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堕落した二人の男  作者: 岸原豊
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なぜ僕はやってしまったのだろう

「ちくしょう・・・・・・こんなはずじゃ、こんなはずじゃ無かったのに・・・」

とある住宅の室内で、僕は涙を流していた。目の前には、僕の友人が倒れている。

そして僕の右手には、血まみれのナイフがしっかりと握りこまれている。僕は体中の力が抜け、そのナイフを放した。ナイフは見事に床に刺さり、床にナイフから流れ込んだ血が付くのがわかる。

「一体どうして、どうして僕は殺しちまったんだ?」

自分のやったことを後悔すると同時に、僕はつい先ほどまでのことを思い出す。

それは本当に先ほどのことで、そう、1時間ほど前の話だ・・・。





1時間前


友人の生井海斗に呼び出されたのは、つい先程の話だ。

久々に自宅の電話が鳴り、僕はなにかなと思い電話にでる。

「もしもし、翔か?」

その声は、間違いなく海斗の声だった。昔よく遊んだっけ。僕と海斗は親友といってもいいほど仲が良かった。

「お前まさか、海斗か?」僕は一応確認してみる。

「何言ってんだよ。決まってるだろ。俺だよ。生井海斗」

「分かってるって」僕は笑いながら答えた。

「しかし、久しぶりだなー。元気だったか?翔」

「いや、俺はそんな・・・お前はどうなんだ?」

僕は実際、全くうまくいっていなかった。23歳の誕生日を迎えたものの、程なくして両親が両方とも他界、親戚も知る限りではおらず、今は両親が残した一軒家で過ごしている。まともな資格もなく、日雇いの肉体労働で生計を建てている状態で、まるでうまくいっている様子はない。

「俺はそうだな・・・多分、お前が思っているよりは充実していると思う、先日結婚したんだ。まだ子供はいないが、近々つくるつもりでもいる。大手企業に就職もできて、まさに学生時代、しっかり勉強しといてよかったって感じだよ」

それを聞いた瞬間、僕は複数のことに対してイラッとした。まず、僕が思っているより充実してると思うだって?それってつまり、僕が充実してないと思うからこそ言えるセリフなんじゃないか?まぁ、実際充実しているわけではないが。そして学生時代にしっかり勉強しといてよかっただって?ふざけるな。僕だってお前と同じくらい勉強して、同じくらいの点数だって取った。同じくらいのレベルの高校にだって行ったし、そこでもお前くらい頑張って勉強したんだ。それなのに、お前と僕はこれほどまでに差が付いた。

運に恵まれなかった僕を見下してるのか?

そう感じた。イライラしながら、受話器を握る。その手が震えるほど、僕は怒りを感じていた。

「そうか。俺だって今の生活は満足してる。親の家を引き継いでさ、悠々自適生活さ」

自分の境遇をポジティブに言うことで、少しは希望を持とうとしていた。それぐらいしか僕にできることはない。

「そうかぁ・・・お前も頑張ってるんだな、翔。嬉しいよ・・・」

嬉しい?何が嬉しいんだ?僕悠々自適生活をしているということが嬉しいのか?

「それで翔、話は本題に移るが」

本題?何か重要な用事でもあるのか?海斗とは昔仲が良かったが、今に至るほど話す用もなかった。

「なんだよ。まどろっこしいな。用事があるのなら最初から言ってくれよ」

「まぁ、割とどうでもいいことなんだが・・・、俺の働く企業から、ある取引を任されてさ」

「それが用なのか?僕には全く関係のないことじゃないか」

「ああ、そのはずなんだ。お前には全く関係がない。でもな、その取引の内容が、お前に関係あるんだよ」

どういうことだ?よくわからないな。俺に関係あるって?俺が何をしたんだ。

妙な汗が額から流れるのがわかった。そして聞く。

「僕に関係がある?僕はお前の企業とは何の関係もないし、その企業についても何も知らない」

「そうだろうな・・・でも、俺にもよくわからないんだ。お前に心当たりがあるかもしれないから、一応確認して欲しい。取引に使う資料にな、お前の名前があったんだよ」

「取引に使う資料?それって、取引するモノってことか?」

「ああ、そこにお前の名前があった」

ドキリ・・・とした。僕の名前が書いてあっただって?理解できない。意味がわからない。何だか怖い。

「それって、どういう内容だ?僕の名前が書いてあったって、一体何の資料に!?」

声が裏返った。それほどまでに僕は焦ってしまった。

「それがな・・・驚かずに聞いて欲しい。まぁ、驚かずにはいられないだろうが・・・・・・凶悪犯罪者の名前の欄だよ」

え?凶悪犯罪?むしろ意味がわからなさすぎて、逆に冷静を取り戻した。

なんだ、それなら大丈夫だ。おそらく、誰かが書き間違えたんだろう。俺に似た名前の人と間違えて。

実際、翔っていう名前はありふれている。それに苗字も少し似ていたんだ。もしくは同姓同名なんだろう。ビックリした。

「何かの間違いだろ」

「ああ、そう信じたい。だから会社で資料の確認をしているとき、俺は資料を作った人に聞いたんだ。‘この名前に間違いはないでしょうか?‘ってさ、するとその人はこういったんだ。「うん。間違いない」ってさ、そして俺はさらに聞いた。「もしかするとこの人は、23歳でしょうか?」って。するとその人は、「確信はないけど多分それぐらいじゃないかな。一応確認できるが、どうする?」と言った。俺はそれ以上は怖かったから、聞けなかった」

「その資料には、ただ名前が書かれていただけなんだな?」

僕はそう質問した。ほかに何か情報は書いていなかったか?そう聞いたつもりだった。

「ああ、名前と、あと、罪状かな?そんな感じのことが書かれている」

「なるほど、俺の名前のところは、なんと書かれていたんだ?」

「幼児暴行に監禁、そして殺害、それを数件・・・と書かれている」

まさにゾッとする内容だった。もちろん僕にはそんなことをした覚えはない。間違いなくない。それは僕自身が知っていることだ。

「とにかく・・・」海斗がまとめるように言った。

「俺の家に来てくれないか?少し詳しく話を聞きたいんだ・・・」

「え?」

その資料がウソか間違い、あるいは人違いな可能性は高いんだから、僕がわざわざ詳しい話をする必要はないと思うが・・・?もしかしたら海斗は、僕を、疑っているのか・・・?

「とにかく、今から来れないか?取引まで、対して時間もないし」

僕にも詳しく聞く必要はある。海斗の住所を聞いて、僕はそこに向かった。近くの駅から3つ分の駅の近くにあるようだ。


それにしても、どういうことなのだろう。同姓同名である可能性は高いし、海斗だって僕を信じてくれているはずだ。それなのに、なぜ・・・?

僕の心の中で、海斗に対する信頼がなくなってきていることが分かった。海斗だって僕を信じていないんだ。僕だって信じられるものか。


その時は、殺意、なんて持ってはいなかった。

そう、海斗がああいう、あの時までは・・・・・・






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