雲り
初めて自分の顔を見た。
なんと・・・、言ったら良いのか分からないが・・・。
これが、わたし・・・と、その言葉しか出ない。
自分を、自分と認識するので精一杯だった。
その満月の日のエリック様は、とても楽しそうにしていた。
「これを君に」と、差し出されたのは、見たこと無いほど美しい箱。
それを恐る恐る開けると、月光に反射し、目が眩むほど輝いていた。
手に持つと、ひんやり冷たく、すごく重さを感じた。
それは色々な意味の重さだ。
私には勿体無いと言うのと、きっと人生で見てきた中で一番高価だろうと言う重さ。
「ほん、とうに・・・これを、わたしに・・・?」
「あぁ、もちろん。 エラに似合うように作ってもらった。 …気に入った…かな…?」
こんな素敵な品が、気に入らないわけない…。
エリック様みたいな人に、贈られ、気に入らないないなんて事、あり得ないだろう。
あぁ、これは私の宝だ。
誰にも、盗られたくない・・・、私の大事な宝物・・・
まるで身体の一部にでもしようかと言うほどに、エラはその鏡を抱き締めた。
それから、エラは毎日、毎日・・・その鏡を見つめた。
そこにエリックが映っているかのように、会えない日は毎日・・・。
────10回目の満月は曇りだった。
その次と、その次の満月が終われば・・・わたしは、成人する。
16歳─、
つまり、身売り出来るようになるのだ。
そうすれば、こことは違う町へ行き、そこで暮らすことになる。
この泉とも、さよならだ。
お父さんが死んでから2年─、
エリック様と出逢ってから、1年が経とうとしている。
振り返れば色々なことがあった・・・
思った以上に泉の効果は、身体の成長を促した。
骨と皮だけで出来ているんじゃないかと言うほど痩せていたが、肉は付き、年齢相応の身長にも伸びた。
胸もしっかり膨らんだし、毎日お役所まで歩いていたお陰か、程よい筋肉もついている。
ただ髪を切れるハサミが何ヵ月前かに壊れたので、伸びきったままだ。
しかしそんな髪も泉に浸かれば、瞬く間に輝きに満ち、泉の近くに咲いている花の絞り汁で、香りや艶も良くなる。
どうか、成人年齢になる、その時の満月だけは、晴れて欲しいと、エラは願った。
だって身売りするのだから、綺麗な身体で行った方がきっとより多くお金が貰えるだろう。
エリック様と、会えなくなるのは悲しいが・・・
これから自分で、生きていく方が重要だ…。
あと2回の満月・・・
どちらも晴れてくれればな・・・