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無抵抗主義者と死刑囚

騎士の一人、モーニングスター使いの得物であるモーニングスターは、スパイク付きのこん棒型ではなく、フレイル型と呼ばれている、棒と鎖と鉄球を組み合わせたものです。

 タイガとカチューシャを身に着けている女性は、武装している人達に囲まれていた。

 

 その場に集まっていた公開処刑の観客達は、ある者は逃げ、ある者は固唾を飲んでは眺め、ある者は騎士達やタイガに向かって叫ぶよう煽りながら鑑賞する。


 (さて、こいつらをおちょくる前に、あの囚人を安全な場所まで運ぶか・・・・・・。

 いや、いっそのこと・・・・・・)

 殺傷能力満載の斧で思いっきり何度も執行人から殴られながら、長考していたタイガは、彼女に向かって投げられた鉄球型の武器・・・・・・フレイルタイプのモーニングスターに、自分の片手を躊躇ためらいもせずに差し出して遮る。

 彼に衝突して速度を失った鉄塊は、木製台にぶつかって重々しい落下音を出す。

 タイガ自身に未だダメージらしきダメージは無い。


 「ええっちょっ・・・・・・どういうこと!?」

 カチューシャ金髪の女性は、戒めが解かれないままあたふたと取り乱し、タイガの行動に混乱していた。

 

 「ここで女を護りながら、しばらく遊ぶか。王道展開だな。

 そっちの方が、てめぇらによく屈辱を味あわせれるからなぁ~・・・・・・ん?

 ちなみに嬢ちゃん・・・・・・てめぇの名前は何だ? ・・・・・・なぁ」


 呆然と、タイガを眺めているカチューシャの女性は、数秒経ってやっと彼から質問を受けていることに気づいたのだ。

 「今ここで聞くことっ!?

 あなた、現在進行形で、剣と槍とか斧、鉄球で襲われているのよ!!

  名前ね! あたくしは マリー ビトレイア ・・・・・・それと、可能ならさっさと彼らを血祭りにして!」


 「どぉしよっかな~・・・・・・おれ様なら、こんな奴らを瞬殺することなんて、お茶入れするよか楽勝だが~よぉ~・・・・・・それじゃぁ、こいつらが悔しがる顔が、見れなくなっちまうじゃね~か・・・・・・」

 

 剣使いの騎士は憤怒を露にし、

 「く・・・・・・愚弄する気か、貴様!」

 そう口にして、大剣に力を籠めた。


 「てめぇこそおれ様を馬鹿にしてんのか? 全然お前の剣が、敵であるおれ様の肉の・・・・・・薄皮一枚すらも裂けてねえぞ。

 もしかしたら、あんたはおれ様に情けをかけて殺害するふりで済まそうとしてんのか。優しいな」


 「我々を舐めるでない! 人外よ!」

 タイガ達から距離を取っている射手が、文字通りに矢継ぎ早に、死刑囚の彼女に向けて矢を飛ばしてくる。

 様々な軌道から、猛スピードで飛んでくる数多の矢を、タイガは蠅を追い払うように、欠伸あくびをしながら掌一つで適当そうに全てを打ち落としてはあしらう。

 「舐めるなって、言っておきながら戦い向きじゃなさそうな奴狙うんじゃねぇよ、みっともねぇ・・・・・・。

 待てよ・・・・・・他人を護るために凶器を攻撃して反攻するって『無抵抗』の縛り破ったことになるのかねぇ~・・・・・・みんなはどう思うんだい?」

 

 「知るか!」

 槍使いが、タイガの網膜・喉笛・口内等、人体にとって脆い部分を重点的に狙って、容赦なく連続でその刃で突き刺す。


 (ん~・・・・・・まぁ、後でゆっくり『非暴力』や『無抵抗』の定義について調べておくか。

 図書館に母国語辞典が収録されてればいいのだがなぁ・・・・・・)

 あらゆる急所に連撃で刺突を受けているタイガは、長考に耽っていた。


 射手が、杖使いの仲間に向かって叫ぶ。

 「おい! ちゃんとオレ達全員に、身体と武器を強化する魔法を使っているのか!?」


 「やっているよ、全力で!」


 「じゃあなんだよ今のオレ達の様は! 乱入者を全然粛正できてねえじゃねえか!」


 「うっさい! とにかくあいつをさっさと挽肉にするよ!」


 「先輩に向かってなんだその言葉遣いは!!」


 いくらタイガを攻撃しても、何の手ごたえも感じない騎士達が焦り始めて、口喧嘩が激しくなる。

 それに対して、先程まで黙って震えていた王冠被りの男が、


 「何を遊んでいるっ!? たかだが一人の賊に、刃が立たないのか、貴様ら!!

 白兵戦で奴に勝てぬのなら、強力な魔法でもぶつけて、囚人ごと消し去ればいいだけの話だろうがっ・・・・・・!!

 それでも貴様らは、国王直属のエリート騎士なのか!?」

 席から激しく立ち上がって、彼らに怒鳴り散らしたのだ。


 彼らは急いで、マリー達から離脱し、王冠被りの男の元まで寄る。

 それを合図に、杖使いの騎士が王冠被りの男の前に、半透明の魔法の壁を作り出し、すぐに、


 「火の元素エレメントの象徴であるサラマンダーよ、我は命ずる。

 方角は赤霧星の下、距離は馬八十二歩先、範囲はこの円形広場、威力はワイバーンの群れを瞬殺する程度・・・・・・」


 怪しげな詠唱を始めた。


 「ちょっ、どうしようどうしよう・・・・・・」

 マリーは、不安そうにタイガを見上げている。


 それに対し、タイガはにやにや笑って、後ろを振り返る。

 彼の視線の先には、この戦い(?)を傍観している人達がちらほらいた。

 「お~い、てめぇら・・・・・・そこにいていいのか? よぉ。

 魔導士らしき騎士が、なんか広範囲に炎系の魔法を使おうとしているらしい。

 巻き添え喰らいたくなかったら、さっさと逃げた方が良いんじゃねえのかなぁ~!?」

 

 タイガの叫びに、執行人を含む群衆は一瞬動きが固まったが、すぐに激しく驚愕して、蜘蛛の子を散らすように去った。

 ただし全員ではない。

 

 「誰が死刑囚をかばった悪党の言いなりになるか! 騎士様が我らを攻撃するわけがないっ!!」

 彼の言葉に懐疑的になっている人が少数、ここに残っていた。


 その人達に対し、タイガは鬱陶しそうに首の骨を鳴らして、

 「ちょっ、何? 何!?」

 マリーを両手で抱え、足を軽く上げた後、

 『ドガンッ!!』

 衝撃波を生むような尋常じゃない大きさの轟音・地響きと共に、処刑台をいともあっさりと踏み潰した。

 台の木の骨組みが、無残にもひしゃげ、中央部に亀裂が生まれたのだ。

 

 タイガの傍にいるマリーは、彼の蹴りによって生まれた突風を浴びたのだが、それでも無傷でいる。

 その様子に、杖使いの喉が思わず引き攣って、詠唱を中断した。

 もちろん残っていた傍観者達も、すぐに絶叫しながらこの場から離れた。


 杖使いの騎士に、

 「何呆然としてんだよ。住人逃げたぞ・・・・・・これで遠慮なく攻撃魔法を使えるな?」

 顎でこちらを攻撃するよう挑発するタイガ。


 「煽ってどうするのですか、このバカっ!!」

 対してマリーは、抱えられながら彼に怒っている。


 そしてその騎士の詠唱が、

 「そんなに死にたいんだね?

 爆破により、全ての敵対者を一掃せよ。

 火属性魔法・・・・・・『マッシュルームクラウド!!』」

 完了した。


 すぐにタイガの足元から、淡く光る魔方陣が現れ、一瞬の間もなく次に、


 「きゃあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁっっ・・・・・・!!」


 広場全域を埋め尽くす爆発が生まれたのだ。

 先程タイガの蹴りによって発生した時よりも衝撃波の威力が桁違いに高く、地面の石畳・砕かれた木片も跡形もなく吹っ飛ばし、近隣にそびえ立っている建物の外壁も爆炎で炙る。

 地震と間違うくらいに、地面が揺れ、耳が壊れそうな爆音が鳴り響く。

 タイガが立っていた場所には、一階建ての民家がすっぽり収まるくらい深いクレーターが生まれ、点々と残り火があり、灰が舞い、黒煙が立ち昇っていた。

 

 ちなみに杖使いが作り出した防御壁に潜んだ彼らは、無傷で済んでいた。

 爆裂によって無残に崩壊された広場を確認して、敵性を排除したと思い、安堵の息を漏らす騎士達。

 すぐに、



 「『爆破ブラスト』の上位にあり、詠唱がうんざりする程長い高威力の爆裂魔法『マッシュルームクラウド』でもこの程度かよ・・・・・・肩透かしだぜ」

 すぐに煙に満たされたクレーターから、騎士達にとって聞き覚えのある声が飛んできた。


 彼らの心が凍り付く。

 確かに、タイガは、もろに爆破を受けたはずだ・・・・・・。


 「煙が邪魔です!」

 杖使いが魔法で風を操り、黒煙を吹き飛ばした。

 自分達の脅威をしっかりと、認識するために。


 杖使いを除く騎士達は、クレーターまで恐る恐る近づき、見下ろす。

 そこには、


 

 そこには、タイガが悠々と君臨していた。


 

 服は流石にボロボロだが、彼の肌に、傷なんてものは見つからない。

 しかし、彼に抱えられていたマリーの姿が、騎士達の視界には、いなかった。


 「・・・・・・まずは囚人を片付けた」


 槍使いの一人がポツリと呟くと、タイガは、空を見上げる。

 釣られて何人かも上に視線を向けると・・・・・・。


 どうやら、豆粒程の何かが、落下しているようにも見える。

 それが、どんどん大きくこっちに近づいていっているような・・・・・・?

 

 「お~、力加減は何とか成功したな。

 誤って、成層圏突き抜ける程、投げ飛ばさなくって、良かったぜ」

 額に掌をかざしながら、ぼそぼそ呟いて眺めていたタイガは、落下物に向かって跳んだ。


 羽で飛ぶのでも、魔法で空中に浮かぶのでもなく、純粋な脚力で地面を思いっきり蹴って、その反動でジャンプしたのだ。

 一瞬でこの街にある石造城の高さを超え、彼は例の落下物をキャッチした。

 数秒してタイガが、それを抱えながら、王冠被りの男の近くまで両足で難なく着地。


 騎士達は慌ててタイガを追う。

 

 ちなみに、例の落下物とは・・・・・・。


 「マリー ビトレイア・・・・・・っ!」

 王冠被りの男が、タイガに抱えられている彼女を目にし、忌々しく口にした。

 マリーは、口から泡を吹ていて失禁していたのだが、それでも命に別状はない。


 「爆破から彼女を逃れさせるため、天に向かって、投げ飛ばしたというのか貴様!!

それも、訓練された兵士の目ですら捉えきれない速度で!!」


 「ああ、これでも傷つけさせないようにするのは大変だったんだぜぇ?

 触れる瞬間の衝撃で、彼女の体が壊れなかったのは、おれ様の肌が、ある程度の衝撃を吸収する特徴を持つからさ。

 ちなみに、救助の為に人を投げ飛ばすことは、非暴力の縛りを破ったことにはならないよな? ぎりセーフ」


 「『マッシュルームクラウド』は、遠距離から敵軍を殲滅させるために開発された超広範囲攻撃魔法だぞ・・・・・・空間移動テレポートの類でも使わない限り、回避不可能だということが世間の常識のはずだ!」

 王冠被りの男が、脂汗を顔に流してそうまくし立てた後、両目を片手で覆い、俯きながら重々しく尋ねる。

 「・・・・・・何が望みだ、貴様」


 彼の言葉に、タイガは目を見開いて驚く。

 「はっ・・・・・・? 

 もしかしてもう降参するってことかっ!?」


 素っ頓狂な声を出したことで、急いで顔を上げる男をよそに、タイガは続けて、

 「たかだか、敵に爆発魔法が効かなかっただけで白旗上げんのかっ!?

 おれ様はてっきり、昼夜問わず何日かぶっ通しでてめぇの軍から攻撃を受けるつもりでいたのにさっ。

 例えば風魔法で、真空状態でおれ様を窒息させるとか、水で溺死させるとかまだまだおれ様をぶっ殺すのにやりようはあるじゃねぇかっ!!

 意外とおれ様は冷気に弱い魔族かもしれないよ~? 呪術とかの魔法とか、この国にもあるはずだろぅが。

 即死魔法なんてチートでも、イチかバチかで使ってみろよ、あっけなくおれ様死ぬかもよ。

 つーか、もしおれ様がこの国の王座分け渡せって願ったら、そのままそうするのか!?

 てめぇ、王冠被ったところをみると王様だろ?」

 慌てるよう口にする。


 「確かに、私は国王 ゲルタベ マルウェア だ。

 そして一国の主として、先程貴様が申した王座を分け渡す願いは流石に承れないな・・・・・・。

 てっきり私は、貴様がマリーに惚れていて、彼女を我らから解放して欲しいことが、貴様の望みだと察したのだが・・・・・・」


 「おれ様が・・・・・・? この嬢ちゃんを・・・・・・??」

 タイガが、気絶しているマリーを見下ろし、

 「ハンッっ! わりぃが、全然タイプじゃねぇな。

 おれ様は、眼鏡と三つ編みが似合うそばかす女が好みなんだ」

 鼻で笑った。


 国王が、怪訝な顔を表して尋ねる。

 「何だ? では彼女をかばった理由は・・・・・・?

 そもそも貴様は人間ではないから、マリーの親類でもなさそうだし、旧知の仲の関係か?」


 「いいや? 全くの初対面だ。

 嬢ちゃんをかばった理由は、・・・・・・どうしようかな~教えちゃっおっかな~?」


 タイガが茶化すよう答えを出すのに躊躇い、国王は頭を抱えて話題を変えた。

 「どうしたら、貴様は大人しく退いてくれる?」


 「ん~じゃあ、マリーの嬢ちゃんに処刑と拷問はしないと約束してくれるだけでいい。

 それと、おれ様をこの国の住民登録に加えてくれたら、後は文句ねぇや。

 税金はしっかり払うぜ?」


 「彼女の釈放は願わないのか?」


 「流石に囚人を無条件で解放させる程、おれ様は甘くはねえ。

 ただ、どんな罪人でさえ、更生のチャンスくらいは与えてやっても、バチは当たんないじゃねぇのん?」


 腕を組んで、目を瞑り、長考した国王は、

 「・・・・・・分かった。その条件を飲もう」

 そう承諾した。

 彼の言葉に、騎士達が動揺する。


 「呆気なく承諾したな、つまらねぇ」

 タイガが、気絶したマリーを大剣使いの騎士に預ける。


 「貴様、先程自らの事を魔族だと称していたな・・・・・・特別事例として、魔族の住民登録をこの国で許可する。

 ルバインド、彼を冒険者ギルドまで案内しろ。手続きはそこでできる」

 国王が自分の名前を呼ばれたことに、驚愕したモーニングスター使い。


 「そいじゃぁ、いろいろありがとな」

 慄きながら、先頭を歩くルバインドに連れられて、ここから去ろうとするタイガが、国王に感謝を述べた。


 弓矢使いが、国王に囁き声で耳打ちをする。

 (もちろんマリーは秘密裏に『処理』致しますよね? 国王陛下・・・・・・それとあの虚け者に暗殺部隊を動員させますか?)


 タイガが国王達に背を向けながら、呟く。

 「あ~、時々マリーの嬢ちゃんの面会をお願いするぜ。

 もしも彼女を殺したら、おれちん、非暴力主義やめちゃうかもな~?」

 片手の骨をゴリゴキ鳴らすタイガに、顔を青ざめる国王達。


 「あっそうだ、国王陛下? おれ様がマリー嬢ちゃんをかばった理由だけどな」


 タイガが今更ながらな、国王が尋ねた質問の答えを、振り返って口にする。




 「 嫌がらせ に決まってんだろ」

 ご覧下さりありがとうございました。

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