王女と騎士
お姫様と騎士の王道の恋愛物語を描きたかったのですが、力不足で、途中で力尽きてしまっているような物語です……。
昨日は、私がお仕えする王女の誕生日だった。
だから、私は、誕生日プレゼントとして、赤い薔薇の花束をお贈りした。
勿論、周囲にバレたら面倒なことになるので、匿名で、である。
私は、ある王国の、第二王女の近衛騎士を務めている。
もう10年にもなるだろうか。
小さい頃から、お美しい方であったが、大きくなってからは、格段に美しくなられた。
そう、いつからだろう、私が王女に恋をしてしまったのは。
10年もの年月は、私と王女の関係に、少なからぬ変化を与えていた。
表面上の礼節こそ保っているものの、王女は私に気安くお声をかけて下さるようになっていた。
しかし、国王、つまり王女の父親は、そのことを好ましく思われていないようであった。
私の身分のせいもあるだろうが、私のことをお好きでないようなのだ。
だから、私は、この想いを秘めたまま、王女と過ごせる時間を大切にしようと誓っている。
そう誓っているのだが……
「ご機嫌よう、グラムス伯爵」
このように呼ぶのは、この王宮の中には、一人しかいない。
私は、作業していた手を止めて、王女に笑顔を向ける。
王女の手には、赤い薔薇の花束があった。
「これは、マリア王女殿下。
ご機嫌麗しゅうございます」
王女も、笑顔で答えてくれる。
素直な笑顔だった。
「昨日も、薔薇の花束が届きましたの。
赤色の薔薇ですわ」
そう言うと、王女は私の方をじっと見る。
そう、これは、これから尋問が始まる時の、いつものパターンなのだ。
「でも、やはり、いつものように差出人が書かれていませんの。
私、どなたからなのか、気になって仕方がないのですが」
王女の目は、私の方にずっと注がれている。
「きっと何か事情があって、王女殿下に名を明かすことが出来ないのでしょう」
私は、少し苦笑しながら、王女に答えた。
この答えも、いつものパターンである。
もう何回、このやり取りをしているだろう。
しかし、王女は、やはり、いつものように、納得出来ない様子であった。
私から、一旦、目を逸らし、薔薇の花束に目を落として、王女は更に続ける。
「何故、私が赤い薔薇の花が好きだとご存知なのかしら」
今度は、チラチラと視線を投げ掛けるように、私の方を見てくる。
私は、答えに詰まった。
この部分は、毎回、パターンが違うので、対応に苦慮するのである。
だが、黙っていると怪しいので、何とか思い付いた言葉を口にする。
「きっと、その者は、王女殿下のことを、よほどお慕い申し上げており、
たまたま、王女殿下のお好みを知る機会に恵まれたのでしょう」
王女は、小さく溜め息を吐く。
「どうして素直に仰って下さらないのかしら。
私は、ただ、本当のことが知りたいだけなのに」
そう言うと、王女は、少し恨めし気にも見える様子で、私の方を見た。
いつものパターンである。
「そのお方にも、きっと、ご事情があるのでございましょう」
私は、王女の方を見て、苦笑しながら、もう何度目にもなるセリフを口にした。
王女は、困ったような顔をして、また少し溜め息を吐いて、去って行った。
そんな王女の後ろ姿を、私は、少し苦い思いで見送った。
♢
私と王女の関係は、それ以上の進展がないまま、それでも、
私は、王女と一緒に過ごせる日々を幸せだと感じつつ、時は過ぎて行った。
そんなある日だった、その平穏な日々が、突如、失われてしまったのは。
国王直々に、私に、王国の辺境に現れた魔物の討伐命令が出たのだ。
その魔物は、ベヒーモスという名の、相当な腕の者でも到底一人では勝てない魔物であった。
そんな魔物をたった一人で倒しに行けと言うのだ。
これは、私に死にに行けということなのか。
そう思ったが、国王直々のお達しとあらば、そう無下に聞き返すことも出来ない。
国王が言うには、相手は強い魔物であるが、この国一番の剣の腕を持つ騎士であれば、
必ずや魔物を打ち取ることが出来ると信じているということであった。
そして、国の威信のためにも、単独で討伐してきて欲しいと。
しかし、どう考えても、一人で討伐に行かせるための名目を無理やり作ったとしか思えない。
お断りしようかとも思ったが、その場合、王宮を今すぐにでも追い出すという圧力をかけられた。
私自身の誇りと意地もあり、結局、魔物の討伐を引き受けてしまった。
後から冷静に考えるに、どうも、赤い薔薇の件が関係しているような気がする。
目立ったことをしなければ良かったのかもしれないが、つい後先考えずに行動してしまった。
今更ながら後悔するが、こうなってしまった以上は、もう仕方がない。
♢
私は、ベヒーモスのところに一人でやって来た。
ベヒーモスは大きかった。
優に私の5倍ほどはあろうかという大きさであった。
私は、とにかく、ベヒーモスに少しでもダメージを与えようと斬りかかった。
その度に、弾き飛ばされ、その後、コンボで突進攻撃を受けたりした。
それでも、必死になって、がむしゃらに頑張った。
ベヒーモスも、動きがふらふらになってきた。
私も、満身創痍で、ふらふらになっていた。
しかし、諦めたら、そこで試合終了なので、トドメの一撃とばかりに剣を振り下ろした。
剣はベヒーモスに命中したが、トドメを刺すことは出来なかった。
そして、弾き飛ばされ、ベヒーモスが突進してきた。
ベヒーモスの角は私の身体の重心辺りを狙い定めていた。
もう動けない。
私は、これで終わりか……と諦めた。
その時。
空中に突如現れた氷の槍が、ベヒーモスを貫き、ベヒーモスが動きを止めた。
「レイン殿!!」
そこには、第一王子と、第二王女……つまり、私の想い人の姿があった。
私の名を叫んだのは、第一王子だった。
王女が私のすぐ側まで来て、回復魔法をかけてくれる。
ベヒーモスの方を見ると、第一王子が魔法の追撃でトドメの一撃を刺そうとしているところであった。
「大丈夫ですか、レイン様?」
私は、返事も出来ないほど消耗していたので、かろうじて僅かに首肯する。
王女の方を見ると、青ざめた表情だった。
目には、涙が浮かんでいる。
どうやら、よほど心配してくれていたらしい。
「内密にお兄様に協力して頂いて、ここまでやって来たのです。
今、回復魔法をおかけしますから」
王女の手から、暖かい光が溢れ出す。
その光は、私の身体を包み込んで、瞬く間に私の傷は癒えていった。
「王女殿下、恐れ多いことでございます」
「もういいのです、どうか、マリアとお呼びになってください」
「王女殿下、そのような恐れ多い……」
「いいのです、私がそうして頂きたいのですから」
「……マリア様、ここまで、よくご無事で」
「いいえ、いいえ。
レイン様こそ、よくぞご無事で……」
「マリア様が来て下さらなければ、きっと私はすでに……」
「確かに、ひどいお怪我でした。
私は、もうレイン様にお会い出来なくなるのではないかと」
「はは……私も、同じ思いでおりました。
もうマリア様にお会い出来ないだろうと」
「レイン様、赤い薔薇のお方は、あなたですよね?」
「……」
「いえ、もうどちらでもいいのです。
私の心は、決まっているのですから」
「マリア様、それはどういう……」
「レイン様、私は、あなたをお慕い申し上げております」
「……」
「レイン様?」
「ああ……私、嬉しくて。
今まで、私も、マリア様をずっとお慕い申し上げておりましたから」
王女は、何故かここで、少し苦笑いをした。
「しかし、王はお許しにならないでしょう」
「良いのです。
私は、お父様に叱られる覚悟は出来ておりますから」
そう言うと、王女はにっこり微笑んだ。
「マリア様、私のせいで……」
「良いのです。
私が自分で決めたことなのですから」
「レイン殿、大丈夫か?」
王子が、駆け付けてきた。
ベヒーモスを確認すると、仰向けに倒れている。
「もうベヒーモスにはトドメを刺した。
生命活動を停止していることも確認したぞ。
お手柄だ、レイン殿!!」
「いえ、ベヒーモスを討伐されたのは、王子であり、私では……」
「そう謙遜なさらずとも良い。
あのベヒーモスは、ほとんど倒れる直前だった。
私一人では、立ち向かうことすら困難だったであろう」
「お褒めに預かり、光栄でございます」
「父上には、見事、お一人で討伐されたとご報告しておこう。
それでは、俺は、念の為、他に魔物がいないか見回ってくるか」
それだけ言うと、王子は何故か、急いでその場を後にした。
その後、私と王女は、しばし無言であった。
私は王女に何かを語り掛けようとしたが、言葉にすることが出来なかった。
王女は、王女の兄……第一王子の方を、じっと眺めていた。
何やら、複雑そうな表情であった。
おそらく、王女は、王子を巻き込んでしまったことを気にしているのだろう。
私は、これからどうすればいいのか、本当は、戸惑っていた。
王女は自分の想いを打ち明けてくれたが、私はその想いに応えることが出来るだろうか。
私は、王女の為に、これから何が出来るのだろう。
いろいろと迷いはあったが、私は、横に座っていた王女に語り掛けた。
「マリア様、王宮に戻りましょう。
これからも、何があっても、私は全力でマリア様をお支えし、お守り致します」
そう告げて、私は膝を付き、頭を垂れた。
王女は、私の方を見ると、少し微笑んで、頷いた。
「よろしくお願いしますね、レイン様」
ここまで読んで下さって、本当に、ありがとうございます。
駄作ですが、評価などして頂けると、大変に嬉しいです。