良心の呵責
『アナタが膨らんだ風船に針を刺す必要はない』
今でも『あの日』投げかけられたセリフを私は忘れてはいない
賑やかな街の中やブラウン管越しに存在する膨らんだ風船を見ると
記憶と共に視界は確実に戻れない時へと私を連れ戻してくれる。
有り難迷惑なこの特技に、当時は幾ら悩んだことか
瞳の奥に広がる暗闇の中に、確かに映る『あの日』の現実。
頭の中のソレを視る度に、幾度と無く、今存在するこのカラダを不毛な過去へ受け渡してきた事か…
この乖離を苦しみと感じ得て要られた時期は何処えやら…
苦しみ続けた先に光を欲していたこの両手さえも、確かに感じられていた筈の痛みの感覚も
日増しに麻痺していった事に気が付いた。
気が付いた時には、アメ玉を入れると同時にポケットの奥へとしまい込んでいた。
仮面を被ったダレかがしたり顔で喚いていた真っ当な苦痛とやらが、とうの昔に消え失せていった事さえ解れば
私は早々に見知らぬ雑居ビルの非常階段を駆け上がり
天を仰ぎ渇いた笑いと共に、泣いた。
恐らく『その日』は青空が広がっていた天気の良い日だったのだろう
鳥は、それは気持ち良さそうにこれでもかと自慢気な程に高く伸びやかに羽根を広げ飛んでいた。
私は鳥を確かに物体としてこの目に捉える事が出来たのに、
この目に映る筈の青い空の色は私にとって関係の無い色へと変化していた。
こんな『膨らんだ風船』等と言ったモノ 厄介な記憶と思ってしまえばそれきりの話しで
手放そうと思えばとるに足らない、只の暖かさを連想させるだけの言葉でと、終わる。
この何とも単純過ぎる陽気な言葉を、ひたすら私自身が解放させない、…しない。
何故なら膨らんだ風船の成す言葉の意味は
私を生かし続けてくれる原動力へと既に変化してしまっているのだから…
人は誰しも狂った優しさと物憂げな寂しさ、ほんの少しの冷酷さでこの世の膨らんだ風船をいとも簡単に破裂させる事が出来る。
風船は破裂する時、人が何とも恐れる音をばら撒く。
当たり前に、風船は破裂してしまうと二度と元には戻らない。
破裂の恐怖に覚悟も無いダレかが。
今日もダレかが、明日もダレかが。
ダレかは風船を破ろうとしてしまう。
『膨らんだ風船は自ずと破裂してしまう物なのよ』
そう伝えて笑う私の空にはもう、青空が戻っている。