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干支暦和は平凡な毎日と共にありたい。  作者: 朝水林次郎
衝撃のラストでも平凡な毎日と共にありたい
33/34

総集編・其の貮 和泉卯生は姉のフィアンセと分け合いたい。

さすがに夜遅くまでいてもらうのは、気が引けるので暗くならないうちに帰ってもらった。

「ちゃんと寝ろよ。」

「分かってます。」

家に帰り、カレンダーを見る。もう、1月だった。きっと文水さんの計らいだったんだろうが、正直恐怖を感じざるを得なかった。弥生さんとの再会をしてからもなおお化けという存在を否定しない大学生だ。

「各世界共有説か…」

世界観が違うなら、ルールが違うのは当たり前のことで。そのルールの共通項が多ければ、または世界観が似ていれば、結婚という形での世界観共有がなされるということか。

「こんなに考えても仕方ないよなあ。」

しっかり寝て、それから考えることにする。

「おやすみ。」

誰もいないことを再確認して、寝た。


翌日。意外と寒くなく、小鳥もさえずっていた。

「ふわあ。」

起こしてくれる妹も、ご飯を作ってくれるお姉さんもいない朝を迎えるのは、いつぶりだろうか。

「はぁ。」

自らご飯を用意し、自らでそれを食べる。喪失感というか、虚無感というか。

大学に行く準備を終わらせ、家を出る。階段を降りると、同じく登校なのか少女がそこにいた。

「おはよう。」

「お、おはようございます。」

見た目としては、おしとやかで静かな感じであった。カチューシャの輝くゴールドとは裏腹に。

「学生さん、ですか?」

さすがにこの年だと、サラリーマンに間違えられやすいのだが、この少女は観察眼が非常に高いようだ。

「一応ね。大学生。そっちは?」

「大学生です。4月から3年になります。」

「じゃあ、後輩だね。」

「そ、そうなんですか⁈どこの大学ですか?」

「うん。紅宮大学だよ。」

「私もです!」

こうして、二人で学校に行くことになった。誰かと一緒に学校に行くなんて、それこそ小学生以来だ。

「名前、なんて言うの?」

「和泉、卯生です。うさぎ年の卯に、生きるで、うづきです。」

和泉…卯生?まさか、この子が…?

「あなてゃは?」

彼女も緊張するのだろうか?

「すみません。嚙んじゃいました。」

てへっと頭を掻きながら笑う彼女の隅々から、やはり和泉家の雰囲気を感じる。

「俺は、干支暦和だよ。」

「か…かかか、干支君⁈」

あれ、覚えてるの?

「干支君て、あの干支相談所の⁈」

指をさしながらわなわなする卯生ちゃん。

「そうだよ?」

「じゃじゃ、じゃあお姉ちゃんの。」

何か整理がついたのか、安堵の表情を浮かべ、そしてこう告げた。

「お姉ちゃんを、責めないでくださいね。」

それが何を意図しているのか。仮説に基づけば一発でわかるのだが、果たしてそれが正解なのか。

そうこうしている内に、学校についていた。

「じゃあ、用事があるんでここで。14時に校門前でどうですか?」

「OK、分かったよ。」

…え?今、全然自然な感じで初対面(ではないのか?)の人と約束した?

すごいな。これもまた、和泉家のコミュニケーション能力ということか。

授業を終えて、時刻は13時。時間に余裕があるので、大和の元へ。

「おや、もう学校に来れるのかい?」

「まあな。」

「それで、何かわかった?」

「ああ。」

「じゃあ、聞かせてもらおう。君の成長の証を。」

「成長?」

「というか、想像かな。想像で創造した産物の話だよ。」

「分かったよ。」

昨日分かったことは、詳らかに話した。彼女と俺の世界がつながったこととか、いろいろと。

「こよみ君の感性には、歓声を上げたくなるね。」

「そんなギャグじゃ、どの世界も閑静になるよ!」

「関西の人も、笑ってくれないなぁ。」

「もはやかんさいじゃねえか!漢字だからセーフとかじゃないから!」

「これはこれは、落とし穴だったね。いや、陥穽かな?」

「いつ終わるそれ⁉」

「おやおや、管制を敷くつもりかい?」

「もう完成でいいだろ!」

「寛政の改革は、もう少し続くだけどなあ。」

「喚声を上げるぞ!」

「官製はがきみたいに、もう終わりだね。」

「終刊だ!」

「いや、週刊だ!」

「週一でやるの⁈」

「というか、習慣だよ。」

「嘘…だろ…」

「はい、終わり、完成。ほら、先にこよみ君が言っちゃったから…すべっちゃったじゃん。」

「もとからウケてねえよ‼」

長かった。

「じゃあ、中学生弥生さんは、さつきちゃんとして。大人弥生さんは、弥生さんとして。それぞれ、こよみ君の世界に現れたわけだ。」

「そうなるな。」

「じゃあ、高校生弥生さんは?」

「それが、分からないんだよ。」

「その感じだと、察しはついているようだけど?」

「まあ。今日初めて会った、和泉卯生って子なんだけど…」

「ああ、下の階の。」

「何で知ってるんだよ⁉⁉」

「いや同じアパートだし。」

「はあ⁈」

「そうだよ?知らなかったの?」

「初耳だよ⁈」

「あのアパート、つまりはフォンテアマレロだけど、結構みんな住んでるよ?」

干支暦和と、如月大和、和泉卯生、そして摂津文水。みんな、あのアパートだよ。

「え⁈文水さんも⁈」

なんだ、じゃあ別に帰ってもらわなくてもよかったじゃん…

「そうなんだ。」

「話を戻すけど、じゃあその人が、つまりは和泉卯生って子が、和泉弥生の妹だと?」

さすがにピースが合いすぎて怖い部分ではあるのだが、そうとしか言いようがないのである。

和泉という苗字。

卯生という名前。

そして、あの笑顔。

もしかすると、和泉卯生はあの踏切について、知っているのかもしれない。タイミングがあれば聞いてみよう。

「そうは、行かないみたいだよ。」

大和が指差す方向には、これまた2度と会わないと思っていた女の子がいた。

「どうして?」

不気味な後輩は、意味深長に笑う。

「どうしてって、あなたの願いを聞きに来たんです。」

「俺の、願い?」

気の抜けた教授は、表情を変えて問う。

「説明してもらおうか?君が、彼女を殺した理由を。」

何も知らない当の本人は、蚊帳の外だった。

「やめてくださいよ、人聞きの悪いー。私は願いをかなえるだけです。願いをかなえる妖精です。要請があれば、いくらでも飛んでいく妖精ですよ?」

「正体が、全くつかめんな。」

「掴ませませんよ。」

微笑む後輩。否、嘲笑うの方が近いか。

「でも、ヒントなら差し上げます。意外と近くに正解はあるものです。そして、恋敵にはいなくなってもらいたいものです、例えそれが兄弟であっても姉妹だとしてもね。」

「ま…さか…」

「お!わかりましたか⁈先輩さすがっす!」

この後の展開を考えると、少しあの集合場所に寒気を感じる。怖気がする。

「じゃあ、私はこの辺で。」

振り向くと、すでに彼女はいなかった。

「どうするの?こよみ君。」

「どうするって、聞くしかないでしょ。」

「そうだろうね。」

「なあ、大和。」

「何?」

「各世界共有説って知ってる?」

「当たり前じゃん。というか、結構な信者だよ?」

「じゃあさ、あの河内冴姫って。」

「たぶん、人間じゃないな。人間っぽい何か。すごく人間に近いもの。誰もが持っている、人間の中身。」

それを、何と呼べばいいのだろうか?いわゆる感情の部分であるあれは、人によって呼び方が変わるのだろう。

「そして、それは中立を好む。」

「中立?」

「要は、バランスだよ。誰かがいい思いをすれば、逆に不快な思いをする。誰かが幸せになれば、それに匹敵する不幸が、誰かに訪れる。弥生さんの願いは、1年契約というデメリットで賄われている。そして、卯生ちゃんの願いは、」

姉の死によって、対価が支払われている。

「じゃあ、踏切の事故は。」

「きっと、冴姫ちゃんの策略だろう。」

人の運命というのは、どうやら誰かの意図によって決められているようだ。そして、それは善意だけでなく悪意でも決まるようだ。

「人は1人で生きられないというけど、それはこういう意味も含まれていたりするのかな?」

背伸びをして、昼寝に突入しようとする大和。

「じゃあ、ドア締めといてね。」

時刻は、約束の時間に差し迫っていた。

急いで門へ向かうと、すでに彼女は待っていた。

「あ、干支先輩!」

「待たせたな。」

「いえいえ、着いたばっかりでしたので。」

「じゃあ、帰るか。」

「少し寄るところがあるので、遠回りしてもいいですか?」

「ああ、いいよ。」

端から見ると、やはり彼女はまだ高校生なんじゃないかという風貌である。なんというか、小動物みたいというかなんというか。

「まあ、おっぱいも小さいですしね。」

「おっぱいの話はしていない‼」

「ちなみに、小さいです死ねって言ったの分かりました?」

「さらっと暴言言わないで‼」

別に貧乳でも問題ないと思うぞ!

「そもそも、貧乳って言葉がすでに差別だと思います。何ですか、貧しいって!別にごはんは普通にたべてますよーだ!」

「話変えて良い⁈」

普段から、思う節があるのだろう。

「そういえば、この前TVでアニメ見てたんだけど、」

「何のアニメですか?」

「えっと、『未来の私に幸あれ!』だったかな?」

「それ、私の作品です!」

…え?君、大学生だよね?小説書くんだ…というか、アニメ化までしてんの⁉

「卯生ちゃん、嘘はよくないよ。」

「嘘じゃないです!あとで、部屋に来てもらいますから覚悟してくださいね!!」

「分かったよ…ごめんごめん。」

「あ、全然わかってない!むしろめんどくさそうな顔をした!」

頬を膨らませるところに、面影を感じる。

「で、寄るところって?」

「この踏切です。」

途中から、寄るところに向かっていたため、全然知らない道に入ってたので、よく分からなかったが、なるほどこういうサプライズか。

「洗脳踏切です。覚えてます…よね。」

「ああ。」

「ここで、あなたを殺すはずでした。」

「ああ。…え?」

「本当に申し訳ありませんでした。」

「ちょっと待って…ん?思ったのと違うんだけど・・・」

「すべて話したくて、ここに連れてきました。」

見ると、河内冴姫が申し訳なさそうに手をもぞもぞさせている。その割に、顔は笑顔だ。

「15年前にさかのぼります。」

さあ、謎解きの答え合わせだ。


「まだ、幸助じいちゃんが健在だったころ。よく、お姉ちゃんと一緒に相談所にあそびに行ってました。まあ、お母さんが仕事に出るので、面倒を見てもらったの方が正しいですかね。

「そして、あなたと出会った。

「はじめは、別に何とも思ってなかったんだけど、会えば会うほど、合うことが分かってね。

「ほぼ同時期に、弥生姉も想ってたみたい。そうして慮るあまり、弥生姉とも気まずくなって。

「そこに大漁まつりが現れた。いわゆる、友達以上恋人未満の距離感に、抜かれたと思ったよね。

「でも、私は知っていた。あなたが、よみかず君が弥生姉が好きな事が。

「どうやら、まつりさんも気づき始めてたようで、それでも彼女は諦めなかった。まつりさんと弥生姉が険悪になっていくのが見えた。

「でも、よくよく考えると、意外とそうでもないんだよね。外から見ると複雑なことも、いざ中に入っちゃえば、簡単だったり。専門用語を言われていて、さっぱり分からなかったのに、少し勉強すればついて行けちゃうみたいな。

「当時の私にそんな考えは、全くなかった。まつりさんも弥生姉も仲良くなるなら、私何でもしたいと思った。

「そこに、さっちんが現れた。河内冴姫だったよね。そして、彼女は願いをかなえる妖精だと言った。

「世界と世界をつなぐ交渉人とも言っていたかな?なので、便乗してお願いした。

「結果、よみかず君を殺害するということになったみたい。

「でも、そこで誤算があった。よみかず君の隣に、弥生姉がいた。そして、お母さんもいた。

「そのあと知ったんだけど、お母さん、子供がいたみたい。

「あ、言ってなかったけど、お父さんいるからね?

「そうしてああなった。

「お姉ちゃんは、これをまつりさんの策略と勘違いしたみたいですけど。

「どうですか。やっぱり私って最低ですか?」

何も言えなかった。

やはり弥生さんは、俺を助けてくれていたのか。

「そして、今度はあなたの番です。」

「俺の、番?」

「すべてを知って、その上であなたはどうしたいですか?」

「どうしたいって、何が?」

「和泉弥生さんのことです。」

さっきまで、黙っていた冴姫ちゃんが重い口を開けた。

「でも、弥生さんはもう?」

いなくなったんじゃ?

「いえ、弥生さんはいます。」

「え、でも?」

「それは、弥生さんの願いがかなったので。」

ペアリングが切れたから。彼女はそう言う。

「完全に弥生さんを成仏するなら、あなたの願いも叶えなくてはなりません。」

それが、マナーです。交渉人としての。

「じゃあ、俺は。」

「どうしたいんですか?」

俺は、どうすればいいんだ。




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