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十一話 王都散策

 †


「すっかり、静かになっちゃったね」


 馬車を降りるまでは、最後の抵抗を試みるクラウスさんと、〝シルフ〟がいたから騒がしくもあったけど、今は私とヨシュアの二人きり。


 〝シルフ〟は〝シルフ〟で、何か用があったらしく、既に別れた後。

 だから、少しだけ物寂しくあった。


「でも良かったの? クラウスさんの一生のお願いも聞いてあげなくて」


 両手を合わせて一生のお願いだから、助けてー!と、助けを求められていながら、見て見ぬふりをしていたヨシュアに尋ねてみる。


「……俺の記憶が正しければ、あいつの一生のお願いは既に五回は聞いてやった」

「あぁ、そういう……」


 故に、もう馬鹿正直に聞いてやる気はないとばっさり一刀両断。

 でも、そういう事ならクラウスさんの自業自得と思わずにはいられない。

 同情の余地はあまりなかった。


「それで、メルト。何処か行きたいところはあるか? 陛下との顔合わせは明日だし、それまでならどこでも付き合うぞ」


 門番さんに、明日、国王陛下の下に訪ねさせて貰う旨の伝言を頼んでいたヨシュアから訊かれる。


 きっとそれは、アルフェリア公爵家本邸で告げられていた政務のお手伝いに対する礼をしたいが為の言葉なのだろう。

 本来であれば、遠慮をしたいところではあったけど、結婚相手である前に、掛け替えの無い友人であるヨシュアに対して遠慮をしようものなら、逆に失礼な気すらしてしまう。


 だから私は、「そうだなあ」と、声に出して悩んで考えてみる事にした。


「……適当に観光、かな?」

「適当に観光、か」


 でも、すぐにここ!

 なんて希望が浮かぶわけもなく。

 というかそもそも、私ノーズレッドの王都に全然詳しくないから浮かぶ訳がなかった。


 だから、ありきたりな言葉を口にする。


「正直な話、私ってば王都に何があるとか全く知らなくて。だから、今回はヨシュアにお任せする。次に来る機会があったら、その時はちゃんと調べておいて行きたいところも決めとく……で、どうかな?」


 程なく、隠したところであまり意味はないかと自覚をして吐露してしまう。

 こんな事なら、ちゃんと調べておけば良かった……! なんて思うけど、ヨシュアの申し出は急だったし、私にはやっぱりどうしようもなかった。


 だから、妥協案としてまた次に来る事があれば、その時は私の希望を聞いて欲しい。

 そう告げる事にした。


「それは別に構わないんだが……俺にお任せ、か」


 ヨシュアは公爵家の当主様である。

 必然、登城する機会もあるだろうし、王都にはそれなりに詳しいんだろう。

 そう思っての言葉だったのだけど、何故かヨシュアは険しい表情を浮かべていた。


「……まずかった?」

「まずくはないんだが、礼をしたいと言った手前、言い難くはあるんだが、案内できる場所があまりないんだよな」


 どうしてだろうか。


 そんな疑問を抱くと同時、周囲から奇異に似た視線が私達へ集まっていた事に気付く。

 なんというか、意図的に避けようとするような視線だった。


 そこで、思い出す。

 私に対する態度がただの良い人だったから失念していたけど、そういえば、ヨシュアは「冷酷公爵」と呼ばれてる人だったんだった。


「…………ん」


 思案する。


 案内できる場所がないという言葉が意味するところは、多分、「冷酷公爵」という名前を言葉の通り捉えている者が多いから。

 という事だと思う。


 ヨシュアは「冷酷公爵」なんて呼ばれてるけど、中身はただの優しい人だ。

 だから、不用意に誰かを怖がらせる事は本意ではないだろうし、だったら────。


「なら、あそこに行ってみたい」

「あそこ?」

「うん。ヨシュアが昔、私に自慢してた場所」


 ディティアの花畑をヨシュアに見せた八年前。そのお礼にと、いつか綺麗な湖のある場所に連れて行ってくれる。

 そんな約束をしていた事をふと、思い出した私は、そこに連れて行ってくれとお願いしてみる事にした。


「……あぁ、リルドの湖か」

「そう、確かそんな名前だったと思う! ヨシュアから聞く限り、ディティアの花畑と同じくらい綺麗な場所らしいし?」


 対抗心をあらわにしながら、言葉を投げ掛けると、八年も前の事をよくそこまでちゃんと覚えているなと言わんばかりに、ヨシュアは苦笑いを浮かべた。

 でもそれも刹那。

 「分かった」といって了承してくれる。


「よし、じゃあ決まり! それじゃ、────」


 ────向かおっか。


 意気揚々と「リルドの湖」に向かおうとした私だけど、言葉を遮るようにぐぅぅ、と気の抜けたような音が私のお腹から聞こえてきた。


 …………。

 な、なんでこんな時にお腹が鳴るかなあ。


「そういえば随分と時間が経ってたし、先に飯にするか。オススメの店があるんだ」


 そのせいで、くすりとヨシュアに笑われた。

 お腹が鳴って恥ずかしくはあったけど、お腹が減っていた事は事実だったので俯きながらも、私は小さく首肯する。

 

 ……「リルドの湖」は逃げないし、取り敢えず、ヨシュアの言う通りご飯にする事にした。


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