廃遊園地探検
カラーンカラーンと音が響く、だれも居ない遊園地で、廃墟の中から、ボロボロの着ぐるみが並ぶ展示室から。そんなうわさを聞き付けた、廃墟探検家、次郎。動画を撮影し、日々ブログへアップしている。今回のターゲットは廃墟となった遊園地『ファンタジア百合遊園地』。だれも居ないはずなのに、深夜に近くを通ると、何やら物音が聞こえるという情報リークがあった。
ネットで下調べをすると、やれホームレスが住み込んでるだの、傷んだ機材が風で軋んでいるだの。行ったことは無いが、決めつけるネット弁慶であふれている。
「フン。今に見ていろ」
車のエンジンをかけ、目的地である金山県へ向かう。金山県北沢市上北郡、集落一つをつぶして作った遊園地が、徐々にその姿を現してくる。大きな観覧車に、ジェットコースター。メリーゴーランドなど、遊園地にあるだろうという遊具は大体そろっている。
遊園地の駐車場には当然、一台も車は止まっておらず、広々とした場所で、白線を無視して斜めに止める。遊園地の入り口は鉄格子で封鎖されているが、通用門はただ鍵がかけてあるだけでピッキングもプロ並みの次郎を止めることは出来なかった。
遊園地に入り、カメラを回し始める。暗視モードのため、画像は若干緑がかっている。まずは一通り回ってみることにして、遊具を回り始める。回転木馬も、観覧車も、全てが止まった静かな遊園地はかなり不気味だった。だが、不気味なところに行くのは慣れている。この道でブログを書いて飯を食ってきた。今更、怖気づいたりしない。そう思っていた。
ひとつ、お土産屋の建物に入った。すると、ポップな音楽と共に歌が流れ始める。
「うおっ、電気通ってるのか」
一瞬怯むも、カメラを店内に向ける。商品は一切ない中、活気あふれる音楽が流れる。スピーカーの調子が悪いのか、時々ノイズが混じっていた。店内を見飽きた次郎は店を後にしようとした。
ガチャン
扉が、開かない。正確にはガタついているだけなのだが、少し焦る。ノイズの混じる陽気な音楽は、ホラーゲームなどでさんざん見てきた不気味な展開だ。そこに扉が開かないのは、恐怖をただただ加速させる。幸い、3分程格闘の末ガラス部分を近くにあった椅子で破壊して脱出した。
ガシャーン
ガラスの割れる音が鳴り響く、同時にブツっと音楽は止まった。
「はぁ、はぁ、何だったんだ?」
カウンターに置いたカメラを手に、店を脱出する。
カラーン、カラーン
鉄パイプのような音が反響する。正確な距離を耳で計ろうとするが、遊園地全体に響いているのか、距離は曖昧になる。そういえば来た道は、左右どっちだったか? あまりに店内で焦ったためド忘れしてしまった。
「まぁ、奥に進んだらそれも取れ高か」
諦めて左の道を選んだ。無意識に、あるいは音の主が、そうさせたかのように遊園地の奥につながる道だった。
進んでいるうちに、道案内の看板が出てくる。確認すると、確かに入り口から遠ざかっていた。カメラのバッテリーは約半分。替えのバッテリーは車の中だ。
「くそ、何で今日に限って忘れるかなぁ」
奥に奥に、進んでいく。ついに道の最奥にたどり着き、職員待機室と倉庫に突き当たった。結局、ネットで噂されていたホームレスなど居なかったのだ。
「なんだよつまんねぇの」
ぼやきながら職員待機室と、倉庫の鍵をピッキングする。鍵を開けるのに、10秒もかからない。
職員待機室は、特に面白い物は無かった。しいて言えば、自販機が撤去されていなかったのと、災害電源になっていて、無料でジュースが飲めたことくらいだ。返す刀で倉庫の中に入る。倉庫には風化寸前の、マスコットの着ぐるみが置いてあった。机の上に一体ずつ横に置かれており、まるで…
「まるで、遺体安置所じゃないか…」
次郎は気味悪がりながらマスコットをカメラに映す。どれもボロボロで、とても過去子供にウケていたとは思えない。実際、遊園地の評価はネットで低評価。子供が怖がっていたなどの、批判ばかりだった。ホームレスはいなかったが、着ぐるみが怖かったというのは、これで確信ができた。
カラーンカラーン
さっきより近くから音がする。倉庫の奥から、鳴っているようだ。鉄パイプを叩くような音、正体は…
「レコーダー?」
拍子抜け、なんとただのレコーダー。古いタイプで、カセットテープを挿入するレコーダーが電源着きっぱなしで鎮座していた。電源を切って、中身を取り出す。カセットには黒ペンで、”鳴き声・録音用”と書いてあった。鳴き声には到底聞こえなかったが、見るからにブリキで作られたような鳥が1匹横たわっていた。
「…こいつの鳴き声かよ」
鳥を一発蹴り上げ、金属だったので足を強打して痛みに悶えながら歩いた。どうにか車にたどり着き、ドアと鍵を閉め、エンジンをかける。カメラの録画を止めて、助手席に置いたその時、
カラーン、カラーン
あの音がした。さっきレコーダーの電源は切ったはずだし、カメラも電源は切れている。何より車の中に居るのに、その音ははっきりと聞こえた。慌ててアクセルを踏むが、エンジンの回転数だけ上がり、車は唸り声を上げる。
「どうなってんだよ! くそっ、動けよ!」
あの音は徐々に近づいてくる。焦りがどんどんつのる。よく見たらサイドブレーキを引いたままだ。サイドブレーキを下げると、車は勢いよく走り出した。
それからは寄り道をせず、ただひたすらに家を目指した。自宅ではなく、実家まで戻った。6時間かけて帰省した時には朝の9時になっていた。帰ってきた息子を見て、母親は驚いたが嬉しそうに出迎える。
「あらあんた! 久しぶりじゃないの連絡も寄越さないで! お父さーん! 次郎が、次郎よー!」
暖かく両親は出迎えてくれる。その晩、遊園地で起きた出来事を両親に打ち明け、次の日にはブログに投稿した。ブログはホラー界隈で一時期人気を博し、検索欄の上位に躍り出た。
それを嬉しく思いつつも、頭からはあの鉄パイプを叩くような音が離れることはなかった。




