恨みは水に流してあげる。二人目 斎藤莉子その後1(ざまぁ)
◆斎藤莉子の視点
…………あれ?
見知った天井が見える。
ここって……私の部屋?
起き上がり周りを見渡すと棚に並ぶマンガ本、机の上にはお気に入りのウサギのぬいぐるみ。ここは間違いなく私の部屋だ。私は自分の部屋でベットに寝ていた。
「なんで、ワタシは確か…うっ!」
思い出すだけで震えが止まらない。
確か……死んだはずの陽葵に倉庫に呼び出されて、ミッ…耳を切られて、徒競走をすることになって、ワタシ脚を…………………
震える声でゆっくりと布団を退かし脚を確認する。
「え!?………あれ…あれれ…脚があれ!?」
私の脚はそこにちゃんとあった。
私は脚を触って確認する。
切られた傷跡はなく普通に動かすことが出来る。なんとなく重い気もするけど、寝起きだし仕方がないか。
「あれって夢だったの?もしそうなら最悪の悪夢だわ」
陽葵に仕返しされたあの恐怖、リアルだった。でも徐々に落ち着きを取り戻し身体の震えが治まっていく。
「夢だった。そう夢なのよ!はぁ〜私バカだわ。なんて夢見ているのよ!はぁ〜お腹すいた!ごはん食べよ〜っと!」
私は部屋を出て階段を降りお母さんが作るあったかい朝ごはんを食べに行く。ご飯を食べてお腹が膨れると完全に落ち着きを取り戻す。
「ねぇ!お母さん、私って昨日どうやって帰って来たの?」
「はぁ?あんたどうしたの。訳がわからないこと言って」
「んっん〜、それはそうなんだけど………」
アレが夢だとして記憶が欠落してしているんだよね。
「別に普通に帰ってきたわよ。ただちょっと遅すぎよ。高校生だからって遊び回るのもほどほどにしなさい!大会に響いてらどうするの!」
お母さんの話によると、私は夜の10時過ぎに帰って来たらしい。今日は疲れたからすぐ寝たいと言って夕食も食べずお風呂にも入らず部屋に行ったとのこと。おかしい?そんなこと今まで一度も言ったことはない。それにやっぱり覚えていない。アレって本当に………
「ほら!何しているの莉子!早く行かないと遅刻するわよ!」
「あ!ホントじゃん、まだ着替えもしてないのに!」
私は慌てて支度をして家を飛び出して行った。
そしてそんな姿を見ている二つの影が屋根の上に居ることを私は知らなかった。
…………▽
「あの感じだと、夢だとでも思っていそうだな」
「うん、そうだね!作戦通りだよミズチさん」
屋根の上から斎藤莉子を見てニヤリと笑う陽葵。
「それでこの後どうする?」
「ん?そうだね!大会まで待つよ!約束したし、最高の舞台を整えてあげないとね!」
陽葵の顔が醜悪な顔に変わる。魂が剥き出しになったことで感情がハッキリと表面に出ている。これは相当悪いことを考えているようだ。ミズチは昨日のことを思い出した。
………………▽
◆少し時を遡り勝負が終わった直後。
ミズチの視点
「お前さん、何をしておる?」
陽葵は斎藤莉子に近づき何かゴソゴソとやっている。
「ん?ちょっと待って、初めてだから上手くいかない。集中させてミズチさん」
私は陽葵が何をやっているのか気になりニョロニョロと這って近づく。
なぁ!?……なんでそんなことを?
私は驚く。
陽葵は斎藤莉子の脚を治していた。
「んーー……ムズカシイ〜上手くくっつかない〜!」
陽葵は苦戦していた。脚が逆に付いている。間違え過ぎだろ。
「アチャ!また失敗、やり直さないと」
「ザクッ、ブシュー」
陽葵は手刀で再び脚を切っている。周りに血飛沫が飛び散る。普通の人が見たらトラウマ級の惨劇行為だ。しかしやっている本人は何事もない顔、陽葵はどんどん人間離れしていた。
脚を治すのをやり直すこと八回、やっと真っすぐに付いた。ちなみにこの後も耳も治したのだがワザと反対に付けて笑うという場面があり二回目で治すことが出来た。
「ふぅ〜疲れた!やっと全部終わったよ〜。ミズチさんお待たせ〜」
陽葵は笑顔で軽く手を挙げる。血飛沫が付けた顔で手を真っ赤に染めていなければ、きっとかなり可愛い姿なんだろうが、今はサイコパスのキチガイにしか見えない。
「お前さん………今度は何をするつもりだい?」
「エヘヘ、ヒミツ!でも少し教えてあげるね〜。もうすぐインターハイの全国大会があるんだ〜。もちろん斎藤さんも参加するよ!なんたって全国二位だからね。チョー自慢していた。だから応援に行くよ」
「はぁ?お前さん意味が分からんが……面白そうだ」
「うふふ、面白いよ〜ミズチさん楽しみにしていてね!」
この後、斎藤莉子を家に連れ帰るのだが、部屋に突っ込んで置くだけでは何かと怪しまれると思い、陽葵が斎藤莉子の姿に変身し母親の対応をしておく。
しかし、陽葵の力には驚かされる。変身のこともそうだが、斎藤莉子の怪我を治した時は驚きを通り越して理解が出来なくなっていた。私は水を操る力を与えただけだ。後で陽葵に聞いてみたが、「血だって水と同じ液体じゃん!似たようなもんだよ」と答えた。全然納得出来なかった。
ま〜良いか、この進化と言ってもいい成長、面白くなって来たわ!
私も陽葵のように醜悪な顔をしていた。




