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予知夢  作者: 霧雨
2/2

後編

 思った通りだ。街は危険に溢れている。そう都会では無い単身赴任先なはずが裏を返せばこの有り様だ。遮断機の側にいる老人も押されれば一巻の終わり。道を歩いている通行人にだって車が突っ込んで来ない確証はどこにも存在しない。表通りは危険に満ち満ちている。裏通りなら人も少ないはずだ。

 直感的に判断し、裏通りに繋がる隙間を縫う様にして歩を進める。人混みは視界から消え去り、生ごみの腐食した様な臭いが漂っていても何ら異論の無い程に荒れた路地がその姿を見せた。ここなら人気も少ないし命を狙われる心配も無さそうだ。

 あの時見た夢……いや、既に現実と断言しても良いだろう。あの現実では俺が人間に刺されて死ぬ光景があった。他に人がいない以上殺される心配は無い。転んだ拍子に落ちていたナイフが誤って刺さるという話も、漫画やドラマの中の話だけだ。現に辺りを見回しても存在するのはパンの袋や紙の様な得体の知れない物体だけで、ナイフなんて物騒な物は何処にも落ちていない。

「おっさん。待てや」

「こんな場所に何の様やねん」

 建造物の陰から姿を見せたのは、身長が百八十近くもある金髪の少年二人だった。その手にはバットが握られている。だが俺の注意はもう一人の所持品に釘付けになった。

 銀色のナイフ。

 あまりにも似ていた。俺が刺されたナイフは銀色のナイフで柄が赤かった。少年の持つナイフも赤い。嫌な予感が走った。

「オレら、金無いわけ」

「少し分けてくんないかなぁ」

 バットを地面に叩き付けながら言う。冗談じゃ無い。家族の為に必死で稼いだ金を易々と渡す訳には行かない。

「今は通勤中なんだ。やめてくれ」

 凶器を持つ少年達を刺激しない様に言ったつもりだった。だが意に反して少年達は近くにあったごみ箱を蹴り倒した。汚いごみが辺りに散乱する。凄まじい威圧だった。

「痛い目に会いてぇ様だな」

 そう言ったのはナイフを持つ少年。ゆっくりと掲げられたナイフ。まさか刺すつもりなのだろうか。すぐに弁解しようとしたが恐怖で言葉が出なかった。声が出せない。少年が歩み寄って来る。腰が抜けていた。這う様に下がる。背中に何かが当たった。工事用の看板だった。これ以上後ろには下がれない。やめてくれ金なら胸ポケットに入っているから来るなやめろ声が出ないんだお願いだからナイフをしまってくれ恐怖で喋れないだけなんだ抵抗する気なんて無いだから金ならいくらでも出すから頼むから助けて。


 気が付くと、俺は直立していた。手にはナイフが握られている。一体どうなってしまったのだろう。何気無く下を向いてみる。

 血の海。

 足元には血が広がっていた。地面だけじゃ無い。スーツや靴にもべったりと大量の血液が付着していた。血小板の臭いが強烈な香水となって嗅覚を刺激する。それと同時に少年の変わり果てた姿に思わず嗚咽した。

 内臓。

 それはさながら地獄絵図だった。さっきまで俺を刺そうとしていた少年は臓器を引きずり出された死体と化していた。この場には俺しかいない。ナイフを離そうにも手に絡まった金髪がそれを許さなかった。

「な、何で……」

 左手を使い強引に毛髪を引き剥がす。べちゃっという音と共にナイフは地に落ちた。その時に気が付いたのは、俺が返り血を浴びた事だった。まるで寝ている人間を刺した時の様な模様にスーツが染まっていたのだ。

 少年の姿は見れなかった。あまりにも無惨な光景で吐き気すら覚えたのだ。血の臭いが体に染み付いていた。この状況で俺が殺していない事を証明する方が難しいだろう。あの予知夢は当たっていたのだ。この光景と夢は寸分の狂いも無い。間違っていない。

 ただ、殺す側と殺される側が違うだけ。

この夢は実話です。自分自身の問題から逃避する為の夢…この方はその傾向が人より強かっただけなのかもしれませんね…。

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