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瞳の裏に




12ヶ月目、貴族のエリック様と出逢ってから丁度1年。



何か意味があるように、いつかと同じぐらい、その日の満月も大きく空に浮かんでいる。




目の前にはきっと私が二度と逢えないであろう御方。

その心地好い香りも、その痺れるような眼差しも、全部全部覚えていられるように・・・

私は確り、瞳の裏にまで焼き付ける。




とても手触りの良いリボンだ。


夜の光でしか見えないが、青色と紫色に染められている。

きっと綺麗な色なのだろう。




「私が、結ってみても良い?」



そう言うから、いつものように戸惑うけど、貴方様の御願いは断れないの。



失礼かもしれないが、エリック様に背を向けた。

優しく髪を撫でられ、触られると、思わず吐息が漏れる。

なんて心地が良いんだろう・・・。


思考が定まらなくなって眠くなるような、そんな心地好さ…。

だけど同時に背筋がぞくぞくして、今まで味わった事の無い感じもする。



「さぁ、こっちを向いてみて」

「はい…」



振り返ってまた私はエリック様を焼き付ける。



「・・・・・、うん、とっても良く似合うよ。綺麗だ」

「・・・いえ、そんな…、何から何まで、私には勿体無くて・・・」

「鏡で見て分かったろう? …エラはとても綺麗だよ。綺麗で可愛い。」



そんな風に言われても、何と返せば良いのか分からず口をつぐんでしまった。

きっと貴族の御嬢様は、さらりと返してしまうのだろう。




ふたりの時間を温かく見守ってくれているかのように、雲は(ことごと)く月を避けていく。


どれ位話しただろう。

もう、そろそろだろうか…。なんてふと思ったら、ひとつ大きな雲が月に向かって流れていく。



「大きな鷹みたい…」



流れる雲がそんな形だったから、思わずそう呟いた。



「本当だ…。 じゃあ、もう・・・、また次の満月だね」




「・・・・・・・・・・はい」



どう答えればいいのか、一瞬迷ってしまった。

けど、これで最後なんです。なんて言葉は、どうしても言いたくなかった。



「・・・・、鷹の意味って知ってる?」

「意味…? いいえ…」

「幸運を掴みとる、とか、先を見通せるとか、そう言う意味があるんだ。」

「へぇ…」



『鷹』という言葉ひとつで、ここまで話が出来ることがすごいと思った。


色々な勉強をされてるんだ。

何処かの誰か、素敵な女性と話すとき、飽きさせない話題を一杯持っているんだな。

あぁ、やっぱり私とは違う世界の人だな。と・・・




私はまた最後にしっかり、しっかりと瞳の裏に焼き付けて、「では、また・・・」と、お別れした。




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