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干支暦和は平凡な毎日と共にありたい。  作者: 朝水林次郎
懐かしの知人たちは久々に戯れたい
24/34

総集編 大漁まつりは愛しの兄さんと花火が見たい。

『花火、綺麗だな。』

『そうだね。』

『まつりと来るの、初めてだったよな。』

『やっぱり、かず兄と見ると花火が一段と綺麗だよ。』

『なんだよ、それ。』

『まつりね、かず兄のことが、』

…は!


目が覚めてしまった。何だったんだ~!続きが気になる!

6月。暑さが日に日に増し、蚊が嫌がらせをしに来る今日この頃。町はなぜか活気づいており、今までの静けさは何だったんだと言わんばかりに盛り上がっている。そして、今日はさつきちゃんとの朝の恒例行事に勝利し、テンションが上がっているというのも事実だ。


「ちぇっ。せっかく添い寝してあげようと思ったのに。」

むうっと頬を膨らますさつきちゃん。いや、頼んでないし。怒られてもなぁ。


「今日の朝ごはんは?」

「私が作りました!」

綺麗に敬礼をするが、残念ながらさつきちゃん、手が逆だよ。


「でかしたぞ!」

「まあ、お姉ちゃんが風邪で寝込んでるからさ。」

「え、そうなの?」


昨日まで、元気にわいわいしてたのにな。

前日、いつもよりそわそわしていたので、詳細を聞こうとするも、『秘密です。』の一点張りだったのでいまいちよく分からなかったが、どうやら彼女は遠足の日の当日に熱を出すタイプなのだろう。


「残念だなあ。無念だなあ。執念で何とかならないかなあ。」

「最後とんでもないことさらっと言ったな!」

「ふぬぬぬぬ!」

「執念を使おうとするな!」

「執念のスキルを習得したいですね。」

「習得しなくていい!」

部屋を出て、朝ごはんを食べるためリビングに向かう。

机の上には、すでに豪華な朝食が用意されており、とてもじゃないけど一人で食べきれる量じゃないよ…


「そりゃそうですよ、来客用ですから。」

…え?来客?まだ朝の7時なんだけど…

「夜中の12時きっかりに来たんですよ。」

「徹夜組かよ!」

「本当に、びっくりしたよ。少し目が覚めたから、飲み物飲もうと冷蔵庫開けたら、ドアがドンドンドンって叩かれたんだから。」

「冷蔵庫のドア?」

「冷蔵庫のドアなわけあるか!怖すぎるわ、寝れなくなるわ!」

「叩かれた夜は寝やすいっていうじゃん!」

「んなもん知らねえよ!」

ちょっと、お嬢さん。言葉が汚くなってますよ。あと、ちゃんとしたことわざなんだけど。


「でね、玄関のドアを開けたら、一人の女の子が立っててね。」

「どんな女の子だったの?」

「なんか、アホ毛があって、いかにもアホそうな子だったよ?」

「アホそうな子?」

「うん。」

そんなあからさまな子がこの世の中いるのか?


「なんか、従妹って言ってたよ?」

従妹?確かに従妹はいないことはないが、しかしながら、かれこれ10年ほど音信不通なのである。いわゆる絶縁状態なのだ。そんな彼女がしかも、こんな状態の俺の家を見つけることができるのだろうか?


「いまどこにいる?」

「服屋に行ったよ?なんか、予約してたものがあるんだとか。」

「そうか。」

ガチャッ

「ただいまでーす。」

「お帰り~」

「そ、その声は!かず兄じゃないですか!」

「そうだけど?」

「久しぶりだなぁ。」

「いや、えっちょっと待って…」

いきなり飛んできたかと思えば、完全に俺をがっちりホールドし、肋骨が折れそうなほどの強さで抱擁してきた。


「この包容力、懐かしいなぁ。」

「そんな包容力ないから、離れて!法を要することになるから!」

「昔から、ほんとに何言ってるか分かんないよね。」

すっと離れると朝御飯を見つける。


「え、これ今作ったの?」

「そう、ですけど?」

あのさつきちゃんが、引いている。

「すごいですねぇ。プロみたいです!」

あのさつきちゃんが、素で照れている。

「では、頂きましょうか。」


ものの数分の間に、既に主導権を握る彼女。


大漁(おおあさり)まつり。確か、この年なら、高校3年生。


「いやいや、高校2年だよ。」

「あれ、計算間違い?」

「ううん。留年。」


軽く言うなよ重大な問題だよそれ!

「今、うな重って言った?朝からうな重はきついかな。」

頭だけでなく、耳も悪いようだ。


「まあ、いいじゃん。過ぎたことだし、時効だよ。水に流そ?」

「現在進行形で起きてますよね?!」

できることなら、渦潮にでも流したいよ。聞きたくなかったなぁ、久しぶりにあった従妹が留年してたなんて。


「なんですか、その人の留年を災禍みたいに。災禍の使い方合ってる?テストでたからさ使ってみたくて。」

その使い方は微妙だけど。まあ、積極的に使おうとするのはいいことだろう。


「そういえば、どうしてここが分かったの?」

「どうしてって、一回来たことあるし。7割くらい野生の鑑。」

鑑じゃなくて、勘な。7割勘で来れたら、それこそ野生の(かがみ)だよ。え、でも来たことあったっけ?


「えっそうだっけ?」

「まあ、だいぶ小さいころね。」

「そうか。」

「ごちそうさまでした!」

3人同時で言えると、やはりいいものだと感じる。


「さあ、朝ごはんも食べたことだし、かず兄!まつりと祭りでデートしよ!」

「奉り?」

「いやただの祭り。知らないの?碧祭だよ!」

「え、ホウレンソウ?」

「それは、青野菜!」


これ以上ボケても拾ってくれなさそうなので、端的に説明させてもらう。

碧ヶ崎市民祭り。通称あおさい。学生にとって、夏休みではないのに伝統だからと、6月中旬に行われる年に一度のこの街最大のお祭り。


「生憎だけど、行かないよ?」

「それで、最後の花火がすごくてね、ある言い伝えが…って行かないの⁈」

「うん。病人いるし。何なら、さつきちゃんと行ってくる?」

「あ、ごめん。昭佑君とデートなんだあ。」

踊りながら廊下を歩いて、部屋に戻って行った。


「だそうだ。残念だけど、今日は無しで。」

「ちょっと、待ってください。かず兄、テレビあるよね?」

「うん。それだけど?」

「よし、じゃあ見れるね!」

どうやら、この祭りのクライマックスを飾る花火はTV中継する予定なんだとか。

「でも、暇だな。」


今の時刻は8時。花火まで、それこそ12時間ある。

「では、少し出かけませんか?」

「だから、外に出られないだってば。」

「大丈夫!さつきちゃんがいるんです。」

「あれ、お義兄ちゃん出かけるの?昼過ぎに出るつもりだったし、行ってらっしゃい。」


いきなりドアを開け、その旨だけを伝え、またドアを閉めた。まあ、本人も言っていることだし大丈夫か。


「じゃあ、行こう!」

「れっつごー!」

まつりに言われるがままに外に出たはいいものの、果たしてどこに行くのだろうか。


「そんなの、決まってるじゃん。海だよ、う・み!」

「海?」

「夏だからね。」

「…でも、俺海パン持ってねえよ?」

「何で持ってないのよ…まあ、仕方ない。正直水着見せたいだけだし。」

「え、それなら別に家でも…?」

「それじゃあ、雰囲気が台無しでしょ!せっかくのデートだよ?」

「で、デートなのか、これって。」

「そうじゃない?あ、着いたよ。」


結論から先に述べると、海はすでに入れる状態じゃなかった。荒れ果てていたのだ。やっぱりつながってるんだなぁ。いやな予感はしていたんだけどね。本当だよ?


「またかぁ。何か阻まれてるよね。阻止されてるよね。」

「じゃあ、水着はお預けってことで…」

「何言ってるの?見るんだよ、かず兄は。」


そういうと彼女は、道端であるにもかかわらず、上に来ていたパーカーを脱ぎ始めた。その姿はやはり小学生ではなく、しっかりとした高校生の姿だった。


「どう、かな?」

「かわいい、と思うよ?」

「本当⁉ありがとう。」


そもそものルックスとして、おばあちゃんが町一番の美人だったので、遺伝的に可愛いのは当然であるが。これが驚きなのだが、どうしておじいちゃん、幸助じいちゃんがあの美人さんをお嫁にできたのか不思議である。正直、小説10冊レベルの秘話があるように推測してしまう。


「そろそろお昼だし、何か食べるか?おごるよ。」

「マジ⁈じゃあ、寿司!」

「却下。」

「え~、焼き肉。」

「却下。」

「じゃあ、イタリアン。」

「決定!」


こうして、海に一番近いイタリアンレストランを探した。今の時代、ネットを使わなくても施設は充実しており、割と簡単に見つけることができた。


「次第に、お店に行くんじゃなくてお店が来る時代が来るかもね!」

「いやあるけどね?」

宅配サービスとか。


「何⁈時代はまた私を置いていくのか!これは非常事態だ!」

「またなら、非常じゃなくて通常だろ!」

ひとまず、ピザからパスタから、たらふく食べた。とても美味だったと伝えたい気分だ。


「ピザじゃなくて、ピッツァね!」

「どっちでもいいわ!」

「良くないよ~意味違うし、海苔と糊くらい違うよ!」

「違いすぎだろ!片方食えなくなってるし!」

「ちゃんと注意しないと、イタリア人に怒られますよ?」

「分かったよ。ごめん、ごめん。」


「じゃあ、帰ろうか!トランプしよーよ!」

「オッケー!!」

「家までダッシュ!レディゴー!」

「いや、おかしいだろ!」

「え?レリゴーだったっけ?」

「そっちじゃなくて!」

「ありのままに生きてみたいよね。」

「何の話だ!」

「蟻のままは辛いかな~」

「だから何の話だ!」

帰ってこーい俺の話~!


「それじゃなくて、よく食べた後で走れるなってことだよ。」

「え、そんなに辛い?」

「辛いでしょ、普通に。」

「そんなことないよ、無痛だよ。」

「俺にとっては苦痛なんだよ!」

「そう、なら私のわがままも聞いてよ?」

「なんだ?」

「腕組んで帰ろう!」


そして、俺たちは腕を組んで帰ることになった。腕を組むなんていつぶりだろうか。その時の嬉しそうな顔は、完全に兄に甘えた妹の笑顔だった。


「あのね、私、死んだんだ。」

「…そうか。」

「あれ、リアクション薄くない?」

「ここにいるってことは、そういうことだからな。」

2つの世界に同時にはいられない。


「そっか、知ってるんだ。やっぱりかず兄には敵わないや。」

「俺の周りは、よく死んでいるんだよ。悲しいことに。」

「ねえ、それってさ、いつごろから?」

「なんか、15年前にいろいろあったみたいなんだけど。」

「記憶ないの?」

「そうなんだよな。」

「私が死んだのって、9年前なんだ。」

9年前というと、彼女はまだ8歳。

「どうして?」

あまり聞いちゃいけないような気がしたが、これは聞かずにはいられない。

「簡単に言うと…事故かな?」

「そうか。」


「電車に轢かれたんだよね。線路のど真ん中に綺麗な石があってそれに惹かれて飛び出して、踏切が下りてたにもかかわらず、入っちゃって、轢かれたんだ。かず兄に見せたくて。ごめんね。」

「謝られても困るなぁ。」

「そうだよね。」

「ねえ、それってこの街で起きた事故?」

「そうだよ、丁度この踏切。」


事故現場を見せられたところで、やはりそこには何もなく、ただあるのは、ありきたりな毎日とありふれた日常とありがたさを知らない若者たちが、踏切の前に存在するだけだった。たった一人を除いて。


「…え?冴姫ちゃん?」

「誰です?それ!もしかして、彼女ですか?!弥生さんがいるというのに!」

「いや違えよ!あのさ、先に帰っててくれないか?花火までには間に合うからさ。」

「約束ですよ?20:30からだからね⁈」

「わかったよ!」


何となく、話さなきゃいけないと思った。河内冴姫と。

何となく、離さないといけないと思った。大漁まつりから。


「どうして、ここにいるんだ?」

「あ、その声は先輩じゃないですか!」

「そんな明るい挨拶は良いから。」

「何だ、シリアスモードってことですか。今日は何を知りたいんですか?」

「この踏切のことだよ。」


ここは、確か生きている世界では、洗脳踏切と呼ばれていた。ここに来ると、特に女の子がいきなり線路内に入ってくるという。それと、関係があるのではないだろうか。


「ここでは、泉黄ですよ?」

「じゃあ、ここは。」

「そうです。察しが速すぎて、話が早すぎて少しつまらないですね。そう。ここは、この世界と生きていた世界、つまりは彼女の世界と先輩の世界の唯一のつながりです。」

「唯一の…つながり。」

「そうです。ここがつながりであり、ここが始まりです。」

「じゃあ、弥生さんもそのきれいな石とやらに、惹かれたのか?」

魅かれて、轢かれたのか。


「いえいえ、それは違います。本気で言っているのなら、苦言を呈しますよ?」

無限に。

無限に⁈

そうです。


「だって、そのきれいな石とやらは、私がしたことですし。」

「それって、どういうこと?」


「弥生っちに頼まれたんです。あの子、そのころ精神的に荒れてて。私が妹を殺した、それなのに喜びを感じる自分がいるって。

「多分、その喜びは人助けによるものなのでしょうけど。

「だから言ったでしょう?人助けって、自分が良ければ成立するんですよ。ただの、自己満足なんですよ。


「それで、私は提案をしました。『弥生っちの世界を作ってしまえばいい、その補助はする』ってね。

「彼女はそれに乗った。迷うことなく、乗った。そして、まず手始めに大漁まつりを引き離した。

「おやおや、弥生っちに対して怒ってるんですか?確かに、やり方はまずかったかもしれませんが。どれもこれも、先輩のためなんですよ?

「そうです。先輩の為です。人の為に善いことをすることは、偽善だなんてよく言われますけど、彼女の意思は本物でしたよ?真でしたよ。

「そして、その夢の世界がクライマックスを迎える。愛しの人との、感動の再会です。

「それで、呼び出させていただきました。詳しいことは、彼女から聞いてください。あ、最後に一つ。今年中には帰れますよ。」


河内冴姫は、あっさりと帰って行った。弥生さんは、なぜ死んだのか。それだけは、言わなかった。触れてはいけないタブーの範疇なのだろうか。


歩きながら考えると、一つの仮説にたどり着いた。正直、この仮説は仮説であってほしい。これは、さすがに嫌だ。嫌というか、申し訳なさすぎる。自分が嫌いになる。だって、こんなことはあってはならないのだから。


ありふれた日常は、ありきたりな毎日は、和泉弥生の犠牲によって、成立していた。ありえない勘違いをして、ありがたみを知らなかったのは、紛れもなく問答無用で俺だった。


これは、あくまで仮説であって、それが真か偽かは定かではない。それは、弥生さんの心次第である。


しかしながら、少しも疑問がないわけではない。もし、彼女たちは皆死んでしまったというのなら、どうして成長した姿でいるのだろうか?


「ただいま~」

「あ、しー。お帰りなさい。」

「どうしたの?体調は平気か?」

「ええ。だいぶ良くなりました。それより、今まつりちゃんが寝てますから。静かにお願いします。」

「分かったよ。あと30分くらいあるしな。」


「まつりちゃんすごいんですよ。すぐ寝ちゃって、ほっぺたつんつんしても全然起きないし。」

「まつりはいつもそうだったな。」

お茶を一口飲み、真剣なまなざしに切り替え、弥生さんに問いかける。

「なあ、弥生さん。」

「何でしょうか。」

「泉黄踏切って知ってる?」

「な、何のことでしょうか。」

「その感じだと、やはり知ってるんだな。」

「すみません。」

「謝らなくていい。じゃあ、確認なんだけど、ここは死後の世界ということでいいのか?」

「微妙なラインですね。死後っちゃ死後なんですけど。」

正確を期するなら、別の世界線です。


「別の、世界線?」

「人それぞれ、世界というものを持っているんです。中二病っぽいんですけど、便宜上そう呼ばせてもらいます。」

「そうなのか。」

「そして、世界間の移動は、一旦その世界でリセットしなきゃいけないんです。ここまで、かわちーが教えてくれました。」

何者なんだ。あの子は。


「それでも、よみかず君を殺してまで私の世界に組み込もうとは思えなかった。」

だから、呼ぶという形で派遣してもらったのです。1年間というレンタル契約で。

「ふわぁ。あれ、もう帰ってたの?じゃあ、かず兄!花火見るよ!」

「え、ちょっと。」

「今度は弥生さんに取られませんから!」

ヒューッドン、パラパラパラ。

「お、始まった!綺麗だな~」

「そうだな。」

「ここの花火一緒に見るの久しぶりだね。あーあ、浴衣持って来ればよかったなぁ。」

「お、今のすげえー!」

「ねえ、かず兄。」

こちらを見つめる彼女は、どこか照れくさそうにそう言った。


「碧祭の恋花火って知ってる?」

「何それ?」

「このお祭りで、唯一黄色のハートがかたどられたやつで、一緒に見たものは結ばれ…」

「あ、これ?」

「るって、え⁈」

「綺麗でしたね。」

「そうだな。技術ってすげえ進歩してんだな!」

「また、弥生さんに取られた!」

うわ~ん。うわ~ん!

「来年こそは、花火二人きれで見ようね。弥生さん抜きで!」


ぷんぷんと怒りをぶちまけて、大漁まつりは帰って行った。


「帰っちゃいましたね。」

「また来るかもな。」

「言ったでしょ。来年はありませんよ。」

「そうだっけ。」

いくつかの疑問と心配ともやもやが残る中、碧祭は無事に終わった。


「浴衣姿、好きなんですか?」

「あんまり考えなかったことなかったけど…」

「今度着てあげますね。」

「弥生さんなら、何でも似合うんじゃない?」

「そういうこと他の人に言うと、また私のヤンデレが炸裂しますよ?」

「自覚あんのかよ!」


他の人には、言わねえよ。








花火って綺麗ですよね。



うん。綺麗。


以上、『大漁まつりは愛しの兄さんと花火が見たい。』でした。

べ、別にいうことがなくなったわけではないですからねっ!!浸りたかっただけです。

それでは。

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