私は何も知りません。
「フランドール・エリザベートっ、お前との婚約を破棄することを宣言するっそして、このマリア嬢と婚約するっ」
「ふぇっ……」
学園の廊下のど真ん中。
聞き覚えのある声が私の名を呼び、騒がしかった場は静まり返ってしまいました。
「えと……私ですか?」
ゆっくり背後を振り返ると、案の定、そこにいたのは我が国の第一王子。
隣に可愛らしい女の子を侍らせています。
「婚約破棄……とは、どう言うことですか?」
「お前がこのマリアを虐めたからだっ」
マリア……?
殿下の横にいる令嬢のことでしょうか。
残念ですが、名前も顔もしりませんでした。
それなのに、どうやって虐めると言うのでしょう?
「身に覚えがございません」
「白々しいぞっ証拠だってあるんだからな」
自信満々に資料を渡してくる殿下。
何枚か読んでみますが、すごく作り込まれています。
ちゃんと証人の名前もかいてあり、本当に虐めがあったかのような資料です。
「証人もいるんだ。認めろ、エリザベート」
……エリザベート?
あぁ、なるほど。
どうやら殿下は、勘違いされているようです。
私には、双子の妹がいます。
難しいことは知りませんが、一卵性双生児というらしく、
私達は瓜二つなのです。
金髪も、藍色の瞳も、顔立ちも似ていて、家族でさえ間違えるほど。
唯一違うのは性格くらいでしょうか。
妹は男勝りの気の強さ。姉である私はおっとりしているとよく言われます。
その妹の名前は、エリザベート。
確かエリザベートは殿下と婚約していましたね。
「ふふっ」
「何を笑っているっ」
「いや、面白いことになったなと思いまして」
あのエリザベートなら、虐めもやりかねませんね。
あぁ、本当に面白いことになった……。
この茶番、今終わらせるなんてもったいない。
いっそこのまま、エリザベートのフリをしてしまいましょうか。
「殿下」
「認める気になったか」
……この上から目線、腹が立ちます。
言われっぱなしなんて私のプライドが許さないっ
倍返しにして差し上げますっ
「殿下、まずこの資料についてですが、証人の方にかたよりがありませんか?」
「どういうことだ?」
「証言した方は皆、殿下の側近候補ばかり」
「何が言いたい⁈」
「殿下なら、無理に証言させることも出来るわけです。よってこの資料は信憑性がありません」
「なっ……」
「仮に私がマリアさんを虐めたのだとしても、非があるのはそちらではなくて?」
「なんだとっ?」
「だって婚約者のいる男が他の女と逢引をするなんて、許されないことですよね」
「っっ……!」
実際に逢引をしていたのかは知りませんでしたが、まさか図星でしたか。
「私は、婚約破棄なんて認めません」
妹の婚約、勝手に破棄しちゃ悪いですから。
「では、失礼します」
踵を返し、歩き出します。
廊下の角を曲がったところ。
「姉様?」
ニコニコと、笑みを浮かべる我が妹。
エリザベート、目が笑ってないよ?
あぁ、なんて言い訳しましょう?