恨みは水に流してあげる。三人目 佐々木楓その4
陽葵が神社の池で浮かんでいると、林の中からカサカサカサカサ、ニョロニョロとヘビが出て来た。
「ミズチさんおかえり〜」
「ただいま……お前さんは楽そうだな」
ミズチは不満そう言う。
ミズチはボロボロで疲れた表情をしていた。
「まったくこっちが苦労していると言うのに……」
「えーミズチさんが休んでいろって言ったんじゃん!文句言わないでよ〜」
「はぁ〜そうであったな。ただあまりにもリラックスしていて腹が立ったわ」
陽葵は池の淵に座るとミズチは池のボチャンと池に潜り水面から顔を出す。
「どうでしたかミズチさん、情報はそれなりに手に入りましたか?」
「もちろんだ。ただでは帰って来ぬ。状況は一気に悪くなったと言える。我々を見たからかは分からぬが屋敷の警戒が厳重になっておる。屋敷の周りには常に四人以上が見張りに居る」
「四人?大したことないじゃん!あんな大きな屋敷だよ。入りたい放題じゃん」
「そんなわけなかろ。その四人術者だ。鳥の式を操り怪しい者が居ないか監視しておる。その数百!おかしなことを少しでもすればすぐに捕捉される。それに忘れておるかもしれぬが屋敷には結界が張られているのだ。それを突破するのも難儀じゃ」
「あ!そっか、あんまり派手に結界を壊していたら見つかる。そうなると面倒だね!よ〜し!隠密で行こう。なんかテンション上がる〜」
「どこにテンションが上がるところがあった?ここは困るところだろ!のんびり楽観的、お前さんの良いところかも知れんが周りはツッコミ疲れしそうだな」
「もう!ミズチさんの意地ワル〜。でも任せてよ!侵入する方法は考えてあるから問題ないよ」
陽葵はポジティブに言う。
ミズチは少し呆れていたが、何か策があるとのことなので良しとする。
「そうか、それならばお前さんに任せよう。しかし問題は他にもある。二人、佐々木の傍に常に居るボディガード、この者達が危険だ。かなり強い」
「ミズチさんいくら強いって言っても今の私なら楽々倒せると思うんだけど、何か問題あるの?」
陽葵は軽く近くにある石に向かって手を振ると石が割れた。
「確かにただの人であれば、今のお前さんの敵ではないであろう」
「つまりただの人じゃないってこと?」
「そう言うことじゃ、アレは人ではないな。元は人であったのであろうが、『鬼』が取り憑いておる。すでに人としての自我は失われているであろう」
「鬼か……カッコいい!きっと強いんだ!見てみたいな」
陽葵が見当違いなことを言っている。
ミズチはなんかどうでも良くなった。
「ま〜お前さんのことだ。好きにせい。私は少し休む」
ミズチはそう言って池の中に潜って行った。
陽葵はバタンと後ろに倒れると目を瞑る。明日は佐々木さんが蓮を食べちゃう日、急がないと!佐々木をどう殺すか考え始めた。
………………▽
そしてその日が来た。
陽葵とミズチは蓮が屋敷に着く前に片付けるため早い時間から屋敷に向かっていた。
走る陽葵の肩に揺られながら神妙な顔でミズチは口を開いた。
「お前さん、本当に大丈夫であろうな。今回は私は何も聞いてはおらんからな」
「大丈夫だよ!私にドンと任せてよ!」
心配しかないが、陽葵は殺る時はやる女、意外とあっさり終わるかもしれない。ここはモチベーションを下げるようなことは言わず任せてみよう。
「うむ、分かった。お前さんがやりたいようにしなさい」
「うん、ありがとうミズチさん、あ!着いたよ」
「うむ、では任せたぞって!言っていいのか?いきなり不安なんだが」
着いたのは何の変哲もないない屋敷の近くの一軒家、まさか道に迷ったとかいわんだろうな。
「それじゃ〜行ってくるね!ミズチさん」
陽葵はミズチに突っ込まれるが気にせず台所の蛇口を捻り水を出した。流れる水に手を入れると身体を水に変え蛇口の中へ吸い込まれて行った。
「…………お前さん説明はせんか!」
ミズチは呆然と蛇口を見つめボヤく。
……………▽
陽葵の作戦、屋敷の周辺には結界やら術者の監視が居る。それならどうする?
陽葵考えた。人が入れないと思うところをわざわざ警戒することはないはず、今の私は水で出来ているからどんな狭いところでもあっさりと入れる。
どの家にも水道が繋がっていることに着目、屋敷の傍に建っている一軒家から侵入することにした。
水道の中はプールの滑り台のようで陽葵は楽しんでいた。しかし気配で屋敷に侵入したことが分かると一気に集中、周りに人が居なさそうな場所を探す。
「ここなら良いかな?」
キュッ…キュッ…キュッ。
蛇口から水が流れ、水は陽葵の姿に変わる。
周りを見るとたぶんお風呂なのが分かる。
「いいな〜佐々木さん、こんな大きなお風呂があるんだ」
陽葵は場違いなことを言っていた。
しかし普通の人なら同じように思うだろう。このお風呂は豪華絢爛ですごく広かった。学校の教室四個分くらいはあり天井や床が大理石で出来ている。装飾品には金がふんだんに使われておりキラキラして綺麗だ。
「ゆっくりお風呂入りたいな〜。ここ最近は池だもんね。温かいのも恋しいな〜。でも今は仕方ないか、さっさと行こー……ん?」
お風呂の扉が音を立て開き人が入って来た。
隠れるところはない。倒すか?それとも殺すか?
出て来た女性は不敵な笑みを浮かべ二人の男を連れていた。その者を見た陽葵は目を見開き驚く。
「お久し振りね陽葵さん歓迎するわ」
「やぁ!久し振り佐々木さん」
陽葵は驚き動揺している姿を見せてしまったが出来るだけそれを隠そうとフレンドリーに応える。
しかし内心では酷く混乱していた。
いくらなんでも見つかるのが早過ぎる。
補足され今こちらに向かって来た感じもしない。
待ち伏せ、なんでこの場所が分かったの?
「陽葵さんごめんなさいね。今日これから蓮さんが来られるの、だからあなたにはあまり構ってあげられないの、大人しく投降して頂けると助かるわ」
佐々木さんの傍に立っていたボディガードがこちらに向かって歩いて来た。私を捕まえるつもりね。
「先手必勝!」
陽葵は両腕を振り水の斬撃を飛ばす、触れれば人の身体などあっさりと切断するほど強い斬撃を、陽葵は一切容赦をしていなかった。
「パシャッ」水の斬撃は真っ二つな斬られ、その余波は壁にある大理石に大きな傷をつけた。ボディガードの男達は日本刀で防いだのだ。刀確かに恐ろしい凶器であるが、常人では今の斬撃は刀では防げない。男達は間違いなく普通ではなかった。
男達は恐ろしい速度で陽葵に接近すると刀を振り陽葵の両腕を切断した。痛みで叫び声を上げ倒れる陽葵。
「…………なんちゃって!」
切断された腕はガサガサと地面を這い移動男達の首に飛びつき鷲掴みにする。男達は腕を剥がそうとするが腕が水で出来ており上手く掴めない。
「ふぅ〜水球の中で寝てて」
陽葵の腕は再生し、男達を掴んでいた腕から大量の水が溢れ出し男達を水球に閉じ込める。
「あらあら、なかなかやるわね陽葵さん。まるで妖怪ね」
佐々木さんは口に手を当てて感心したように言う。
「佐々木さんヒドイな〜、そんなこと言う人は食べちゃうぞ〜………ねぇ!一つ聞いていい、佐々木さんもしかして私がここに来るの知ってた?」
陽葵は佐々木の余裕な姿を見て冷や汗を流し確信する。
「私ね占いが得意なの、今回は特に危険そうだったからしっかりと占ったわ。おかげで五人も使っちゃったけど、その価値はあったわね」
佐々木は何かブツブツと呪文を唱え始める。すると陽葵の身体に違和感が出始めた。
「うっ……なにこれ!?身体が溶けてる?」
陽葵の身体がポタポタと垂れ崩れ始める。
「あなたが水の化身になっていることも占いに出ていたわ。だからね。もちろん準備したわよ。私って昔から用意周到なの」
(嫌な予感が当たっちゃったか)
陽葵の身体は完全に崩れ剥き出しの魂になってしまう。もうこうなってしまうと陽葵には何も出来なかった。
水球に閉じ込められていた男達も解放され、陽葵は男達に腕を掴まれ別の部屋へと連れて行かれてしまった。




