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魂融合機兵ヴェスパー《HIVE-01》  作者: 昼ライス
Season 1 ~ヒーロー誕生~

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12/16

第12話 観測対象

毎日20時投稿

東北沿岸の港町。


戦闘が終わってから、まだ一時間も経っていなかった。


海風が吹き、瓦礫の間を抜けていく。


港の入口には、自衛隊の車両が列を作っていた。


装甲車。


輸送トラック。


そして戦車。


周囲には規制線が張られ、警察が一般人を遠ざけている。


「この先は立入禁止です!」


「下がってください!」


野次馬たちが遠巻きに港の様子を見ていた。


だがその視線の先。


埠頭の中央には――


巨大な戦闘跡が残っていた。


アスファルトが割れ、道路には深い亀裂が走っている。


建物の壁が崩れ、コンテナが横倒しになっていた。


明らかに、何か巨大なものが暴れた跡だった。


だが。


肝心の「それ」は、どこにもなかった。


兵士の一人が周囲を見回す。


「……確かに、ここで倒れたんですよね」


隣の隊員が頷く。


「ああ」


「ドローン映像でも確認してる」


二十メートル級の未知生命体。


ゴリラのような姿をした巨大な侵略体。


それがここで倒れた。


そのはずだった。


兵士は地面を指さす。


そこには、黒い砂のようなものが薄く広がっていた。


「これ……」


隊員がしゃがみ込み、手袋越しに触れる。


粒子は驚くほど細かい。


まるで焼けた砂のようだ。


指でつまむと、さらさらと崩れる。


「さっきまでは」


兵士が言う。


「まだ形があったんだ」


巨大な腕。


黒い装甲。


倒れた巨体。


だがそれは、ゆっくりと崩れ始めた。


装甲が崩れ。


構造が崩壊し。


やがて砂のような粒子になった。


そして――


風に流され、消えていった。


隊員が空を見上げる。


「……消えた」


そこへ新しい車両が到着する。


防衛省の科学調査班だった。


白い防護服を着た研究員が降りてくる。


「状況は?」


隊長が答える。


「対象は完全に崩壊」


「残骸は確認できません」


研究員は眉をひそめた。


「崩壊?」


兵士が地面の粒子を指さす。


「これです」


研究員は慎重にそれを採取する。


小さな容器に入れ、ライトを当てる。


黒い粒子がわずかに光を反射した。


研究員が低く呟く。


「……分解?」


誰も答えない。


遠くでヘリコプターの音が響く。


報道ヘリが上空を旋回している。


兵士の一人が、戦闘跡を見回した。


巨大な足跡。


砲撃のクレーター。


そして。


地面に深く刻まれた、一本の細い傷。


鋭い刃の跡。


二メートルほどの機体が残した痕跡だった。


兵士が小さく言う。


「……あの黄色いやつ」


「結局、あいつが倒したんだよな」


隊長はしばらく黙っていた。


そして、短く答えた。


「そうだ」


海風が吹く。


黒い粒子が、ゆっくりと空へ舞い上がる。


それはやがて、どこかへ消えていった。


まるで――


最初から存在しなかったかのように。




東京、防衛省。


地下会議室。


壁一面の大型モニターには、東北沿岸での戦闘映像が映し出されていた。


砕けた港湾施設。


二十メートル級の侵略体。


そして。


その足元を走る、黄色い人影。


映像が一時停止する。


会議室には、防衛省幹部、内閣官房の関係者、自衛隊の将官たちが並んでいた。


重い沈黙が続く。


やがて、防衛政策局の幹部が口を開いた。


「……問題は、この機体です」


モニターの黄色い機体を指す。


「所属不明」


「技術不明」


「目的不明」


別の幹部が言う。


「瞬間的な位置移動が確認されています」


「転移のようにも見える」


「我が国の技術ではありません」


別の将官が低く言った。


「米軍でも不可能でしょう」


会議室がざわめく。


「では、どこの兵器だ」


「中国か?」


「あるいは民間技術か?」


議論はまとまらない。


その時、会議の端に座っていた神谷一佐へ視線が向いた。


現地部隊の状況を最も把握している人物だからだ。


一人の幹部が言う。


「現場の意見を聞きましょう」


「神谷一佐」


神谷一佐は背筋を伸ばした。


「はい」


「現地映像を確認した限りでは、いかが見えましたか」


神谷一佐は一瞬だけ言葉を選ぶ。


そして静かに答えた。


「断定はできませんが……」


会議室の視線が集まる。


神谷一佐はモニターを見る。


そこには、住宅地を守る結界の映像が止まっていた。


「少なくとも、我々に対する攻撃行動は確認されておりません」


「また、当該機体は」


言葉を選びながら説明する。


「住民がいる方向へ侵略体が進行するのを阻止していました」


幹部が聞く。


「つまり?」


神谷一佐はわずかに間を置いた。


「現場の感覚としては」


「敵対行動は確認されておりません」


会議室が静かになる。


幹部の一人が言う。


「味方ということですか?」


神谷一佐は首を振った。


「そこまでは判断できません」


「ですが……」


モニターを見つめたまま、言葉を続ける。


「少なくとも」


「市街地を守る行動を取っていたのは事実です」


再び沈黙が落ちる。


モニターには、黄色い機体が光に包まれ消える瞬間が映っていた。


幹部の一人が小さく言った。


「……謎のヒーロー、ですか」


誰も笑わなかった。


会議室の空気は、むしろ重くなっていた。




その日の夜。


日本中のテレビが、同じ映像を流していた。


ニューススタジオ。


キャスターの背後には、港町の空撮映像が映っている。


「本日、東北地方の沿岸部で確認された巨大侵略体について、新たな映像が公開されました」


画面が切り替わる。


ドローン映像。


瓦礫の港。


巨大な侵略体。


そして――


その足元を走る、黄色い人影。


「この映像に映っている人型機体ですが、現在のところ所属は不明です」


「政府は『詳細を調査中』としています」


映像が再生される。


巨大な拳。


住宅地。


そして。


それを受け止める、光の六角陣。


スタジオが一瞬静かになる。


キャスターが続けた。


「この防御フィールドのような現象についても、現在のところ技術的な説明はされていません」


別のコメンテーターが言う。


「自衛隊の新兵器ではないんですか?」


「それにしては、あまりにも……」


言葉を探す。


「未来的ですね」


別の番組。


ワイドショー。


画面いっぱいに、黄色い機体が映し出されている。


「これが例の“黄色いロボット”です!」


「SNSではすでに話題沸騰です!」


スタジオのモニターに、スマートフォンの画面が表示される。


動画投稿サイト。


戦闘の映像。


再生回数は、すでに数百万回を超えていた。


コメントが流れる。


「なにこれ」


「日本のヒーロー?」


「アニメみたい」


「いや、CGじゃないの?」


「自衛隊の秘密兵器?」


街のインタビュー。


若い学生がスマートフォンを見せる。


「これですこれ!」


「黄色いロボ!」


友人が笑う。


「蜂みたいですよね」


別の通行人が言う。


「でも、守ってたよね」


「街」


その言葉に、レポーターが頷く。


「確かに映像では、この機体が住宅地への攻撃を防いでいます」


ニュース映像が再び流れる。


巨大な侵略体。


そして。


その前に立つ、小さな黄色い機体。


画面の字幕。


『謎の黄色い機体』


その映像は、海を越えていた。


海外ニュース。


英語のキャスターが言う。


“Japan reports a mysterious yellow humanoid machine.”


画面には同じ映像。


巨大生物。


黄色い機体。


そして光の防御壁。


別の局。


ヨーロッパのニュース番組。


“Some are already calling it Japan's guardian.”


字幕。


「日本の守護者?」


世界中の画面に、同じ映像が流れていた。


巨大な侵略体。


そして。


それに立ち向かう、小さな黄色い人影。


まだ誰も、その名を知らない。


だが確実に。


その存在は、世界へと広がり始めていた。




東京湾岸地下。


HIVEの格納庫は、静かな機械音に満ちていた。


中央に立っているのは、黄色い人型機体――ヴェスパー。


整備用アームがゆっくりと動き、装甲表面をスキャンしている。


背部ユニットの周囲では、小型整備ドローンが行き来していた。


格納庫の上部デッキ。


手すりにもたれながら、悠真はその様子を見下ろしている。


さっきまで自分の身体だった機体。


今はただ、静かに立っているだけだ。


不思議な感覚だった。


隣では、リゼリアがタブレット端末を操作している。


画面には、先ほどの戦闘ログが並んでいた。


彼女は数値を確認しながら、小さく呟く。


「……面白いわね」


悠真が顔を向ける。


「何か問題がありましたか?」


リゼリアは首を振る。


「いいえ、むしろ逆」


指先でデータを拡大する。


「スワームシールド」


「訓練の時よりも、実戦でのほうがより安定してる」


SARAの声が静かに響いた。


『実戦環境による補正と推定されます』


整備アームがヴェスパーの肩部装甲を軽く叩く。


内部構造の点検が進んでいた。


整備台の上には、六機の蜂型ドローンが並んでいる。


戦闘後のメンテナンス中だ。


悠真はしばらくヴェスパーを見つめていたが、やがて口を開いた。


「……あの」


「かなり見られていましたよね」


リゼリアは少しだけ笑った。


「ええ」


あっさりと答える。


「当然よ」


肩をすくめる。


「二十メートル級の開拓獣と戦ったのよ?」


「隠せると思う方が無理」


悠真は苦笑する。


確かにその通りだ。


SARAが報告する。


『現在、東北戦闘の映像がインターネット上で拡散しています』


悠真は額を押さえた。


「やっぱりですか……」


リゼリアは端末を操作しながら言う。


「ニュースも騒いでるでしょうね」


「謎の黄色いロボット、とか」


悠真はため息をつく。


「目立ちすぎましたね」


リゼリアは軽く笑った。


「ヒーローなんて、そんなものよ」


悠真は少し黙る。


そして、ヴェスパーを見上げた。


巨大な怪物。


振り下ろされる拳。


あの時の光景が頭をよぎる。


「……でも」


「守れました」


小さく言う。


SARAが答えた。


『はい』


『市街地被害は最小限に抑えられました』


その言葉に、悠真は少しだけ肩の力を抜いた。


その時。


リゼリアの視線が端末に固定される。


「……やっぱりね」


悠真が振り向く。


「何ですか?」


リゼリアは画面を示す。


そこには、開拓獣の崩壊データが表示されていた。


戦闘終了後の挙動。


粒子化の記録。


リゼリアが言う。


「完全に自己崩壊してる」


悠真は眉をひそめる。


「自己崩壊……ですか?」


「ええ」


リゼリアは頷く。


「開拓獣はね」


「倒されると、技術を残さないように分解されるの」


端末の画面には、粒子化のグラフが並んでいる。


「侵略文明のセキュリティみたいなものね」


悠真は少し黙った。


そして呟く。


「……徹底してますね」


リゼリアは静かに言った。


「ええ」


「だからこそ」


画面を閉じる。


「この戦争は簡単には終わらない」


格納庫の中央で。


ヴェスパーが、静かに立っていた。






暗い空間。


無数の金属構造が、幾何学的に連なっている。


柱。


壁。


床。


そのすべてが、滑らかな銀色の素材で構成されていた。


どこからともなく、淡い光が満ちている。


その中央に、一体の存在が立っていた。


人型。


だが、人間ではない。


滑らかな外装。


継ぎ目のほとんどない金属構造。


静かに、そこに立っている。


その前方の空間に、光が浮かび上がった。


映像。


東北沿岸。


港町の戦闘記録。


巨大な侵略個体。


そして。


その足元を走る、黄色い機体。


映像が拡大される。


二メートルほどの人型機体。


巨大個体に対し、単独で戦闘を行う存在。


その瞬間。


空中に六つの光点。


六角形の結界。


巨大な拳が、それに阻まれる。


映像が停止する。


静寂。


やがて、その存在の視覚素子が淡く光った。


「……興味深い」


低い声。


感情はほとんどない。


映像が分解される。


戦闘軌跡。


エネルギー反応。


運動データ。


膨大な情報が高速で解析されていく。


表示される評価。


【対象惑星:地球】

【文明評価:低文明】


数秒の沈黙。


そして。


新しい項目が追加された。


【未知個体】


画面に映るのは、黄色い機体。


巨大な侵略個体を止めた存在。


さらに評価が更新される。


【観測対象】


その存在は、わずかに首を傾けた。


人間の動作に、ほんの少し似ている。


「文明単位では脅威ではない」


静かな声。


「だが」


映像が再生される。


六角形の結界。


巨大な拳。


衝突。


光。


再び停止。


そして表示が変わる。


【危険度評価 一段階、上昇】


その存在は、短く言った。


「観測を継続する」


映像が消える。


空間に、再び静寂が戻った。


ただ一つ。


黄色い機体のデータだけが、記録として残されていた。


いつもありがとうございます。


面白いと思っていただけたら、

★★★★★評価・ブックマークで応援していただけると嬉しいです。


本作は毎日更新中です。

明日もお待ちしています。


現在、別作品として

『不遇スキル【球術】の俺は、均形鍛冶の少女とダンジョンを攻略する』

というダンジョンファンタジーも連載しています。


意味不明と言われたスキル【球術】で戦う主人公と、鍛冶職の少女がダンジョンを攻略していく物語です。


もしよろしければ、そちらも覗いていただけると嬉しいです。

今後ともよろしくお願いします。

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