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宝の地図に誘われて  作者: 村正ヒロ
3/3

第一の町セラム

遅れました。ごめんなさい。

前述したように一人称になります。

不慣れですが、読んでもらえるとうれしいです。

町の入口というには少し狭く、少し貧相なそれをくぐると不意に声をかけられた。


「こっちから人とは珍しいなぁ」


「……っ!」


ふいに声をかけてきたそいつは柱の裏にもたれ掛って町の外から見えない位置にいた。

人を一人隠すぐらいには入口の柱は立派だった。

そいつは中年ぐらいの男で、動きやすそうな軽装をしていて、それは俺とは違い気候に適した服だった。

ナルに矢を向けられたときは情けない反応をしてしまったが、今度はただの中年のおっさんときた。

顔も見えているし、物騒な武器の類いも構えてもいない。

少し驚いてしまったがあの時に比べれればこんなおっさんはどうってことはない。

軽装の男は値踏みをするように俺を下から上まで眺め、

顎にわずかに蓄えられた髭を撫でながら問いかけてくる。


「異国人か……その様子じゃあ、この国の金持ってねえだろ?」


「あぁ、確かにそうだ、しかし何故そう思った?」


勝手に勘違いしてくれるのはありがたい。

まだ、こちらに来たばかりで、ナル曰く『異世界』の情報を多くは知らないから、

自分から話を広げていくことはできない。

下手にばれると、どうなるかはわからないが無為に言いふらすことでもないだろう。

故に他人の話題提供を待ち、違和感を感じさせないように話を合わせる形になる。

その点で、不意ではあったがこの機会はありがたい。


「一番はその格好だな。にいちゃん自身もわかってると思うが気候に合ってねぇし、

そんな格好はここらへんじゃまず見ねぇ。それと…なんだそのもこもこした座布団みてえなやつは」


男は暑くて脱いでしまったそこそこ高い俺のダウンジャケットを指さし笑う。


「……俺のもといた国…というより村だが少し寒さが厳しい、加えて俺は寒がりなんだ。

無論この国にも初めて来たから、この国の通貨も持っていない。

こんな『もこもこした俺』に金でも恵んでくれるのか、おっさん?」


咄嗟に嘘を見繕ったが筋は通っているはずだ。

すると男は一瞬は目を丸くし、先ほどよりも大きな笑い声を響かせた。


「ははっ、こんな生意気な坊主、王都であるセラムでもそうはいないぞ。

中途半端に生意気なら一発殴って立場ってもんを教えてやれたが、

なかなかどうして肝の据わった坊主だ。いいだろこれは餞別だ。もらってけ」


そういって男は腰に下げた小袋から数枚の銅貨をとりだしてこちらに放る。

大した金額ではないのかもしれないが、無一文より少しでも持ってる方が心強い。

しかし、通りすがりの名前も知らない他人におっさんが餞別というのもおかしな話だ。


「いいのか?金はないから遠慮なくもらっていくぞ?」


「ああ、勝手に持ってけ。俺はここの門を通る奴の検問をするために暇してたんだ。

なかなかおもしろかったぜ」


「それはよかった。もっとくれてもよかったけどな」


それだけ言って、俺は止めた、ではなく止められた足を再び動かし、男を背に歩き出す。

何が面白いのか通り過ぎた後も男一人で「そうか…寒いところか」と愉快そうな声を上げている。

ありもしない寒冷の地に思いを馳せているのかもしれないが、そんなことはどうでもいい。

だれとも知らないおっさんにいつまでも時間を使ってもいいと思えるほど物好きではないし、ましては男色家でもない。

そうでなくともこれからこの町について色々と調べなきゃいけない。

知らないことほど不安なことはない。

人のこと良くを知らなければ、いいように使われるかもしれない。

物の相場を知らなければ、騙され必要以上に金を失うかもしれない。

文化の違いを知らなければ、不自然な行動をとってしまい、不用意に行動することさえできない。

それが今まで生きてきた世界とは全く異なる世界だったとしたら尚更だろう。

故にまずそれなりの時間を情報収集に割くことになる。

しかも太陽は頂からわずかに傾き始めている。

この世界には帰って、心身ともに休める家は当然ないので、宿も探さなければいけない。


「前途多難だな…」


思わず声に出してしまったがそれほど悲観しているわけでもない。

むしろ今の状況を諸手を挙げて迎え入れているつもりだ。

とはいえどれだけ心の持ちようが変わろうと

時間までは変わるはずがなく、

日中の長さがどれくらいかわからないし、急いだ方がいいだろう。


男と別れしばらく暗い石畳の道を歩いていた。

ここら一帯は住宅地が密集しているようで道の両脇には大きくない家が所狭しと並んでいて、

さらに家の合間を縫うように小さい小道が走っている。

その家は日本でよく見かける、瓦が敷き詰められた屋根で木造の家でも、鉄筋やコンクリートを基盤とし、合成樹皮が壁となしている新築の家でもなかった。

重みと建設のたどたどしさを感じさせる、それなりの高さを持つ石造りの家だった。

ちらほらと煉瓦で組まれた家もあるが、素材の違いだけで基本的に構造は同じのようだ。

敷地の面積は狭いが大抵の家は二階まであるようだった。

まぁ、そのせいで歩く道は暗いのだが。

俺は歩きながらも周りに耳を澄ましているが、

聴こえてくる音は前方にあるであろう大通りから漏れてくる喧騒だけで住宅街は静かなものだ。

まだ昼間ということもあって出稼ぎに出てるのかもしれない。

それを差し引いてもここらは静かすぎる気がするが。

周りの様子を考察しながら歩いていると、突然目の前の小道から小さい影が飛び出した。

俺はそれを紙一重で避けるとその影は痛々しい音を立てて石壁にぶつかった。


「いっっ!!」


突然の出来事も立て続けに三度も起こればさすがになれた。

今のは偶然ぶつかりそうになったとかではなく明確な意思をもってぶつかりに来ていた。

俺の脇を駆け抜け、壁に激突したドジに俺は視線を向けた。

よく見るとまだ子供で目立つ赤髪をしている。

長く伸びたというより手を付けられていないぼさぼさの髪はくすみ、毛先は目に見えてわかるほどに痛んでいる。

使い古されたボロ布で仕立てられたノースリーブのワンピースを着た少女の出立ちは家庭が裕福ではないことを感じさせる。

痛みが落ち着いたのか鼻を手でこすりながらこちらに振り向き、

俺と目があった瞬間に痛みなど忘れ走り去ろうとするが、

そんなことを俺が許すはずがなく、

すばやくワンピースの襟をつかみ、少女の逃亡を阻む。


「ごめんなさい!!……どうしても…やれって…その…お父さんが…」


スリか…親にでも強制されたのだろう。

衝突による痛みなのか、この状況に対する恐れなのか、少女の目には涙が浮かんでいる。

泣くことでどうにかなると思っているのならそれは甘い考えだ。


「っっ……物をとることが出来なかったのは失敗したお前が悪い。

だが必死に生きようと行動できるならお前はまだ大丈夫だ。

次はないぞ…ほら、さっさと行け」


少女を泣かす趣味もないしそんな時間もない。

俺がそう言い、手を放すと少女は少しだけこちらを見て、すぐに来た方とは別の小道に走って行った。

異世界でもやはりこういったところは変わらないのか。

強い立場にあるものが弱い立場の者から搾り取る。

いつの時代もその関係は変わらない。

それは虐げられる側にも問題がある。

行動を起こそうとしなければ、問題の解決にはならないし、状況も変わらない。

その点、あの少女はまだましなほうだ。

意図せず情報が集まるのはいいが、さすがに引き止められすぎだな。

体感だがまだこっちに来てから三時間も経っていない。

にも拘らずこの様だ。

まるで今後を暗示しているようで先行きが不安になってきた。

そんな今の状況に不審を抱いていると、暗い道には明かりが差し、

俺が顔を上げると目の前には今通ってきた道の三倍はあろうかという大通りが広がっていた。

そこでは露店やら屋台やらのテントが脇に立てられ、腹の虫をつつくような匂いがそこらじゅうから漂っている。

多種多様な食べ物のにおいが通りに立ち込め、混ざり合い、ちょっとすごいことになっている。

それぞれの店主は思い思いに叫び、客寄せに精を出している。

もちろん大通りには食べ物を提供している店だけではなく自作と思われる衣服を、

用途はわからないが工具のようなもの、中には俺にとって目新しい占いなんてものをやっているところもあるようだ。

俺は見慣れない光景に興味と興奮を隠し切れず、

周りを観察する。


するとさらに驚くことが俺の好奇心を有頂天まで押し上げる。

少し気を抜けばぶつかってしまいそうな人ごみの中だが

その有象無象を押しのけるほどの存在感をもつものが人の流れの中に

混じっている。

人とは違い、頭の上に猫科を思わせる耳を生やしたもの。

ナルやリルと同じくピンと横に伸びる耳を持つもの。

腰のあたりから尻尾を生やしているもの。

爬虫類を思わせる堅牢な鱗を持つもの。

ナルとリルに会ったときはまだ半信半疑だったが、

今、確信した。

この世界が異世界であると、夢や幻ではないことを。

そんなことより。

ここで目視できる他種族全てと膝を突き合わせて五時間ずつほど語り合いたいが、

俺は逸る気持ちを抑え、当初の目的を思い出す。

時間が許す限り情報を集めること、宿をとること、この二つだ。

でも待てよ。情報を集めることは他種族との交流も含まれるんじゃないか?

と自問自答をしていると目の前に壁が立ちはだかった。

ん?壁ってなんだ?とまたもや自問して、自然に下がっていた顔を持ち上げると、

文字通り目の前には壁があった。


「おいどこ見てんだ。上だよ」


突然その壁は喋りだした。

我ながらバカなことを一瞬考えたなと思った。

見たことない種族がそこらじゅうを闊歩しているから

壁の一つや二つぐらい突然話し出しても可笑しくはないだろうと思ったが、

呼びかけられた声のもとを辿るためさらに顔の角度を上げていくと、

そこには壁ではなく俺となんら変わらない人間が立っていた。


「…でかい」


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