*そして、いつかのあの風景
それからベリルは、しばらく町を見て回ったあとメモに記された場所を訪れる。マークのいた町から車で小一時間ほどいった所にある高台に、そこはあった。
高台とは言ったが、あまり勾配のないこの国ではの話で、低い丘あたりが妥当かもしれない。
広大な敷地には、さほど大きくもない白い石版が整然と立ち並んでいる。その中に名家のものだろうか、巨大な十字架の石碑がいくつも点在していた。
そんな墓地の一角に、他とは違う雰囲気の石碑がまとまって並んでいた。本来ならば、書かれているはずの没年が記されていない。
そこにはただ質素に、生年と名前だけが刻まれていた。ざっと数えて三百はあるだろうか。それらを眺めながらゆっくりと歩みを進める。
陽はいっそう丘を紅に染めて、まばらにいた人影も家路へと急ぐ。そよぐ風が一人佇むベリルの柔らかな髪を揺らし、その存在感を際立たせた。
ふと、一つの石碑の前で立ち止まる。記されている名前に眉を寄せ、拳を強く握った。
「──ブルー」
目頭が熱くなる。しかし、涙は出なかった。代わりに、胸が締め付けられる感覚を覚え、吐き出せない苦しみに自分の胸ぐらを掴んだ。
微かに震える体は、今にも崩れそうに弱しく立ちつくす。
私がいなければ、彼らは死ぬ事は無かったのだろうか。あのとき、私がもっと強ければ一人でも救えたのだろうか。
過ぎ去った出来事を悔いるのは簡単だ。だが、それは彼らの望んだものじゃない。私がしなければならない事はそうじゃない。
ブルーは私を人類の理想だと言った。彼が考えていた事の全てをくみ取ることは難しい。
少なくとも、彼を失望させないようにしなくてはね。ベリルは、ブルーを思い起こして小さく笑った。
──いがみ合い、争い合う人類は彼の中で一つとなっている。それは、科学者たちの儚い夢だったのかもしれない。
「人種など、どうでもいいじゃないか」
ベルハースの笑い声が聞こえてくるようだった。その隣には、サイモンやランファシアたちも笑みを浮かべてこちらを見つめている。
「見るがいい。何の不具合も無く、全ての人種のDNAがここにまとまっているだろう?」
そんな言葉が脳裏に響く。
彼らが私をどのように見ていたのかは解らない。それが、ブルーと同じものならばいいと思った。
さすがの私も、多くを叶える事は出来んよ。冗談交じりに思って口の端を吊り上げた。
考えろ、考え続けろ。決して立ち止まるな──お前に目指すものがあるならば、立ち止まっている暇はない。
そう、自分に言い聞かせていた頃もあった。
「目指すものにたどり着く事は、出来ないだろうね」
ブルーの名を見つめ、空を仰いだその瞳は強い光を宿していた。
END
*最後までお付き合いくださり、ありがとうございます。
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
河野 る宇
※
彼が傭兵となった話は<素晴らしき傭兵>シリーズ
「たゆたう波の終わり」
彼が不死になった経緯は<素晴らしき傭兵>シリーズ
「Marvelous mercenary-マーヴェラス・マーセナリィ-」
襲撃を受けた理由の詳細は<素晴らしき傭兵>シリーズ
「あやつりの糸」
クローンのお話は<素晴らしき傭兵>シリーズ
「プログラミング・デス」
にて、それぞれ描いています。





