愛しいユキちゃん
『好きな人はいるんですか?』
『いませんよぉ。私はみんなのものでーす!!』
へっ、何がみんなのものでーす! だ。最近のアイドルなんてみんな同じ顔にしか見えないぜ。それに比べて俺のユキちゃんは本当にかわいいぜ、と俺はテレビから室内へと目を向けた。
「ねぇ、わかってるの? 今が一番大事な時なんだからね。しっかりしてよ。気を抜いちゃダメなんだからね」
「……」
「ねぇ、聞いてるの?」
「……ん? あぁ、聞いてるとも。しかし本当にかわいいやつだぜ。愛しいやつだぜ」
俺はユキちゃんを見つめながら言った。
「今日から私たちは人生の新たな一歩を踏み出すんだよ。だからけっして無駄遣いしないでね。あなたと私はもう、一蓮托生なんだからね」
「あぁ」
俺は、かわいくて愛しいユキちゃんを一生大事にする、けっして手放さない、と心に誓った。
『太陽銀行襲撃事件について新たな情報が入ってきました。今日午後5時頃、月山市の太陽銀行が銀行強盗に襲われ、現金1億円が盗まれた事件ですが、犯人は二人組とみられ、一人は身長180センチ前後、もう一方は160センチ前後とのことです。このことから男女二人組の可能性もあり……』
俺はテレビを消し、札束に向かってつぶやいた。
「ユキちゃん(福沢諭吉)愛しいユキちゃん……」