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エピローグ

 机に向かって、数学の青チャートと睨めっこしている女子と、それを見つめる俺。窓からは夕焼けの光線が差し込んでいる。青春否定部と書かれたホワイトボードがある教室の中。皮肉にも青春な光景が映し出されている。


 しばし言葉を選ぶように、俺は無言で彼女のことを見つめる。彼女がノートにペンを走らせる音だけが、教室内に音として生息している。


「……なんだよ?」


 視線に気づいた彼女は手を止め、訝しげに、ともすれば不満げに俺を、そのクリアブルーの瞳で見返してきた。それを合図として、俺は眼前の校則違反のオンパレード女子、犬島藁姫に宣言をする。


「……お前には借りができた。だから、その……」


 言葉を発するにつれ、心臓の鼓動が速くなって、次に考えていた言葉が出てこなくなる。口は俺の言うことを聞かない。伝えたいことは確かにあるのに。


 視線をあちらこちらに泳がせていると、彼女はうざったそうに再度口を開いた。


「なに言い淀んでんだよ? 言いたいことがあるならはっきり言えボンクラ」


 出会ってからまだ四日だというのにこの刺々しい口調も慣れてしまった。いやでもボンクラ呼ばわりはさすがに酷くないか?


 さっきまで緊張していた自分がバカみたいだ。肩の力を抜いたら、すんなり言葉が出てきた。


「……せっかく人が感謝しようとしてんのに、あんさんも空気が読めないねえ」


「はあ? 空気が読めねえのはてめえもだろ。空気どころか英語及び諸外国の言語すらまともに読めねえくせして」


 一つ棘を放つたびに十倍になって返ってくる。なんで俺はこんな奴に感謝をしようとしていたんだろう。


 でも、こんなふうに配慮なく振る舞える人でなければ、まだ仮とはいえこんな部活を創設するなんてできない。どれだけ貶されようと、助けてもらったからその恩は返さなければならない。


「……まあいいや。いずれ借りは返すさ」


 ようやく言えた濃度の薄い感謝の言葉に、彼女は眉ひとつ動かさずに。


「金利はトゴな。ぜってえ返せよ債務者」


 そうして、俺は心の中で強く思う。


 ……やっぱり返さなくてもいいかもしれない。


 これからこの部屋で、彼女の思う青春の否定を行なっていく。ワクワクするような反面、俺は今から面倒くさそうだな、と内心で笑ったのだった。

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