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魂融合機兵ヴェスパー《HIVE-01》  作者: 昼ライス
Season 1 ~ヒーロー誕生~

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第19話 ネクタルレイ

毎日20時投稿

夜の都市。


ベータ型は進み続けていた。


五十メートルの巨体が、ゆっくりと街の奥へ歩いていく。


その一歩ごとに地面が揺れた。


道路が砕け、建物の外壁が崩れる。


巨大な影が街の灯りを覆っている。


その前方に、ARC部隊が展開していた。


装甲車が数台、道路に並ぶ。


隊員たちが武器を構えている。


その中央に、神谷が立っていた。


目の前には、ベータ型。


五十メートルの怪物。


神谷は冷静にその巨体を見上げた。


無線が入る。


『ネクタルレイ準備開始』


ヴェスパーからの通信だった。


神谷が短く答える。


「了解」


その言葉を聞いた隊員の一人が言う。


「司令」


「本当にやるんですか」


神谷は視線を前に向けたまま言う。


「やる」


そして続ける。


「二十秒だ」


ベータ型が一歩踏み出す。


地面が揺れる。


その巨体が、確実にこちらへ向かってきている。


神谷が言う。


「全隊」


短く命じる。


「目標、ベータ型」


隊員たちが武器を構える。


装甲車のランチャーが上がる。


照準。


巨大な頭部。


神谷の声が静かに響く。


「撃て」


次の瞬間。


ミサイルが一斉に発射された。


夜空を切り裂き、弾頭がベータ型へ向かう。


直撃。


爆発。


巨大な火球が怪物の体を包む。


衝撃波が街を揺らす。


煙が立ちこめる。


しかし。


その奥から、重い音が響いた。


ズシン。


ズシン。


煙を押し分けるように、ベータ型が姿を現す。


止まっていない。


悠然と歩き続けている。


隊員が呟く。


「……効いてない」


神谷は静かに言った。


「構わん」


ベータ型がさらに近づく。


巨大な脚が持ち上がる。


その足が、道路へ落ちた。


――轟音。


コンクリートが砕ける。


衝撃が装甲車を揺らした。


神谷が言う。


「まだだ」


そして通信を開く。


「ヴェスパー」


「残り時間は」


SARAの声が返る。


『ネクタルレイ準備中』


『残り十五秒』


神谷はベータ型を見上げた。


巨大な怪物が、目の前まで迫っている。


神谷が言う。


「全隊」


低く命じる。


「二十秒だ」


そして続けた。


「足止めする」


その声には、迷いがなかった。




ヴェスパーは動かなかった。


街路の中央にてホバリングし、巨大な怪物を見上げている。


二メートルの機体。


その視界いっぱいに、五十メートルの影が広がっていた。


だが、今は動けない。


SARAの声が静かに響く。


『ネクタルレイ発射準備中』


『マナ充填を開始します』


その瞬間。


ヴェスパーの周囲へ、六機のドローンが展開した。


蜂型ドローン。


黄色い機体の背部から飛び出し、空中へ広がる。


六つの光点。


それぞれが位置についた。


SARAが続ける。


『マナリカバリ魔法陣形成開始』


六角形に配置されたドローンの先端から光が伸びる。


空中に、幾何学模様の線が描かれていく。


その内部にさらに細かい紋様が広がる。


巨大な魔法陣。


夜空に浮かび上がる光の図形だった。


悠真はその中心で、じっと立っている。


ヴェスパーは完全静止。


一歩も動かない。


SARAが言う。


『マナ吸収開始』


『大気中マナを収束します』


魔法陣が淡く輝き始める。


光が少しずつ強くなる。


悠真が小さく呟いた。


「頼む……」


視線の先では、ARCがベータ型と戦っている。


ミサイルが爆発する。


装甲車が走る。


巨大な怪物が街を踏み潰していく。


だが。


ヴェスパーは動けない。


動けば、魔法陣が崩れる。


SARAが報告する。


『マナ充填率、二十パーセント』


悠真が息を吐く。


「まだか……」


『ネクタルレイ発射まで』


一瞬、間があく。


『残り十秒』


夜の都市に、巨大な魔法陣の光が広がっていった。




ベータ型は進み続けていた。


ARCのミサイルが何発も命中する。


爆発。


火球。


煙。


しかし、その巨体は止まらない。


ズシン。


ズシン。


五十メートルの怪物が、都市の中を進んでいく。


神谷が叫ぶ。


「次弾装填!」


ARCの装甲車が移動する。


ランチャーが再び上がる。


ミサイルが発射された。


直撃。


巨大な爆発がベータ型の頭部を包む。


だが。


煙の中から、巨大な影が現れる。


ベータ型のモノアイが赤く光った。


その視線が――


ゆっくりと動く。


神谷が気づいた。


「……まずい」


モノアイの先。


そこには、街路の中央にいる黄色い機体。


ヴェスパー。


完全に静止したまま、巨大な魔法陣の中心に立っている。


空中には六機のドローン。


その光が夜空に魔法陣を描いていた。


ベータ型が、ゆっくりと向きを変える。


巨大な体が軋む。


装甲が擦れる音。


「オォォン……」


次の瞬間。


ベータ型が歩き出した。


その進行方向は――


ヴェスパー。


神谷が無線を開く。


「ヴェスパー!」


悠真が答える。


『わかってます!』


視界の向こう。


五十メートルの怪物が、まっすぐこちらへ歩いてくる。


悠真は歯を食いしばる。


「……来た」


SARAが報告する。


『マナ充填率、六十パーセント』


『ネクタルレイ発射まで』


『残り八秒』


ベータ型の脚が持ち上がる。


ズシン。


地面が揺れる。


その巨体は、確実にヴェスパーへ近づいていた。


悠真は動かない。


動けない。


巨大な影が、ヴェスパーの上へ覆いかぶさる。


悠真が小さく呟いた。


「……頼む」


ベータ型が、さらに一歩踏み出した。




ベータ型の影が、ヴェスパーの上へ落ちた。


あと数歩。


それだけでヴェスパーに届く距離。


神谷はその光景を見ていた。


五十メートルの怪物が、夜の街を踏み潰しながら進んでいる。


ヴェスパーは動かない。


魔法陣が空中に広がり、光が集まっている。


神谷は理解した。


準備中だ。


今、動けば。


すべてが無駄になる。


無線が入る。


『残り七秒』


SARAの声だった。


神谷は短く息を吐いた。


そして言う。


「全車、遠隔操作に切り替えろ」


神谷が続ける。


「突入準備」


隊員の一人が端末を操作する。


装甲車のエンジンが唸った。


無人の車両がゆっくりと動き出す。


神谷が言う。


「前進」


次の瞬間。


装甲車が一斉に加速した。


巨大な怪物へ向かって。


ベータ型が振り向く。


赤いモノアイが、突進してくる車両を捉える。


その瞬間。


装甲車が脚部へ突っ込んだ。


衝突。


金属音。


そして。


爆発。


車体に搭載された魔導弾頭が炸裂する。


火球が上がる。


衝撃が脚部装甲を揺らす。


ベータ型の動きが、わずかに止まった。


ほんの一瞬。


無線が響く。


『残り三秒』


神谷は炎の向こうを見ていた。


巨大な怪物が、再び動こうとしている。


だが。


もう十分だった。




SARAの声が響く。


『マナ充填率、九十五パーセント』


悠真は前を見据えていた。


ヴェスパーは完全静止。


周囲には六機のドローン。


空中に広がる巨大な魔法陣。


光がさらに強くなる。


SARAが告げる。


『残り二秒』


ベータ型が再び動く。


巨大な脚が持ち上がる。


ヴェスパーを踏みつけようとする。


その瞬間。


SARAが言った。


『マナ充填完了』


悠真が叫ぶ。


「撃て!」


空中の魔法陣が、閃光を放った。


次の瞬間。


ヴェスパーの前方に、巨大な光が生まれる。


それは一瞬で収束し――


放たれた。


ネクタルレイ。


柱のような光が、夜の街を貫く。


眩い閃光。


圧倒的なエネルギーが一直線に走る。


光の奔流が、ベータ型へ直撃した。


装甲に命中。


極厚の装甲板が、白く焼ける。


そして。


光は止まらない。


貫通。


ベータ型の巨体を、真っ直ぐに撃ち抜いた。


内部でエネルギーが爆発する。


赤いモノアイが激しく点滅する。


巨大な体が揺れる。


駆動音が乱れた。


「オォォォ――」


低い音が歪む。


ネクタルレイの光柱が、数秒間ベータ型を貫き続ける。


やがて。


光が消えた。


静寂。


ベータ型は動かない。


五十メートルの巨体が、その場で停止していた。


ネクタルレイの光が消えた。


夜の街に、静寂が戻る。


ヴェスパーの前方。


ベータ型は、動かない。


五十メートルの巨体が、その場で止まっていた。


赤いモノアイが、弱く点滅する。


チカッ。


チカッ。


そして。


完全に消えた。


低い駆動音が途切れる。


「オォ……」


かすれた音が、わずかに漏れた。


次の瞬間。


ベータ型の装甲が、崩れ始めた。


最初は小さな亀裂だった。


胸部の装甲。


そこから、細かい粒子がこぼれる。


さらさらと。


黒い砂のような粒子が、地面へ落ちていく。


悠真が息を呑む。


「……」


亀裂が広がる。


巨大な装甲板が、音もなく崩れていく。


脚部。


胴体。


頭部。


ベータ型の巨体は、次々と崩壊していった。


まるで砂の城が崩れるように。


五十メートルの怪物が、静かに崩れていく。


地面へ降り積もる黒い粒子。


やがて。


頭部が崩れ落ちた。


赤いモノアイも、粒子になって消える。


最後に残っていた胴体も、ゆっくりと崩壊した。


巨大な怪物は、完全に形を失う。


そこに残ったのは――


黒い砂の山だけだった。


夜の街に、静かな風が吹く。


さらさらと粒子が流れる。


悠真はそれを見ていた。


「……終わった」


SARAの声が響く。


『敵反応、消失』


『ベータ型、活動停止を確認』


『戦闘終了』


夜の街に、静けさが戻っていた。


先ほどまでの戦闘が嘘のようだった。


崩れた倉庫。


倒れた街灯。


割れたアスファルト。


その中心に、黒い砂の山が残っている。


ベータ型だったもの。


五十メートルの怪物は、完全に崩壊していた。


さらさらと風に流れる粒子。


SARAの声が静かに響く。


『周辺に敵反応なし』


『戦闘区域、安全を確認』


悠真は大きく息を吐いた。


「……はぁ」


体の力が抜ける。


ヴェスパーの装甲のあちこちが傷ついていた。


左腕の外装は割れ、各部に焦げ跡が残っている。


それでも、立っている。


悠真は小さく呟いた。


「なんとか、なったか……」


その時。


道路の向こうから、装甲車が近づいてきた。


ARCだった。


車両がゆっくりと停止する。


ドアが開く。


数人の隊員が降りた。


その中央に、神谷がいた。


神谷はゆっくりと歩いてくる。


視線は、ヴェスパーへ向いていた。


黄色い人影。


二メートルの機体。


巨大な怪物を倒した存在。


神谷は数メートルの距離で足を止めた。


夜風が静かに吹く。


しばらく、互いに言葉はない。


神谷が小さく言った。


「……見事だ」


短い言葉だった。


だが、その声には確かな敬意があった。


悠真は何も答えない。


ただ、その場に立っている。


ヴェスパーは無言のままだ。


神谷はそれ以上、何も聞かなかった。


正体を詮索することもない。


ただ、目の前の機体を見ていた。


しばらくして。


ヴェスパーの周囲に、六機のドローンが展開する。


空中に光が走る。


魔法陣。


神谷がそれを見上げた。


青白い光が、ゆっくりと広がる。


SARAの声。


『転移準備完了』


悠真が小さく言う。


「帰ろう」


次の瞬間。


魔法陣が閃いた。


光がヴェスパーを包み込む。


そして。


黄色い人影は、光の中へ消えた。


その場に残ったのは、静かな夜の街だけだった。


神谷は空を見上げる。


何もない夜空。


神谷は小さく息を吐いた。


いつもありがとうございます。


面白いと思っていただけたら、

★★★★★評価・ブックマークで応援していただけると嬉しいです。


本作は毎日更新中です。

明日もお待ちしています。


現在、別作品として

『不遇スキル【球術】の俺は、均形鍛冶の少女とダンジョンを攻略する』

というダンジョンファンタジーも連載しています。


意味不明と言われたスキル【球術】で戦う主人公と、鍛冶職の少女がダンジョンを攻略していく物語です。


もしよろしければ、そちらも覗いていただけると嬉しいです。

今後ともよろしくお願いします。

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