希少な起床
8月。太陽が燦々と照り付け、蝉の鳴き声はその太陽の暑さに拍車をかける。町の人々を見れば家族でキャンプに行ったり、恋人同士で海に行ったり、いかにも夏を楽しんでいるようだった。
さて、そんな俺は今何しているかというと、絶賛金縛り中である。何を言っているのか分からない人のためにやさしく伝えると、つまり両手両足が何かによって押さえつけられ、身動きが取れないのである。
しかも、少し息苦しい。昨日はこんなことなかったんだけどなあ。いったん落ち着いて考えよう。
「あの、起きて―。起きろってぇ!」
え、何?金縛りって声も聞こえるの?初めてのことでよく分からない。もし、慣れている人がいたらアドバイスを求めたい。とりあえず、この状況をよく知るために、目だけは開けたい。でも、グロテスクな感じだったらもう二度と目が開けられなくなるよなぁ。ちびっちゃうぜ。こういう時ってどうすればいいのかな。少ない脳に刻まれた記憶を頼りにする。うーん。
「はやく、起きろって~朝ごはん食っちゃうぞ~」
この声は!女の子か?しかも、この声の高さ…中学生だな。
うわ~女子中学生の幽霊とか怖すぎるよ~。あ、そうだ。確か、幽霊って下品なことに弱かったような。仕方ない、やるしかないようだ。変なところに変なタイミングでスイッチが入る男子大学生がここにいた。
「おっぱい、揉んでやるぞこのやろー!」
「きゃあ!」
勢いよく目を開けると同時に、両手の枷がほどけ、ここぞとばかりに手を伸ばす。
誤解されると困るので、神に誓って言わせてもらう。俺は中学生に興味はない。
そこにあった景色は、決して幽霊案件のそれでは全くなく、完全に3次元で起こった事件だった。
「な、なぜ妹のおっぱいを触る!」
彼女の名は和泉皐生。
「な、なぜ勘違いしそうなことを言う!俺はお前の兄じゃない!」
向かいの中学校の3年生で、俺の恋人の妹だ。
「そこを問題視しているお義兄ちゃんの方が問題だよ!」
「これは、事故だ!」
「いいえ、懸案事項リストに載せさせていただきます。」
「それに、悩むことじゃないだろ。」
「まあ確かにそうなんですけど。」
「あ、肯定しちゃうんだ。」
「たぶん、クラスの女の子をみんな校庭にだして、おっぱい計ったら、私が一番だと思うし。」
何で校庭に出す必要があるんだよ!
現に、若干呼吸がしづらかったのはおっぱいのせいかもしれない。
「そう、つまり私は、クラスのおっぱいの皇帝なのだ!」
「あーそう。シーザーなのか。」
「そう、シーザードレッシングなのだ!」
「いや、シーザー違いだよ!」
俺以上の馬鹿がここにいた。
「というか、和泉妹よ。」
「何でしょうか?」
「何で服着てないの?」
「そりゃ夏だから」
「そっか~夏だもんなって、こら!」
ポカっと頭を殴った。漢字で書くと怖さが出てしまう。
「いたーい!何すんのお義兄ちゃん!」
「中学生の女の子が、裸のまんまで男の人の部屋に入っていいわけないだろ!」
「あれ、もしかして欲情しちゃった?浴場まで、連れていこうかと思っちゃった?」
「そんなこと思うか!いいから、さっさと服着ろ!」
「はいはーい分かったよ。」
ようやく部屋から出た和泉妹。時刻は7時半を過ぎた。