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一話 八年ぶりの再会

連載版始めました!

五話からが短編以降の物語となってますー!

 ガタガタと音を立てながら、窓の景色が移り変わる。

 馬車には私と御者の老人が一人の計二人。

 これから向かう先の事を思ってか。

 はたまた、私が生贄のように差し出された令嬢であるという噂でも耳にしていたのか。


 御者の老人は時折、私の姿を確認しては、少しだけ憐れむような。

 同情の視線を向けてくる。


 それはきっと、未だ十五を迎えたばかりの私の未来を憂いてのものなのだろう。

 本当に送り届けても良いのだろうか。

 そんな葛藤が、言葉は無かったものの見え隠れしていた。


 ここでもし、私が弱音のような言葉を口にすれば、きっと気休め程度でしかないだろうが、御者の老人は慰めの言葉を掛けてくれるのだろう。

 しかし、だ。

 彼はそもそも勘違いをしている。


 確かに、私は今から散々な風評であるとんでもない公爵様の花嫁として馳せ参じる事になっていますとも。


 そのせいで周囲からは憐まれ、生贄だと言わんばかりに私を矢面に立たせて差し出してくれやがりました義母や、姉達に嘲笑われましたとも。


 でも、私の心境は鬱々とは正反対のところに位置していた。

 寧ろ、清々しさすら感じていた。


(やっとあの地獄の日々から解放される……!!)


 新生活に心を躍らせる。

 とまではいかないにせよ、私の心は解放感で満ち満ちていた。


 そして思い起こされる散々過ぎる日々。

 面倒な仕事は、側室の子であるお前がやれといって全てを押し付け、遊び呆ける姉A。

 見栄っ張りゆえに、行動は起こしてくれるが、失態を犯すとすぐに私のせいにしてくれやがるロクでもない姉B。

 そのせいで、もう始めから自分でやった方が手っ取り早いからと、政務を三人分こなす日々。


 挙句、その手柄は全て横取り。

 結果、私は何故か王女としての自覚が云々の小言を言われる羽目となり。


 本妻である義母からも、私の生母への当て付けか。

 小憎たらしい顔をしていると嫌がらせを受ける日々。騙されて恥をかかされた事だってもう両手で数え切れないほど。

 しかし、彼女らは陛下の前では上手いこと猫を被っている為、それが露見する事はなかった。


 そして、心身共に疲弊する日々。

 やがて、舞い込んできた隣国の冷酷公爵と名高い公爵との縁談。

 嫌がる姉達は身代わりとして私が良いのではと真っ先に意見を述べ、そんな得体の知れない相手に血を分けた娘は出せないと私を当たり前のように差し出そうとする義母。

 私が彼の花嫁に選ばれるのは最早、決定事項だったと言っても過言でないだろう。


 しかし、あの嫌がらせを受け続ける日々から解放されるのであれば、たとえ風評最悪の公爵様の花嫁だろうと悪くないと思う私がいた。

 だから言ってしまえば、これは好都合だった。


 何より、これは御国同士の和平の為の縁談。

 いくら冷酷公爵などと呼ばれる人物であっても、国同士の考えを無視して血も涙もない行為をする事はないだろう。

 たとえ、私の存在が周りから歓迎されていなかったとしても、小さな嫌がらせくらいならもう慣れてしまっている。

 処世術だってちゃんと身に付いてる。


 だから、大した問題はなかった。

 なかった、のだけれど。


「…………」


 考え事をしているうちに到着したアルフェリア公爵家本邸。

 最後の最後まで姉達の嫌がらせを受けていた私は、和平を結ぶノーズレッドへの信頼の証。

 だから、供回りはつけずに向かうべき。


 仰々しくしていると、信頼していないみたいではないか。という詭弁のせいで、ほぼ単身で向かう事になっていた。

 そんな私を出迎えたのは、思わずぎょっ、と目を剥いてしまう程の人数の使用人であろう者達。


 誰かに歓迎されるという事が殆ど無かったせいで、その珍しい対応につい、面食らってしまった。

 けれど、すぐに我に返る。

 これでも国同士の和平の為の縁談だ。

 幾ら政略結婚とはいえ、初めくらいは、ちゃんとしているものか。

 最近、嫌がらせを受けすぎて自覚薄れてたけど私一応、王女って立場だし。


 やがて、ずらりと立ち尽くす使用人達の後ろから、歩み寄ってくる人影が一つ。

 服装は貴族然としたもので、大柄な男性。

 髪は北の大地で降る雪のように銀と白が入り混じったもので、否応なしに目を惹かれる。


 切れ長の目をしていて、つんと澄ました相貌は、陶器のように硬く、冷たい印象を抱いた。

 愛想とは無縁にも思えるその面立ち。

 漂う異様とも称すべき雰囲気。


 成る程、彼が冷酷公爵と名高い公爵閣下様か。

 なら、出来る限り機嫌を損ねないように、今から上手く立ち回らなくちゃ。

 そう思いながら、私は馬車を降りて彼に挨拶をしようと試みた瞬間だった。


「————久しぶりだな(、、、、、、)、メルト」


 声が聞こえた。

 男性らしい、低い声。

 落ち着いたそれは、貴族家当主に相応しいものと思った。

 ただ、何故かその声に私は聞き覚えがあって。


 しかも、初対面で、政略結婚なのに何故か場にそぐわない言葉が聞こえてきたような気もする。心なし声も弾んでいる。

 ……私の勘違いだろうか。


「かれこれ八年ぶりか? 王宮の嫌われコンビがこうして顔を突き合わせるのも」


 その発言のお陰で、全てを思い出した。

 かれこれ八年前。


 まだウェルグ王国とノーズレッド王国が、それなりの付き合いがあった頃。

 私と目の前の彼、ヨシュアはよく話をする仲であった————というのも。


 その頃から嫌がらせを受けていた私と、これまた他国の貴族ながら、身内であまり好かれていなかったヨシュアが避難場所として選んだ裏庭で偶然出会った際に、打ち解けたのがキッカケだった。


 確か、ヨシュアも私と同じで側室の子だからと嫌われていたんだっけ。


「……あれ? じゃあ私の結婚相手の冷酷公爵様って、」


 八年前とはいえ、ヨシュアの人柄を私は知っている。だから、冷酷公爵はヨシュアではないと言い切れた。というか、柄じゃない。ならば、冷酷公爵って誰の事なのだろうか。


 キョロキョロと周囲を見回してみるけど、それらしき人物はどこにもいなかった。


「あんまりその呼び方は好きじゃないが、俺の事だな」

「またまたあ」


 久しぶりの再会だからって、そんなジョークを言わなくて良いのに。

 そんな事をしなくても、もう緊張とかしてないから。


 と、笑みを浮かべて伝えるけれど、周りの使用人さん達もなぜかキョトンとしている。

 何を言ってるんですか? メルト様。みたいな。


 ……え。え、え?


「ぇ、本当に? 本当に、ヨシュアが冷酷公爵様? 私の、結婚相手?」

「結婚についての細かい話はまた後でするとして。家督相続の時に色々あってな。それで、兄弟を追放したり、色々したせいで血も涙もない。冷酷公爵だーって言われ始めて、それから噂に尾びれ背びれがついて、手足まで生えた結果、この通りだ」

「うん。うちの姉達は、三メートル超えの大男で、頭からはツノが二本生えてて、主食は人肉でおっかない化け物みたいな奴だろうって言ってたもん」

「……それ、人じゃないだろ。勝手に人を化け物に仕立て上げるな」


 すっかり大人びていたせいで、初めは誰だろうこの人って思っちゃったけど、この感じ。

 目の前の彼は間違いなく、ヨシュアだった。


「取り敢えず、ここで話すのも何だし、屋敷にあがってくれ。メルトの疑問もそこで全部話すから」


モチベ向上に繋がりますので、

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