第一章 楽してお金が欲しいだけ
モデルは作者ですが、脚色してあります
働くってなめてた。お金を頂くってなめてた。客商売をなめてた。ただ19歳で客商売をはじめたことに酔っている。周りに酔っている。お客さんの言葉に傷付いて、先輩や上司の各々の仕事のやり方に振り回されて……。
スーパーや百貨店に入る催事屋をやっていた。某会社のフランチャイズ加盟店として。私の小さな小さな珍味屋さん。
「美味しいよ。おじさん。おばさん」
「お兄さん、カッコいいね、味見してってよ」
「君たち、部活動の帰りかい?味見してく?」
けど、気軽に話し掛けられたのは最初だけ。
対人恐怖症のような意味不明な発言。他人の目を見るだけで震えだす。川を見ると死にたくなる。
私は布団の中で天上ばかり見つめていた。
シミの数は13個だったかな。
あー挫折したんだ。転けたんだ。失敗したんだ。けど、生きてる。
不思議な安堵感に浸りながらひたすら寝続けた。
三つ寝ながら疑問が出た。
一つ、私に根本的に足りなかったものは?
二つ、なぜか感性を失うことに、それだけは絶対ダメ!!と天の声が絶叫。何で?
三つ、接客業は簡単なので良いから続けなさい。と天の声が諭す。イヤだよ。恐いよ。もう傷つきたくないよ。
実家の布団の中生活も一月半が経った頃、日野原早月は某コンビニで働きはじめた。
早月は天の声よりも確かな物に気づいていた。
人は繊細で物事は緻密なのだと。
もっとゆっくりでも良いから勉強する価値がある。
やっぱり学べるところは接客業なのだ。
そうして、早月の物語ははじまった。