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魂融合機兵ヴェスパー《HIVE-01》  作者: 昼ライス
Season 1 ~ヒーロー誕生~

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第6話 戦闘訓練

毎日20時投稿

ハイブ地下、訓練区画。


地上の夏のねばついた湿気とは切り離された、乾いた空気が広がっている。


天井は高く、格子状の照明が均一な白を落としていた。

壁面には衝撃吸収材が貼られ、床は無骨な強化プレートで覆われている。


空調の低い駆動音が、絶えず響いている。

わずかに、油と金属の匂い。


中央には、簡易的な模擬市街ブロックが組まれていた。


コンクリート壁のパネル。

街灯を模した柱。

車両を模したフレーム。


実戦の縮図。


悠真は、その中央に立っていた。


数メートル先には、黄色い二メートルの機体――ヴェスパーが静止している。

装甲は整備を終え、先日よりも傷が目立たない。


だが、完全に無傷ではない。


肩の塗装には、まだうっすらと焦げ跡が残っている。


「緊張しているか?」


上方の観測席から、直哉の声が落ちてきた。


悠真は、少しだけ考えてから答える。


「……してます」


嘘をついても仕方がない。


昨日、自分で決めた。

守る側に立つと。


だが、その決意と“実際に立つ”ことは別だ。


リゼリアが制御卓に立つ。


「本日は基礎訓練を行うわ」


静かな声。


「実戦は偶然の連続よ。けれど、その偶然だけに頼らないための準備を始めるわ」


視線が、まっすぐ向けられる。


「ヴェスパーと融合して」


悠真は、左腕のスマートウォッチに触れる。


黒い画面が淡く点灯する。


認証待機。


深く息を吸い、先ほど教えられたコードを唱える。


「……HEX CODE、要求します」


小さく告げる。


一瞬の沈黙。


『承認する』


リゼリアの声。


次の瞬間、足元に六角形の光が広がった。


淡い金色の幾何学模様が、床から立ち上がる。


光は音を立てない。

ただ静かに、空間の輪郭を歪ませる。


胸の奥が、ひとつ鳴る。


どくん。


機体の胸部コアが、微かに応答する。


どくん。


鼓動が重なる。


世界の音が、少し遠のく。


金色の光が、悠真の身体を包む。


熱はない。

痛みもない。


ただ、自分の輪郭が少しだけ溶けていく感覚。


視界が白に満ちる。


次の瞬間。


視界は、高く、広くなっていた。


HUDが立ち上がる。


【出力 42%】

【各部駆動正常】

【魔導コア安定】


指先に、金属の感覚。

足裏に、強化プレートの硬さ。


呼吸は、落ち着いている。


『操縦権限、移譲完了』


SARAの声が、内側で響く。


悠真は、ゆっくりと両手を開閉する。


金属の指が、滑らかに動く。


この前は、混乱の中だった。


今は違う。


訓練のために、ここにいる。


観測席から、直哉が言う。


「ようこそ、訓練初日だ」


リゼリアが続ける。


「まずは武装の展開から始めましょう」


訓練区画の空調音が、わずかに強まる。


整備員の足音が、遠くを横切る。

オペレーターがモニターに視線を落とす。


人の気配の中で、機体は静かに立っている。


悠真は、胸の奥の振動を確かめる。


守る側に立つと決めたのは、昨日だ。


だが、本当に立てるかどうかは――今日からだ。


「……お願いします」


ヴェスパーが、一歩踏み出した。




「まずは近接兵装だ」


直哉の声が、観測席から落ちる。


「スティンガーブレード。右腕に内蔵されている」


HUDの一角が強調表示される。


【STINGER BLADE 待機】


悠真は、右腕をゆっくりと持ち上げた。


『展開手順を補助します』


SARAの声が内側に響く。


右腕装甲のロックが、内部で解放される感覚。


金属が噛み合う小さな振動。


「……スティンガーブレード、展開」


小さく呟く。


次の瞬間、前腕部の装甲が左右に分割展開した。


内部から、細長い金属フレームが前方へスライドする。


空気が震える。


キィィィィン――


高周波振動が立ち上がる。


細身の刃が、淡く白く発光しながら形成された。


二メートルの機体に対して、やや長めのブレード。


蜂の針のように鋭い。


HUDに数値が並ぶ。


【出力 38%】

【振動安定率 61%】

【負荷係数 0.74】


「思ったより……軽い」


振ってみる。


空気が裂ける音。


だが、その直後。


刃の軌道がわずかにぶれる。


『出力上昇に伴い振動位相が不安定です』


「もう少し上げる」


無意識に言っていた。


【出力 52%】


振動音が一段高くなる。


再び振り抜く。


模擬ターゲット――厚い装甲パネルへ斬撃。


衝撃。


火花。


パネル表面が深く抉れる。


だが次の瞬間、右腕に強い反動が返る。


機体が半歩よろめく。


足裏のセンサーが急激に姿勢制御を行う。


『推奨出力を超過しています』


SARAの警告。


出力を上げれば強い。


だが、制御が追いつかない。


「……思ったより暴れるな」


観測席から、直哉が淡々と言う。


「威力だけなら十分だ。問題は制御だな」


リゼリアが補足する。


「振動刃は質量を削る兵装よ」

「だけど、あなたの精神波形が乱れると、位相も乱れる」


「精神って……」


「焦りね」


即答だった。


悠真は、息を整える。


さっき、無意識に“強く”しようとした。


次の戦いを想像していた。


間に合わせなきゃ、と。


その焦りが、数値に出る。


HUDの振動安定率が、微妙に揺れている。


もう一度、深呼吸。


出力を下げる。


【出力 35%】

【安定率 82%】


振動音が落ち着く。


今度は、ゆっくりと構える。


ターゲットへ一歩。


斬る。


鋭い閃光。


パネルが、綺麗に切断される。


断面は滑らかだ。


反動も最小限。


姿勢は崩れない。


『安定しています』


SARAの声。


悠真は、刃先を見つめる。


これで、あの黒鉄の装甲を抉つ。


守るための刃。


だが同時に、破壊の刃でもある。


ほんの一瞬、躊躇が胸をよぎる。


自分は、本当にこれを振るう側に立つのか。


昨日、決めたはずだ。


逃げない、と。


悠真は、刃をゆっくりと構え直す。


「……もう一回」


観測席の直哉が、わずかに口元を上げる。


「いいな。まずは慣れろ」


訓練用ターゲットが、再配置される。


悠真は、足を踏み出す。


今度は焦らない。


振動音が、静かに、鋭く響いた。


キィィィィン――


振動音が、訓練区画に何度も響く。


斬撃。


火花。


装甲パネルの断面が、滑らかに切り裂かれていく。


最初の数回は、反動に体勢を崩した。

出力を上げすぎ、刃がぶれた。

振動位相が乱れ、SARAの警告が入った。


だが。


「もう一度」


悠真は、繰り返した。


呼吸を整える。


踏み込みの角度を修正する。


振り抜きの軌道を意識する。


【出力 40%】

【安定率 79%】


もう一度。


【出力 43%】

【安定率 86%】


刃は、以前ほど暴れない。


右腕の内部駆動が、身体感覚と噛み合ってくる。


二時間。


同じ動作を、何十回も繰り返した。


縦斬り。

横薙ぎ。

突き。


突きは、最初に苦戦した。


直線軌道でわずかにぶれる。


だが、肩の回転角を意識し、足裏の荷重配分を調整することで安定していく。


『振動位相、安定域へ移行』


SARAの声は、もう警告ではない。


数値が整っていく。


【出力 48%】

【安定率 93%】

【負荷係数 0.61】


ターゲットへ、滑らかな一閃。


装甲パネルが、抵抗なく分断される。


反動は、ほとんどない。


機体は微動だにしない。


観測席から、直哉が言う。


「ようやく刃を振れるようになってきたな。さっきまでは振られてたぞ」


悠真は、ゆっくりと刃を下げる。


振動音が、静かに収束する。


前腕装甲が閉じ、ブレードが格納される。


カチ、と内部ロック音。


右腕を握る。


金属の感覚が、もう違和感ではない。


完全に自分の腕とは言えない。


だが、借り物でもない。


「……いけます」


息は乱れていない。


精神も、揺れていない。


焦らなければ、制御できる。


リゼリアが、端末から視線を上げる。


「近接戦闘出力、実用域に到達しています」


淡い評価。


だが、十分だ。


二時間前の数値とは、明らかに違う。


守るための刃。


破壊の道具。


その両方を受け入れた上で、振るえるようになった。


悠真は、静かに頷く。


「次に、いきましょう」


リゼリアの容赦ない一言。


訓練は、まだ終わらない。

いつもありがとうございます。


面白いと思っていただけたら、

★★★★★評価・ブックマークで応援していただけると嬉しいです。


本作は毎日更新中です。

明日もお待ちしています。


現在、別作品として

『不遇スキル【球術】の俺は、均形鍛冶の少女とダンジョンを攻略する』

というダンジョンファンタジーも連載しています。


意味不明と言われたスキル【球術】で戦う主人公と、鍛冶職の少女がダンジョンを攻略していく物語です。


もしよろしければ、そちらも覗いていただけると嬉しいです。

今後ともよろしくお願いします。

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