惑星《白》王のいない玉座
宇宙への大航海時代の到来は、突然の爆発のようだった。
蒸気がまきや石炭から石油で作られるように移行し、原子力発電所が生まれた時より、蝋燭からランプになり、ガス燈が街を彩り、瞬く間に電飾で飾られ出した時よりも、爆ぜる種が戻らないように、宇宙へ飛び出して行ったのだ。
無駄の多い地球上や太陽からのエネルギーに、見切りをつけた人類は、もっと小さく軽い物に目をつけたのだ。
宇宙の空間を埋めている物質だ。
ほんのりと芳香を感じるので、キャンディと、呼ばれている。
実際は、長ったらしい学実的な名前が付けられていたが、誰もそんな名前で呼ばなかった。
その細かさは、電子顕微鏡の外側に存在する、超ミクロ物質の世界を、捕らえることに成功した事の証しだった。
それは科学に存在証明を与えられていた、元素記号を覆す、アンドロイド・アイ・顕微鏡、別名オッドアイの発明からの発見であった。
現行の人が覗くだけの顕微鏡から、オッドアイは、考査し探査が出来た。
素朴な質問『もっと小さな物が見たいんだけど。』に、オッドアイは応えたのだ。
その物質を捕らえる『網の目』の大きさを、指定してきた。
その『網の目』は、未知の領域を露見させた。
オッドアイで見ると、人体でさえ、不安な程、スカスカだったのだ。
そしてオッドアイは、膨大な宇宙空間への、羅針盤にもなったのだった。
全ての小さき物が、全ての大きな物につながったのだった。
そして、キャンディが見つかった。
極小のその物質はエネルギーを取り込むと、宇宙を駆け回るパワーを生み出した。
母星から飛び出すのにも、宇宙ステーションから地表一万メートルまで、ワームラインを引いたので、問題はない。
ワームラインは、中空の長いホースだ。
その中には、キャンディが程よくあふれ、宇宙ステーションまで、滑るように運んでくれるのだ。
簡単に言えば、一万メートル上空のワームラインに入れば、そこはもう宇宙なのだ。
この重力からの早期離脱が、薄く軽い宇宙船を可能にしていた。
信じられるだろうか。
月探査計画が始まった頃の船が、神話の巨人が金槌で叩き出した物なら、現在の船は丈夫な千代紙で作られた、折り鶴のような物なのだ。
キャンディにエネルギーを備蓄して、画期的に伸びた推進力と、放射線遮断や断熱効果のある塗料としてもキャンディを使い、宇宙ステーションから、人類は外宇宙への調査に向かったのだった。
それが10年前。
粘っこい宇宙空間にぶつかったのは、その年の始めだった。
粘るとは、船の速度を落とす物質が多く含まれていたからだ。
宇宙膨張説では、証明出来ない現象だ。
人類のいる宇宙空間は、サラッとしていたのだ。
粘る物質の調査が、始まった。
その中の一番近い銀河に宇宙船、第七箒星号がついたのは、もう晩秋の頃だった。
青黒い空間にその銀河は、白と黄色のモヤを渦巻きにして、自分を飾っていた。
これまで、遺跡のような人工物の跡は発見できたが、人類は未だ地球外の知的生命体との遭遇を、果たしてはいなかった。
ボンヤリした恒星の周りを、幾つかの惑星が回っている。
それらを《白の太陽系》と名付け、観察が始まった。
着陸可能な惑星を発見し、じっくりとオッドアイが調べる。
その間は、必要最低限の人数以外は、人工冬眠していた。
彼らは、最初に外に飛び出していくので、地球連邦軍でありながら、海賊でもあった。
そこは単純に《白の5番惑星》と、仮に呼ばれていた。
416日、この星の1年間の観察を経て、オッドアイは、彼らを全員起こした。
白の太陽系と粘る宇宙物質を調べる為、船に残る者と、この惑星に降り立つ者とに、別れての探査が始まった。
安全を考慮して、極に近い寒冷地に、彼らは降り立った。
サラサラとした万年雪の山脈が連なり、太陽は1日3時間しか出ない季節だった。
雪を避けて、移動するここの生き物たちに遭遇しづらいだろう。
探査に無駄な危険はいらない。
オッドアイは、人工物の緯度経度を報せてきていた。
キャンディの力で浮く、八角形の盤で、地表30センチを滑るように移動出来る、1人乗りのホバークラフトを移動に使った。
保護服自体が宇宙船の外皮と同じで、何の不備もなかったが、ガードを開けて空気を吸えるのは、やっぱり気持ちの良いものだ。
やがてオッドアイの示した座標に、3人はついた。
雪と氷の城が目の前に現れたが、測定器は、その高さを三千メートルと、はじき出した。
彼らは、ウエディングケーキにたかる蝿だった。
送られてきたデータで、オッドアイが入り口を探し出して報せてきた。
もう1つ、生命の有無も。
それでも、何らかの機械的な物が、侵入者に反応するかもしれない。
焼き切った重いドアは、空虚に響いて、下に落ちていった。
広間も、長い階段も文明の痕跡を現していたが、そこで動くものはなかった。
広大な遺跡だったのだ。
城には、石で造られた玉座らしき物があったが、植物から作られた物はことごとく朽ちていて、テーブルや椅子らしき物でさえ、ハラハラと花弁のように崩れ朽ちていってしまっていた。
そこから、体長3メートル以上の巨人の姿が想像できた。
金属でさえ、あちこち侵食されていて、石から削り出されてた物が、この城を支えていた。
壁に掲げられたタペストリーには、この文明の歴史が織られていたのだろうか。
繊維のほつれと腐った色が、全てを溶かしていた。
これといった装飾も無く、多分植物で作られていたであろう日用品も、泥炭になっていた。
この城を造った知的生命体は、建物と扉と階段と窓だったろう穴を残し、時間の彼方に消えていってしまっていた。
その大きさに、ひと月を費やし探査したが、何の手がかりも得られなかった。
人類がたどり着く前に、この星の文明は、何処かに消えてしまっていたのだ。
単にここだけの話ではない。
探しても探しても、人類の前に知的生命体は、現れなかったのだ。
城の調査も終わりがけ、外に先に出た倶尸羅秀近は、動くものを見た。
こんな万年雪に閉ざされた場所に、この星の生命体が、いたのだ。
単純な作業の明け暮れに嫌気がさしていたし、好奇心が勝った。
オッドアイに連絡を取りながらも、身体は岩と雪の中に、飛び込んでいった。
白い長い毛が走っている。
落ちかけた薄い色の太陽が、それをキラキラと光らせているのがわかる。
長い細い毛の中に、鱗がびっしり生えているのだ。
後ろ姿を追うと、洞窟の入り口が出た。
センサーは、そこを指している。
班長の篠田圭が、待つように指示してきたが、はやる気持ちは止められない。
なんていっても、やっぱり冒険はワクワクするのだ。
それでも、規定違反で、船に監禁されては、元も子もない。
仕方なく、仲間の到着を待つ。
倶尸羅が破天荒なわけではないが、誰もいない朽ちた城を歩き回るのに飽き飽きしていたのは仕方ない事だ。
ようやく、篠田と南雲比呂司が、やってきた。
「眼が良いな、俺だって側にいたのにな。」
南雲が肩を小突いて来た。
「褒めちゃ駄目よ。
規律違反、ギリギリだって、オッドアイが心配してたわよ。」
「まあ、そんなに離れてはいなかったから、大丈夫だよ。
班長、これが俺の見たものだ。」
モニターに、さっきの動物の姿を映す。
「うーん、かなり大きいな。
この体を維持するなら、捕食動物なんじゃないか。」
「南雲くん、肉食獣より草食獣の方が断然体は大きいのが多いわよ。
身体の大きさでの、判断は早急すぎない。」
南雲は、チェッと悪態をついた。
「これをオッドアイに送ったから、返事を待ちましょう。」
オッドアイは、探索の許可を出してきた。
「倶尸羅君、行くわよ。」
この班は、冷静沈着な篠田が、班長だ。
オッドアイは、必ず女1人に男2人のチームをつくらせる。
作戦の進行の妨げになる暴走を止めるためだ。
単に女性体の方が生存確率が高いというデーターもあったが。
はやる気持ちを抑えながら、洞窟に3人は入っていった。
ゾワッとするほど、中は広い。
その上、あちこちに紋様が彫られていた。
壁も天井も床みたいで、装飾品は朽ちているあの城より、よっぽど、華やかだった。
所々、彩色の名残もある。
3人は、撮影に夢中になっていった。
オッドアイが、船への帰還時間が迫っているのを報せてきた。
ここは、日没後、吹雪が襲ってくる季節なのだ。
流石の船外用保護服でも、限界がある。
船の母、オッドアイを心配させない為にも、明日に調査を伸ばし、帰還する事になった。
山にぶち当たる風の音が、西から聞こえ出していた。
3人はガードを下ろし、洞窟の入り口に急いだ。
倶尸羅は、2人よりほんの少しガードを下すのが、遅かったので、匂いを嗅いでいた。
先を急ぐ2人の背中を見ながら、気が散っていた。
ホバークラフトの先端をランダムな岩の一部に当ててしまった。
「倶尸羅君、大丈夫。」
「平気です、班長。
怪我はありません。」
「倶尸羅、急ぐぞ。
風の音が尋常じゃねぇ。」
南雲の声をかき消す、風の楽団のラッパが高らかに鳴り響く。
何処か、岩山の狭い場所を吹き抜けているのだろう。
倶尸羅のホバークラフトは、ほんの少し遅れだしていた。
3人が入り口に着き、外に飛び出した時には、全員いたはずが、船にたどり着いたのは、2人だった。
オッドアイは、素早く扉を閉め、安全な場所まで、有無を言わさず、着陸船を移動させたのだった。
生存確率を上げる事が最優先される。
篠田班長には、慰めにしかならないだろうが、倶尸羅の生命バイタルは、生存をオッドアイに知らせてきていた。
避難した場所にも、嵐は襲ってくる。
泣きじゃくる班長を慰めながら、南雲も待つしかない自分を、責めていた。
惑星《白》の嵐は、凄まじかった。
ましてや、極に近い山岳地帯である。
遅れた事に、倶尸羅が気づいた時には、2人は風と吹き上げられた雪の中に消えていた。
ホバークラフトは、益々遅れだした。
倶尸羅は、踵を返し洞窟に向かった。
とても、第7箒星号の着陸調査船には、たどり着けそうもない。
生きていれば、倶尸羅の体温と呼吸数と心拍数がオッドアイに届く。
届けば、オッドアイは、必ず助けに来てくれるのだ。
洞窟の入り口を入ってすぐ、ホバークラフトは、静かに停止した。
前面下のセンサーの不具合で、自走を止めたのだ。
そこにホバークラフトを置いたまま、両肩のライトを頼りに、倶尸羅は、歩き出した。
ゴロゴロした石や行く手を遮る石の柱を迂回しながら、あの匂いのした方に向かっていた。
体温を維持する為、ガードは匂いを探る時以外、開けなかったが、その匂いは、段々強くなっていった。
歩く、という事をしていなかったので、気づかなかったが、倶尸羅の足の下は、確かに道だったのだ。
ライトの先に、あの白い毛が引っかかっていた。
ガードを上げて嗅ぐと、この匂いだ。
その時、物凄い嵐の楽団が、洞窟の入り口で、大太鼓とシンバルを鳴らした。
あのまま入り口にいれば、吹き飛ばされて、壁に投げつけられていただろう。
嵐の楽団と洞窟の中の厚い空気の層との闘いが始まっていた。
倶尸羅のいる場所は、直接的な被害は無いが、洞窟の気温が下がり始めていた。
嵐は、寒気を身にまとっているのだ。
風からの恐怖は、逃げられたようだが、下がっていく気温は、ジワジワと倶尸羅を追い詰めていった。
あの白い毛の元に、倶尸羅は急いだが、洞窟の中深く、それは隠れているようだ。
オッドアイは、倶尸羅の体温の低下に、気がついていなかった。
それは、倶尸羅が洞窟を歩いていて、何回か転んり、つまづいて何処かかしらをぶつけていたせいで、エラーが生じていたからだった。
わかっていても、船から出る事は出来ない。
嵐は1週間続いた。
篠田と南雲は、オッドアイが倶尸羅が、生存しているというのを、信じるしかなかった。
その頃、倶尸羅は、暖かい袋に入って、甘い乳を飲んでいた。
嵐に閉じ込められ、匂いを頼りに洞窟をさまよっていた倶尸羅は、急激な気温の低下で、低温症を、起こしていた。
保護服の限界を超えた冷気が、ジワジワと倶尸羅を追い詰めている。
動かなくなった足。
感覚が途絶えた手。
朦朧としたまま、倶尸羅は、ガードを開けたまま、その場に崩れ落ちた。
へたり込んだ倶尸羅は、脱水症状も起こしていた。
彼の身体は、急激な体温低下についていけず、暑いと判断した。
暑いのだ。
この喉の渇きも、手足の不調も、暑いからなのだと。
倶尸羅は、動き辛い手をどうにか動かした。
冷気の痛みを暑さと勘違いしながら。
アンダーウェアだけの姿になった倶尸羅は、立ち上がり、歩くこうとしたが、その体力は残っていなかった。
気を失いながら、彼はサラサラした長い毛が、身体を包むのを感じていた。
ほんのり明るい不思議な柔らかさに包まれながら、倶尸羅は目覚めた。
すぐ横に白い短い毛とウロコの生き物がいた。
ウロコと毛が一緒に生えた生き物は、目のあるらしき場所から、少し下で何かをくわえている。
口だ。
その口が、時々動き何かを飲んでいた。
吸っている音と飲み込む音が聞こえる。
丸まって寝ている倶尸羅の顎の辺りが、じんわりと湿っていた。
細長い突起物の先から何かが出ている。
しびれている手で、それにさわると、暖かい。
この薄ぼんやりした場所自体、暖かい。
恐る恐る舐めると、甘い。
口に含むと、甘い蜜が溢れ出した。
それから、倶尸羅は乳をくわえて、過ごしていた。
水分が戻ってくると頭がはっきりし出したが、ここから出る気持ちにはならなかった。
甘い乳と柔らかなゆりかごに揺られて、倶尸羅の傷ついた身体は癒されていった。
隣で乳を飲む白い毛の生き物も、目をつむったままで、乳を飲み眠っているようだった。
倶尸羅は夢を見た。
あの朽ちた城だ。
色とりどりの花が飾られ、羽ばたく昆虫がまとわりつき、天井から吊るされた長い繊維が発光している。
あらゆる物が植物から作られてる中、玉座は、岩をくり抜き作られていた。
何枚もの敷物が、玉座を飾り、その華やかさは、夢ならではの極彩色に彩らていた。
やがて、王が歩いてきた。
倶尸羅は、アンダーウェアの自分を恥じた。
そばにいた少女が、肩からマントを外し、倶尸羅にかけてくれた。
お礼を言い、頭を下げてあげると、少女は、別のマントを身につけていた。
王は寛大だった。
頭の中を覗かれては、嘘はつけない。
王は、倶尸羅に自分の頭の中を歩かせた。
この文明の成り立ちや人々の暮らしが、生き生きと再現され出した。
あの白い毛の生え生き物もいるし、見たことのない生き物も沢山いた。
彼らは、頭で繋がって、ひとつの生き物のように考え、動いた。
1年の3ヶ月間だけの春と夏と秋で残りは冬のこの場所でも、何の争いも飢えもなく、淡々と年月は過ぎていった。
彼らの寿命は、恐ろしく長かった。
次の世代が産まれづらくなってきても、絶えることはなかった。
あの白い毛の生き物は、ここの寒冷期を乗り切る為の乳母であり、乳母車だったのだ。
小さな子供を守る生きた避難所だったのだった。
いよいよ子供が産まれなくなると、城の外で自由に暮らす事をゆるされた。
やがて、王の決断がくだった。
王は民の為に存在している。
民の願いは、最後のひとりにならない事。
城にいるすべての貴族、兵士、農民、鍛冶屋、木工職人など、残らず、王はそのマントの中に包み込んだ。
時間の存在しない空間に、民と共に、王は入っていったのだ。
決して誰も、最後のひとりにはならない、眠りの世界に。
ここの洞窟の壁のレリーフにも、この話が描かれていた事に気がついた。
折りたたまれ消えた、歴史がそこにあった。
文明の終焉を垣間見たのだ。
倶尸羅は、甘い乳と柔らかで暖かい白い毛の生き物に守られながら、あの嵐の中を生きていた。
彼女は、有袋類で、腹の袋で子育てをする。
隣にいるのは、彼女の息子だった。
限界まで気温が下がると、長い白い毛を中に巻き込み、ウロコが立ち上がり、身体の表面を覆い、お腹の袋の入り口も閉じる。
全身をウロコで守り、安全な場所で丸まって、こういった嵐をやり過ごすのだ。
全身を冷気の槍で痛めつけられていた倶尸羅も、やがて眼を開けた。
腹の底に響いていた嵐の楽団が、次に向かったのがわかった。
3つの心臓の音が、心地よい。
短い白い毛の生き物が眼を開けた。
白目の無い、オリーブの実のような色をしている。
そして、又眼を閉じ、乳の世界に帰っていった。
倶尸羅は、乳を離した。
それを感じて、袋の入り口が開いた。
冷気が流れ込み、そちらを思わず見ると、倶尸羅の保護服が、隙間から見える。
傷つけないように、そっと這い出すと、思わず寒さに震えた。
保護服を着るのに時間がかかったが、どうにか、顔の前のガードだけになった。
白い毛の生き物は、のっそりと立ち上がると、洞窟の奥に行ってしまった。
彼女がいるだけで、明るかったのだ。
洞窟の闇が全てを支配する前に、倶尸羅は肩の2つのライトをつけたが、1つは壊れていた。
洞窟の地図が頭に浮かぶので、迷う事はない。
あの生き物に心の中でお礼を言ったが、赤ちゃんという、イメージだけが帰ってきた。
赤ちゃんは、立って歩けるなら、歩かなければならないのだ。
倶尸羅は、しっかりした足取りで、洞窟の入り口にたどり着いた。
センサーで探したホバークラフトは、ブブブと、雪の下で応えた。
サラッとした雪のなかから掘り起こすと、エラーを起こしてる場所が、わかった。
壊れていたわけではなく、外れていただけなのだ。
あの嵐の中では、調べようがなかったが、今は、日も射し眩しいほどだ。
はめ込んでやると、その場に浮いた。
移動手段が出来たので、倶尸羅は着陸調査船に、向かった。
保護服のエラーも自動的に修正されている。
出発時より、南にずれてはいたが、船にたどり着いた時の喜びは、捜索隊として準備していた、船の皆の歓声で、忘れられないものになった。
オッドアイは、我が子の帰還に打ち震えた。
倶尸羅は、えもいわれぬ不思議な臭いをさせていたので、バイタル検査の前に、シャワーに叩き込まれた。
オッドアイは、隅々まで、倶尸羅を観察し、身体についた物や臭いの元を探った。
そして、第7箒星号のすべての乗組員は、倶尸羅の体験を共有したのだ。
この星には、もう文明と言うものは、存在しないと、オッドアイは定義付けた。
ただし、愛はあふれてると。
粘る宇宙物質の探査は始まったばかりだが、オッドアイと第7箒星号の乗組員は、その謎を解き明かすだろう。
白の第5番惑星を、拠点に彼らは探査を続ける。
いつか、知的生命体との遭遇を目指して。
倶尸羅は、時々王の座っていない、あの玉座を夢に見る。
そして、乳の味と暖かさを。
南雲に臭い、と、言われたが、倶尸羅には、蜜を探すミツバチの喜びがわかるほど、優しく甘い芳香だったのだった。
今は、ここまで。




