0話 退屈な世界
その日は日曜日だというのに家を出てわざわざ辛い思いを味わなければいけなかった。
思えばあんな暑い日に冷房もない中激しい運動をして、痛めつけられるのはただの苦行で、どうせ上達もしないだろうに続けていた意味があったのだろうか。
一緒に始めた仲間は次々とやめ、惰性と親の目、何よりやめると言い出す勇気がなかった為、続けていたものだった。
行きたくない。
言い訳を作って休もうかと考え、足取りが重くなっていた。
気がついたら開始の時間になっていた。
もう何度もくぐっている門を抜け、校舎には入らず脇を進み、体育館とは別のひっそりと立っている目的地にたどり着いた。
また、ひたすら耐える時間が始まる。
道着を着込み、汗臭い防具を身に着け、ただひたすら竹刀という棒で叩かれる。ジーンとくる痛みを耐え続け、一日が終わるのを待つ。
もう嫌だ、こんな青春は。
居残り練習が終わり、ようやく帰る頃にはすっかり日が暮れていた。
明日こそはやめると伝えよう。そんなことを思いながら帰りの電車に乗り込んだ。
いつもと違ったのはなんだろうか。
遅刻のせいで居残り練習が長引いたことか。夜更かしをして眠気が強かったことか。
気がついたら知らない駅だった。
スマホを見ると2時間も乗っていたようだ。
慌てて降りたが、ホームが一つあるだけの小さな駅だった。
空気がよく、少し冒険心が湧いた。
ホームの脇からこっそり降りて、茂みの方に行ってみた。
バレていないか駅舎の方を気にしながら歩いていたら、急に足が浮遊感を覚えた。
まずい。
そう思うが早くバランスを崩し引き釣りこまれるように体が暗闇へと落ちていった。
落ちながら思う。
このまま誰にも知られず、気づかれずに死んでいくのか。
何も成し遂げられなかった人生だった。
こんなことならもっと遊んで暮せばよかった。
そもそも剣道なんてしなければこんなことには。
高校で別なことをしていればこんなことには。
後悔を募らせながら、来世に祈りつつ、彼は落ちた。