月の力【王子視点】
いくら待てど、彼女は現れない。
どうしてだ。
もう、二度とこのまま、会えないのか。
まだ彼女の名すら聞いていない。
そもそも何故現れたのか、それをまず調べようと公務の間を縫って、文献を色々と調べていた。
「珍しいですね。 貴方がこんなに夢中になるなんて…」
「・・・、そうだな。 自分でも、驚くぐらいだよ」
ウィルは呆れながらも、一緒に文献を探してくれる。
つくづく良い友をもったなと思う。
「・・・・ここに、書いてあること、」
「なんです?」
「"月の光は力を増幅させる"…と、・・・そう言えば彼女を見た最初の日は満月だったな。」
「ふむ、関係ありそうですね」
視点を少し変え、今度は月の光に関係する文献を調べてみた。
すると、《満月の夜に変身する狼男》などが代表的で、さらに満月の日には、犯罪が多くなったり、女性が綺麗になる…だなんてものまである。
兎に角、"満月"がとてつもないパワーを持っていると言うものが多く見られた。
「ちょっと、気になることがある。 最初に出逢ったのが満月、・・・ではその次は? 彼女が現れなかった、三ヶ月間の満月の日の天気は…」
「エリーにしては、良いとこ突きますね。いつもそんな風に本気出してくれたら大変助かるんですけどね」
「う、うぅるさい…」
ウィルは本当に小姑だ。
一言余計だし、トゲのある言い方をする。
しかしお互いをよく知っていて、愛があるからこそ言えること。
(勿論 愛と言っても、そういう関係ではないぞ…?)
エリックの予想は当たっており、ここ三ヶ月の満月は雨だった。
では、次の満月は何時だと調べると、どうやら明日が満月。
しかし明日は外せない舞踏会があった。
父である王が、「婚約相手ぐらい、いい加減探してくれ」と、半ば無理矢理に開かれる舞踏会だ。
そんな息子の気も知らず、その翌日──
きらびやかなドレス達がひしめき合っていた。
「いやぁ陛下、うちの娘は器用な子でしてねぇ」
「いやですわぁ。わたくしの子なんてとっても美人で…、」
「エリックさまぁ」
「わたくし、ピアノがとても得意で、きっと外交にも活かせますわぁ」
「わたくしはダンスが、」
「エリックさまぁ、わたくしは紅茶の知識が、」
「エリックさまぁ…、」
「エリックさまぁ・・・」
あの媚を売るような猫撫で声、聞いているだけでうんざりする。
外には美しい満月が輝いていると言うのに・・・。
しかし周りの御令嬢方も皆必死なのだ。
24歳と言う年齢でありながら、婚約者も居らず、更には浮わついた話さえ聞かない、王太子殿下と、何とかして御近づきになろうと…。
エリックには歳の離れた弟が居る。
第二王子だ。
血も繋がっている、歴とした兄弟。
両親は、政略結婚でありながら、お互い信頼し合い、愛し合っている。
その結果が歳の離れた弟、エヴァンス。
現在8歳。
驚いたことに既に婚約者が居る。
相手の令嬢の、淡い恋。
家柄も良いし、婚約するには文句無かった。
歳も歳で、婚約者も居るので、それで私のところへ来るのだ。
全く。
折角なら5歳ぐらい年下で弟を作ってくれていたら、もっと楽だったのに。なんて贅沢か。
そう、皆、誰しも自慢できる相手と結婚したいのだ。
勿論、全員が全員そうとは限らない。
あくまで、エリックの周りに集まってくる御令嬢がそうなだけ。
気立ての良い、芯をちゃんと持っている御令嬢も居るし、エリックが密かに信頼している女性も、何人か居るのは確かだ。
しかしそれが婚約者として相応しいのか・・・、否、自分の気持ちが、その人を求めているのかと言われれば、何か違う気がする。
そもそも、周りに集まる御令嬢達で、エリックをうんざりさせるのには十分だった。
エリックは、一通り貴族達の相手をした後、何とか城を抜け出した。
空には大きな満月が浮かんでいる。
一体今は何時だろう。
もしや、もう、居ないかもしれない。
そんな事が頭を過ると、走り出してしまう。
確かめたくて。
きっと、そこで待っていることを…
木々の向こうは、泉に反射する月の光で輝いている。
彼女は儚げな妖精のように、岩にもたれていた。
「良かった、間に合った…。 どうか…、私と、少し話をしてくれないか。」
鬱陶しい会話から逃げてきて、彼女と話をするなんて、そんな事が知られたら、きっと父上は怒るに違いない。
「・・・・はい。 あと、以前も申しましたように、私は貴方様にお願いされる身分ではありませんので」
「・・・・・良いんだ、そんな事…。 この時間は、この時間だけは、そんな事気にしないでおくれ」
上部だけの会話、欲だけの媚びへつらい、
君にそんな事を求めているんじゃない。
じゃあ、何を…?
何を彼女に求めているのだろう。