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干支暦和は平凡な毎日と共にありたい。  作者: 朝水林次郎
衝撃のラストでも平凡な毎日と共にありたい
32/34

総集編・其の壹 摂津文水は傷心の後輩を慰めたい。

「これって、弥生さんだよね。」

ついに、自分の仮説が正解に近付いていると分かると、やはり安心というか安堵の表情を浮かべざるを得ない。しかし、それはと同時に恐怖と申し訳なさが込み上げるのも、俺という人物らしい。

俺は、彼女に助けられたのか。

「まあ、とりあえずさ、家に帰って一人で考えてみてよ。」

「そうだな。色々疲れただろう。ちゃんと休め。」

「じゃあ、文水さんちゃん、お世話よろしく。」

「そうだなって…はあ!?どどど、どうしてあたしがおおお世話をしなければならんのだ!」

「だって、彼一人じゃ怪しいし。」

「さっきは自分で一人で考えろと言っていたではないか!」

「違うよ、考えるのは一人で。その他のことは誰かがいないと。だって、今まで幼馴染がいたみたいじゃん?だから、元の生活に戻るまで一緒にいてあげてよ。」

「な、でもよみかずが嫌なんじゃないか。なあ、よみかず?」

「誰か、いてくれた方が安心かな。」

「…へ?」

「そういうことだから、文水さんちゃん。大丈夫、今の彼なら何もしないよ。」

「そ、そうか。」

ということで、俺の家に文水さんが来ることになった。

「どうぞ、上がってください。」

「ほ、本当にいいのか?」

「ええ、お願いします。」

「じゃあ、上がるぞ。」

見ると部屋は、考えてみれば当たり前なのだが、いろいろと片付いておらず埃まみれだった。

「これは、女の子を部屋にあげる男として、誇れないな。」

「じゃあ、掃除から始めるか。久々に腕が鳴りそうだ。」

「すみませんが、宜しくお願いします。」

「そんなかしこまるなって、やり辛くなるだろ。」

笑って答える文水さん。

いつか言っていたか分からないが、一応確認のために言っておく。大学では、彼女は先輩なのだが、年齢的には俺の方が上である。

「あ、こんなところにエロ本が。」

「じゃあ、そこの本棚に入れておいてください。」

「分かった、じゃねえ!何言ってるんだ貴様!一応女性だぞこっちは!」

「別にいいですよ。信頼してますので。」

「そういう問題なのか…それにしてもオールラウンダーなんだな。」

「オールラウンダー?」

「だって、法律スレスレから、熟女までSからM御用達まで、幅広く置かれているではないか。しかも、本やDVD、ゲームまで。すごいな。」

「やめてください、それほとんど俺のじゃないですから。」

「そうなのか?」

「そうです。」

それから小一時間経って、ようやく掃除は終わった。

「お風呂入れておいたぞ。」

「あ、ありがとうございます。」

「何のこれしき、しっかり考えてこい。」

「では、入ってきます。」

お風呂に浸かって考えると、考え事が捗るらしい。これは、実際に試したわけではないので今から確かめるのだが、そういえば大和も弥生さんも言っていた。

「ふう。」

愛する人が死んでしまっているという事実は、随分と前に気づいていて、否教えられたので、そのあたりに関しては、やはりそうかと納得はしている。しかし、疑問が全くないわけではない。

どうして、和泉皐生は、15歳の中学生として目の前に現れたのだろうか。

「うーん。」

冷たいシャワーを浴び、物理的に頭を冷やす。

『人それぞれ、世界を持っているんです。』

『いてほしいと願うことで、人は存在するんです。』

そこから、導き出される答えは。

「ふう。」

風呂を出て、脱衣所に出る。目の前が濡れて良く見えないため、手探りでタオルを探す。

約1年も使っていないと、さすがにどこにあるか分からなくなってしまうのだろうか。なかなか、掴めない。

ようやく掴んだと思ったら少し柔らかい。何だろうか、この触り心地は。

「…へ?っよよよよっみかず?」

「あれ、文水さんさん?いたんだすみません。」

「別にそれは良いのだが。そそそそ、それよりそ、その。」

「ん?どうしました?」

「君の手が、そその、わ私の、おっぱいに。」

「…え?」

柔らかなものの正体は、決してタオルなんかではなく、女性のそれだった。いやでも、角度的におかしくはないか?

「タオル、下なんだろう?取ってやろうと思ったら、おっぱいを触られるなんて!」

「ごごごご、ごめんなさい!!!」

「仕方ない、見えなかったならしょうがない。でもな、謝る気があるなら、そろそろ手を離してくれないか?」

「あ、すみません。」

「まったく。ご飯できてるから、食べてこい。」

「ありがとうございます。」

文水さんが作るご飯は、とても美味しかった。柔らかいご飯に、肉汁がおいしさを際立たせた。今日の夕食はハンバーグ。

「どうだ、美味いか?」

「めっちゃ美味いっす!」

「前から思っていたのだが」

「うん?何ですか?」

「いや、そのなんていうか…」

「はっきり言ってくださいよ!」

「何で敬語なんだ?」

「…え?」

「いや、ほら。年齢的には私の方が下じゃないか?なのにどうして、敬語なんだ?」

「それは、だって。」

「だって?」

「一応先輩ですし、ちょっと怖いですし。」

「そそ、そうなのか?それは、すまないな。」

「いえいえ、それが文水さんらしいところですから。」

「でも。ふふ、二人の時くらい、呼び捨てでも構わないぞ?」

「それは、大丈夫です。」

「大丈夫ってなんだ!」

「そういうのは、求めてないんで。」

「なかなか辛辣だな貴様!」

ご飯の時間は、和気藹々として、とても楽しかった。楽しくて、寂しかった。

「夢の時間を思い出したか?」

「まあ、そんなところです。」

「整理は、着いたのか?」

「ええ、疑問はまだ残ってますが。」

「ちなみに、なんだ?私に言ってみろ。」

「いや、どうして見たこともないはずの妹、さつきちゃんが中学3年生として、何の疑いもなく存在していたのかということです。」

「それは、あれじゃないか?いわゆるみんなそれぞれ世界を持っているという説。」

各世界共有説。この世界というのは、各々の人間が持っている世界観が共有されることで成立しているという説。冴姫ちゃんから教えられた弥生さんが言っていた。この説のおかげで彼女と再会できたというのなら、うれしいことこの上ないのだが、それと関係があるのか?

「世界観が違えば、ルールが違う。常識が違う。マナーが違う。だからこそ、人々は自分の世界が正しいと信じ込んで他の人と争うことになる。」

「なるほど。」

「今回の場合、それがいい方に向かったのだろう。和泉弥生が求めた干支暦和がいるという利益と、干支暦和が求めた和泉弥生がいるという利益が、見事に合致し」

2つの世界がつながった。

物や、人の体を形成するもっとも小さい粒子、分子。それが、電子を共有することで結合するように。

「そういう説のことを、非科学的だと馬鹿にしていたが、そうしてみると変に筋が通っていて否定しがたいな。」

「でも、それじゃあまだなぜ成長しているのかという疑問の正解になりません。」

「まあ、慌てるな。ゆっくり読み解けばいい。暦和という人間の心を。」

「俺の、心?」

「君は、小学生の弥生さんしか見てないんだろ?」

「現実では。」

「だから、その現実っていうのは、自分の世界でしかないのだが…まあいい。つまり、中学生の弥生さんは見たことないんだろ?」

「そうですね。」

「だから、見たかったんじゃないのか?おそらく君は、通りすがりの中学生とかを見て、弥生さんを思い出していたんじゃないか?」

ちゃんと見たら、中学生のエロ本とか、DVDとかないし。

「ちゃんと見ないでください!」

「少し気が引けたんだろ。」

「それで、中学生和泉弥生として、和泉皐生を作った。偶然、和泉弥生にはちょうどそれくらいの年の妹が生まれるはずだった。」

ぴったりとはいえないまでも、パズルが出来上がっていくような音がする。

「そして君は、大人和泉弥生を欲した。すごくわがままで、さすがに叶えられないだろうと思ったが、これまた奇跡が起きる。和泉弥生もまた、成長した干支暦和を欲していた。」

こうしてまた、ピースが嵌まる。結びついてくる。

「そんなご都合主義な話、マンガでも読めませんよ。」

「本当だよ。」

二人ともが傲慢で、自己中心的で、わがままだったからこそ起きた奇跡。

「でも、不思議がまた残りましたよ?どうして、高校生は求めなかったんでしょうか?」

「この家に来たら、一発でわかるよ。むしろ、今まで気づかなかったのか?」

「え?」

「この家に来て、何年になるんだ?」

「3年ですよ?」

「じゃあ、知っているはずだ。」

「え?」

「答はここにある。」

指をさした方向は、下だった。下の階ってことか?

「行ってらっしゃい、和泉卯生の家へ。」

和泉…卯生?





いきなりそんなこと言われてもってことはよくあると思いますが、だからと言っても先に言われたらそれはそれでつまらないですけど。やっぱりそこは内容に左右されるんでしょうね。

以上、『摂津文水は傷心の後輩を慰めたい。』でした。それでは。残り2話です!

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