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童話

ハルくんと知らない小瓶

作者: まんどりる

「ハルー!朝よー!起きなさーい!」


 お母さんの声がする… でもまだ眠いな。


「ハルー!小学校に遅刻するわよー!」


「うーー……ん……」


 僕は布団に顔をうずめ、お母さんの声を聞こえないようにした。


 つかの間の沈黙のあと、ドスドスと階段を登ってくる足音が聞こえ………


「ハル!! 起きなさい。遅刻するわよ?いいの?」


 お母さんはすぐさま布団を引っ剥がし、パジャな姿の僕を冷たい空気の中に放り出した。


 僕は頭を半分ぼんやりさせながら返事をした。



「わかったわかったよ。起きるよー……」




 




 パジャマのままで朝ごはん。


 お母さんがバターを塗ってくれたトーストを食べながらテレビを見ていた。


 テレビの中では、『歌のお兄さん』と『歌のお姉さん』がダンスをしながら童謡を歌っていた。


《♫たくさんの〜ドキドキ〜のりこえふみこえ〜いくぞ!♪》


 するとすぐにお母さんがリモコンで画面を消し、


「こんなもの見てる暇ないでしょう? ほら、早く食べなさい!」


 そして僕は急いでトーストを口に詰め、牛乳で流し込むと、お母さんからリモコンを奪い返し再びテレビをつけた。


《♫よそみしてちゃ〜ダメダメよ〜もっとロマンチック〜♪》


「まったく、しようのない子ね……」







「行ってきまーす!」



 僕はランドセルを背負うと、勢いよく玄関から飛び出した。


「行ってらっしゃい。気をつけるのよ」





「お、ハルくんじゃないか。もう小学生か、早いねー」



 そう声をかけてきたのは、近所に住むおじいさんだった。


「うん! もう僕小学生だよ!」



 僕は元気いっぱいに返事をし、おじいさんに手を振った。


 するとおじいさんも手を振り返してくれた。


 

 そして僕はまた歩き出した。


 すると僕は、僕とおじいさんのやり取りを遠くから見ていた人がいるのに気づいた。



 その人はどこかコソコソとしていて、誰かに見つからないようにしているようにも見えた。


 そして間もなく僕とその人は目があった。


 その人は大人の男の人で、僕のお父さんよりも若い人。ちょうどさっき見ていた『歌のお兄さん』と同じぐらいの年齢だろう。と、僕は思った。



「やあ、君、あの田中聡さんの知り合いかい?」


「わっ!?」


 突然後ろから声をかけられた。


 僕と目があったお兄さんとは別のお兄さんが、僕の後ろに立っていた。


 視界の端で、さっきのおじいさんが自分の家の中に入っていくのが見えた。


 するとコソコソしていたお兄さんまで僕の方にやってきて、今度は僕の正面にしゃがみこんだ。ちょうど僕と同じ目の高さだ。


「君、さっきのおじいさんと知り合いなのかい?」


 コソコソしていた方のお兄さんが僕に話しかけた。


「……うん。そうだよ」


 僕は答えた。


「そうかそうか。君はあの田中聡さんと知り合いなんだね(^^)」


 お兄さんは笑顔で話す。


「実はね、お兄さんたちはあの田中聡さんに届けたいものがあるんだけどね、」



「うん、」



「お兄さんたちは二人共恥ずかしがりやさんだから、どうもあの田中聡さんに話しかけられないんだ」



「うん、」



「だからさ、悪いんだけど君に届けてもらえないかなと思ってさ」



 お兄さんはニコニコしながらそう言うと、カバンから中身の見えない小瓶を取り出した。



「いいかい? この小瓶を、さっき君が話していたおじいさんに届けるんだ。そして『それを飲んで』と言うんだ。お願いしてもいいかなぁ??」



 お兄さんは僕の手を掴むと、小瓶を押し付けて僕の手に握らせた。



「う〜ん……」



「できるだろう?(^^)」



「でも僕……小学校行かないと。……」




「……ん?(^^)」



 お兄さんは笑顔を崩さず僕を見つめている。



「おい、出てきたぞ」



 後ろに立っていたもう一人のお兄さんがそう言うと、親指でおじいさんの家の玄関を指した。



 そちらに目線をやると、おじいさんが再び庭に出て来て、植物に水をやっているのが見える。



「さ、今がチャンスだよ。あの田中聡さんにこの小瓶を渡して来るんだ。お兄さんたちからのお願いだよ?(^^)」



「うーん。これを渡すの?」



「ああ、さ、行くんだ」




 そう言い残すと二人のお兄さんは僕の周りから姿を消した。




「……う〜〜ん」




 僕はゆっくりとおじいさんの家の方へ足を進めた。




「あ、ハルくんじゃないか、まだいたのかい? 一体何をしているんだい?」


 おじいさんは僕を見つけるとそういった。



「早くしないと小学校に遅れちゃうんじゃないのかい?」



 僕は握りしめた拳を開き、おじいさんに小瓶を見せた。



「あの、これ……」



 おじいさんはじっと僕の手の上の瓶を見つめ、


「んぁ、? なんじゃこれ?」



「飲んで……ほしいな……」



 僕はそういった。



「これをかい?」



 おじいさんはまた小瓶を見つめ、



「ははは、ハルくんは優しい子だな。おじいさんにプレゼントをくれるだなんて」


「でも、その気持ちだけもらっておくよ。そのジュースはハルくんが飲みなさいな」



 おじいさんは笑ってそう言った。




「……」




 僕は黙って小瓶をポケットに入れ、おじいさんの家をあとにした。




















 放課後。(ーー゛)



 一日学校を終え、僕はニコニコと家路についた。


 僕を笑顔にさせる一番の要因は今日の給食。


 僕の大好きなソース焼きそばだったのだ!!



「はー! 美味しかった! 毎日給食がやきそばならいいのになー!」


「毎日も食べてたら飽きちゃうよ」



 一緒に帰っていた宙ちゃんがそう言った。



「ソラちゃんの好きな食べ物は何?」


「うーん……お母さんの作る料理!!」


「あ! 僕もそれ好き!」















 家に帰るとお母さんが出迎えてくれた。


「おかえり、ハルくん。学校どうだった??」



「楽しかったよ。それに今日の給食は焼きそばだったんだ!」



「まあ、良かったわね。おやつ用意してあるわよ。手洗いうがい忘れずにね」



「はーい!」


 僕は手を洗うときに、手に違和感を感じた。



「?? なんだろう。なんかヘンだな。」



 そしてまた、ポケットにも別の違和感を感じ、手を突っ込んでみると、



「わ〜〜! 漏れてる!」



 朝お兄さんから受け取った小瓶から中の水が漏れていたのだ。



「大変だー……」



 そして僕は気づいた!



「なんだかこの水、いいにおいする。ほんとにジュースなのかな……」




 小瓶から漏れる透明な水からは、爽やかなフルーツや、甘い砂糖、はちみつやシロップと同じくらい……もしくはそれ以上にまろやかないい香りがして、、


 思わずのどが渇いて来るのが感じられた。



「……飲んじゃおっかな」




 これはあのお兄さんたちがおじいさんに渡すためのものだけど、僕は内心『ま、いっか』という気持ちで、何一つ罪悪感を感じず、小瓶の蓋を回しだした。




「ペロ……」



 やっぱり美味しい。




「ごくごくごく……」




 もともと小さな瓶の上、その半分くらいは漏れ出ていたので、その中身はすぐになくなってしまった。





「あー。美味しいなコレ」




 どこに売ってるジュースなんだろう。お母さんに瓶を見せたら調べて買ってくれるかな……



 そうだ! ソラちゃんにも教えてあげよう。

 きっとよろこぶぞー。



……と、




 僕はふと、お母さんが用意してくれているおやつの存在を思い出した。




 そろそろ行こっかな。











……………ドクンッ!!










 ーー急に胸が痛くなったーー






 目の前が真っ暗になり、僕は洗面所の床にうずくまった。




「あ……うう……」




 おかあさんを呼ぼうとしたけど、うまく喋れない……



 それどころか声も出ない。喉が勝手にうごめいているようだ……




 だんだんと体中がしびれ、骨の形が変わり、歯がガタガタと揺れ、いずれ抜け落ちたーーーー




 




 痛い。体中がしびれて動けない。









 ドクッドクッドクッドクッ……








 最後に体がうねるように震え、



 その痛みは止まった。






 僕は我に返った。







「何だったんだろう」




 しばらくの痛みのせいか、自分の声をやけに低く感じた。





 そして床に手をついて立ち上がる。




 洗面台を向き直し、

 



 鏡を見て、




 そして僕は、








 唖然とした。










 





 ………鏡の中に映っていたのは、数分前の僕ではなく、



 過去一度も見たことのない《おじさん》だった。





 口の周りからひげが数ミリ生えている。





 身長も僕のお父さんぐらいあった。






 顔はお母さんとお父さんを半分ずつしたような男性の顔で…………










 僕はふいに自分の手で顔を触る。





 そして、





 鏡に映る《おじさん》が、

 

 僕自身なのだと理解した途端ーーー










 僕は気を失った。


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