞いていなかったけど、嫁入りしてこいと言われて二つ返事で頷いた当時の出来事がありありと思い返される。

 仕事を押し付けられる毎日から解放されるのであれば、喜んで冷酷公爵だろうと嫁ぎに行ってきます!

 なんて考えていた自分の考えは、良い方向に働いてくれた。


 だったら────。


「『相変わらずのお人好しだねえ』」


 だったら余計に、知らんぷりをする気はなかった。


 心の中でそう呟くと同時、〝シルフ〟の声が聞こえてきた。

 その声は、呆れ混じりに笑っていて。

 私がこれから起こすであろう行動をきっと、〝シルフ〟は見透かしていたのだろう。


精霊術()は、持ち腐れにするより、誰かの為に使ってこそでもあるじゃん?」


 それに、わざわざヨシュアが案内をしてくれて、一緒に楽しむ筈だった時間を邪魔してくれた報いはあって然るべきだと思うんだ。


「それに、この国には私とヨシュアを引き合わせてくれた大恩だってあるから」


 だからこそ、見て見ぬふりは出来ないよね。

 笑みを浮かべながらそう告げると、側にいたヨシュアは殊更深いため息を吐いていた。


「……俺が駄目って言えないように、あえてその言葉を選んだだろ」

「あれ、バレた? ……でも、本当だよ。本当。ヨシュアと引き合わせてくれた事は本当に感謝してる。だって、この一ヶ月近くは物凄く楽しかったし。早く解決しないと、アルフェリアにまで被害が出るかもしれないでしょ」


 だから、私が協力する事で少しでも解決に近づけるのなら。

 私はそう締め括り、もう一度、遅れてため息が聞こえてきた。


 言葉がところどころ省略されていたからだろう。騎士の方は、どういう事だ? と疑問符を浮かべていたけれど、最終的に、陛下からの許可が下りればな。

 という事で、話は纏まった。

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